日本では、国民年金制度というものがあります。20歳〜60歳のすべての人が加入し年金を納めなくてはいけません。
現役時代に一定の年金保険料を納め、老後に老齢年金を受け取ることができる公的制度です。
これまで老齢年金は、年金を25年以上納めていないと受給できない仕組みになっていました。
しかし、2017年より、受給資格期間が15年短縮され、10年にとなり、年金を受け取れる資格を持つ人が増えました。
10年に短縮されたことで何が変わったのか、そのメリット、デメリットについて確認していきたいと思います。
また、受給資格期間が10年に短縮されても、納付期間が足りない場合にはどうしたら良いかなどにも触れていきます。
目次
老齢年金の受給資格期間が10年に短縮されても喜べない?
受給資格期間が短縮されたことで、特に納付期間が10年以上25年未満だった人々など、年金を受給できる人が増えました。実に64万人の人に新たに受給資格を得ることになったため、これ自体は対象の人にとっては喜ばしいことです。
しかし、気をつけておきたいポイントもあります。
10年間の納付では老後の生活が苦しい
年金は自分が納めた額に応じて、老後に受け取れる金額が増えるようになっています。
受給資格期間が短縮されても、最低年数の10年しか納めなければ、当然受給ができる年金額は少なくなります。10年納付したからといって、25年以上長期にわたって納めている人と同じ額がもらえるかといえば、そうではないのです。
10年の納付だと、国民年金のみの場合年間約19万7000円になります。月に1万6,000円ちょっとの受給だと、それだけで生活を賄うのは難しいため、別に老後資金を準備しておく必要があります。
遺族年金は変わらず25年
国民年金制度によって受給できるのは、老齢年金だけではありません。世帯の中で稼ぎ頭だった人が亡くなった時に、遺族が受給できる遺族年金という仕組みがあります。
遺族年金の場合、10年間の年金の納付では、万が一のときに遺族がお金を受け取ることができません。遺族年金の受給資格期間は、これまで通り25年のままとなっていますので、注意が必要です。
いつから年金の受給資格期間が変更された?
以前から、年金未納者は年金制度の課題の一つとして認識されてきました。
より多くの人に年金を納めてもらうためにも、受給資格期間を短縮することが有効であると考えられていました。
もともとは2015年に消費税を10%に増税し、同じタイミングで年金の受給資格期間を短くするという案が出ていました。
消費税が上がることで財源を確保できるようになるため、年金制度に還元をしようとする考え方です。
この後、消費税の増税がたびたび延期になると、年金の受給資格期間の話も同時に延期になっていました。
しかし、消費税10%に先んじて、2016年に法律が改正され2017年8月に受給資格期間の短縮がスタートしました。
年金の受給資格期間が10年に改正されたメリット・デメリットについて
年金の受給期間が短縮されたことで起こる、メリットやデメリットにはどんな点があげられるでしょうか。
メリットとデメリットを知ると、より年金の仕組みについて理解が深まります。
<メリット>
・年金を受給できる人が増える
メリットの一つとして、単純に年金を受給できる人が増える点が挙げられます。
年金納付期間が25年未満10年以上だった人にとっては、20歳から60歳まで全ての期間を納めた人に比べて少額ではありますが、少しでも受給ができるという点では大きなメリットとなります。
・保険料を納める人が増える
もともと設定されていた受給資格期間25年というのは、海外の事例と比べても長いと言われていました。
25年という長い年月のあいだ、年金を納め続けるのが難しいと感じ、老齢年金を受け取ることを諦めてしまっている人も多いと言われていました。こういった人々にとって、受給資格期間が10年になったのは朗報でしょう。
10年間であれば、なんとか年金を納めて老後に老齢年金を受け取りたいと考え、年金納める人が増えると言われています。
また、現在の年金制度では、納める期間が長くなればなるほど、将来受け取れる老齢年金額は増えていきます。
そのため、これまでの納付期間が10年前後だった人も、それにプラスして年金を支払う人が増えると言われています。
<デメリット>
・生活保護を受けている人は差し引かれて支給される
一般の人にはあまりデメリットはないように見受けられますが、例えば生活保護を受けている人は、生活保護の支給額が減ってしまうというデメリットがあります。
生活保護は、年金を受けとっている人の場、年金分を差し引かれた額が支給されます。
過去に年金を収めた期間が10年以上で25年未満だった人は、2017年以降は年金を受け取れるようになりました。生活保護を受けている人は高齢者が多いため、生活保護の受給額が減っている人もいるでしょう。
・10年分だけを払い、残りの年月分を払わない人が増える懸念
年金の受給資格期間が10年になったことで、10年分だけ支払い、残りの年月を未納にする人が増えるのではないかと懸念されています。
年金を納めるのは義務ですので、支払わなくてはなりません。しかし、少子高齢化で、自分たちの代で年金をもらえるか懸念している人の中には、最低限の受給資格期間だけクリアしようと考えている人もいるのではないかと言われています。
もちろん、支給額は収めた額に比例しますので、支払いの期間が短いと自分の首を絞めることになるので注意です。
10年に短縮されても受給資格が足りない場合はどうしたら良い?
10年に短縮されても、これまでの実績では受給期間が足りない場合、大きく分けて2つの方法で年金受給資格期間の条件を満たしていくことができます。
一つは、過去の未納分を遡って支払う方法、もう一つは任意加入で年金を支払う期間を長くする方法です。
過去の未払い年金を遡って支払う
年金制度には、未納の年金保険料を後から支払うことができる、追納制度や後納制度というものがあります。
追納制度は、あらかじめ年金保険が支払えないと申告し、免除や猶予の対象となっていた分を支払うことです。
申告されていれば、10年分を遡って追納が可能です。
追納を行う場合には、「国民年金後納保険料納付申込書」という書類に必要事項を書き込んで申し込みを行います。
申込書は年金事務所に直接取りにいくか、日本年機構のHPからダウンロードができます。申込み後、審査にパスすると納付書が送付されますので、金融機関やコンビニなどで年金を支払います。
一方で、後納制度は、単純に期限内に支払いができなかった分を後から納めることを指します。
基本的には納付の期限から2年以内の分を納付することができます。
また、あとから年金を納める場合の注意点として、年金の保険料は当時の額ではなく、今の金額で納めなければならないという点が挙げられます。
1961年に年金制度が始まった時、年金の保険料は、国民年金の場合で、月額100円または150円でした。しかし、ここ最近の年金保険料は月額16,000円代です。厚生年金の場合は、1942年のスタート時は男性で月給の6.4%の料率でしたが、現在は18.3%となっています。
保険料は1〜2年に一度の頻度で年々上がっており、国民年金に関してはこれからも上がっていくことが予想されています。
過去分を遡って追納する際、支払いをする今の時点での月額保険料が適用されます。この場合、どうしても当時の額より高くなってしまいますので、過去の納付書ではなく、今現在の新しい納付書をもとに資金を準備しましょう。
注意点はいくつかありますが、追納や後納を行うことで、保険料が納付された期間が増えることになります。過去分を納めることができる仕組みを利用して、年金受給資格期間を満たすようにしましょう。
ちなみに、年金の追納や後納を行うと年末調整時に、所得控除を受けることができるようになり少しの節税にもなります。
任意加入で年金を納める期間を延ばす
国民年金の場合、60歳から65歳までの5年間の間、任意加入という形で年金を納める期間を延長することができます。60歳までに5年以上年金に加入していれば、任意加入分の5年間を足せば10年をクリアすることができます。
今の60代の方々は、昔と比べて健康で現役で働くことができる人も多いでしょう。可能であれば、65歳まで仕事をして、任意加入をすることをお勧めします。
また、受給資格期間が十分で、年金がもらえることが確定している場合でも、任意加入で5年間追加して年金を納めると、年間10万円弱年金額を増やすことができます。併せて、受給開始を66歳以降にすることもでき(繰下げ受給)、受給の繰下げを行うと、1ヶ月ごとに0.7%の加算率で受給する年金額が増やせます。最大で70歳まで年金の繰下げ受給ができます。
健康に問題がなければ、任意加入や繰下げ受給を利用し、受け取る年金額が増やすのも手です。
まとめ
年金の受給資格期間が10年へ短縮となったことについて、メリット・デメリットや受給資格が足りない場合の対処法などをご紹介しました。
受給資格期間の変化によって、年金を受給できる人が60万人以上増えた点は、とても大きなメリットだと思います。
日本は少子高齢化の問題を抱えていますので、年金問題は今後も社会の大きな課題であり続けることは間違いないでしょう。
年金制度に加入して年金を納めることは、現在では義務となっていますので、受給資格期間に拘らず、きちんと納めることが大切です。老後の自分の首を締めないためにも、年金制度を理解し、適切に年金を付き合いましょう。