IoTの世界において、クラウドは欠かせない存在となりました。
しかし、便利なクラウドだけでは処理できないほど膨大な量とデータの分析が求められるようになりました。
このような課題に対して「エッジコンピューティング」という技術に注目が集まっています。
この記事では、IoTで注目されるエッジコンピューティングと従来IoTシステムとの違いついてご紹介していきます。
目次
エッジコンピューティングって何?
(1)「エッジ」とは
「エッジ」とは英語の「edge」からきており、「端」という意味を表します。
ネットワーク全体を見たときに、端にあるものを「エッジ」と呼びます。
しかし、ネットワークは様々なレイヤーに分かれているため「ゲートウェイ」が「エッジ」となることもあればゲートウェイ配下の「センサーデバイス」が「エッジ」となることもあります。
一口に「エッジ」といっても、どのレイヤーについての話であるかを理解する必要があります。
(2)「エッジコンピューティング」ができること
従来は、取得したデータをクラウドへ保存しデータの処理と分析を行っていました。
しかし、このように全てのデータをクラウド経由で処理するとクラウドの負荷が膨大になってしまいます。また、リアルタイム性が要求されるデータの場合は即時レスポンスを行うことが難しいという課題がありました。
エッジコンピューティングは、即座に要求される処理に対してクラウド経由でなくデバイスに近い部分で処理を行う技術です。
クラウドを経由しないことによって、データ処理やレスポンスを素早く行うことが可能です。人間に「反射」という能力があるように、コンピューターにも特定の処理を「反射」のように行えるようにしたのが「エッジコンピュータ」と言えます。
(3)身近なエッジデバイス
エッジコンピューティングを用いた身近なデバイスとして、「人感センサーデバイス」が挙げられます。これは、人感センサーが「人」の「いる・いない」を判断し電気のON/OFFを制御するシステムです。
簡単な処理ではありますが、「センサーデバイスが情報を取得し、データを分析して、何らかの出力を行う」という一連の流れを確認できますね。
(4)フォグコンピューティング
フォグコンピューティングとはエッジコンピューティングの進化版です。
エッジコンピューティングは、現場で行えるデータ処理とクラウド経由で行うデータ処理を分けるという目的で提案された技術です。
フォグコンピューティングも同様の目的で開発された技術ですが、現場で行うデータ処理でもクラウドのような仕組みを取り入れています。
具体的には、複数のエッジを現場に置くことで障害に強く分散処理が行えるシステムです。
IoTでエッジコンピューティングが注目される理由
(1)クラウドへ負荷対策
クラウドの懸念点として①速度②レスポンスの2つがあげられます。
IoT サービスの場合データをクラウド経由で処理するのが一般的ですが、データ量が膨大になってくるとクラウド側への負荷も大きくなります。
更に、通信には「セキュリティ対策」が不可欠です。クラウド経由でやり取りを行う場合、常にデータの傍受という危険性があります。
セキュリティを強化してデータを守った場合、その強化がネットワークの遅延に繋がってしまうのが悩みどころです。
(2)IoTが抱える課題
クラウド技術の発達により、IoTシステムを構築するときはクラウドを利用するのが一般的になりました。
しかし、データ量の増加によりクラウドだけでは対応できないほどの高度なデータ処理や分析が必要になってきたのです。
また、病院や自治体へ導入する際には個人情報など外部へ漏らせない機密情報を扱います。そのような重要なデータは通信傍受の可能性があるクラウドで扱わず、ローカルな環境で保存したいというニーズがあるのです。
(3)素早いデータ処理とレスポンス
エッジコンピューティングを導入すると、データの取得、分析、制御の一連の流れを現場のネットワーク内で完結することが可能です。そのため、素早いデータ処理とフィードバックを得ることが出来ます。
更に、現場で制御を完結できるためネットワークに何らかの障害が起き多としても問題なく処理を続けることが出来る点もメリットとして挙げられます。
(4)クラウドとの併用でIoTの更なる発展へ
データ量が増え、クラウドだけでは対応困難となってきましたが、新しいサービスを始める際には安価で手軽なクラウドの利用がかかせません。
クラウドを利用して新サービスを構築した後、データ量の増加に伴いデバイス自体で処理が行えるようシステムを変更するという流れが一般的になってくるでしょう。
今後は、「クラウドに関する知識を持つ人」と「デバイスに関する知識を持つ人」両方の人材確保が必要となってきます。
従来のIoTシステムとエッジコンピューティングによるIoTシステムの違い
(1)従来型クラウド型システム
従来のIoTシステムはクラウド技術の発展に伴い、データをクラウド経由で処理するのが一般的になっています。
そのため、デバイス数が増加するとクラウドの負荷が大きくなりネットワークの遅延や利用料金の高騰の原因となってしまうのです。
データ取得が少ない場合は、クラウドを利用する方がコストを抑えられるという点で便利なのですがデータが膨大になってくると処理速度を保つ方法が問題になってきます。
(2)エッジコンピューティング型システム
エッジコンピューティングシステムは、全てのデータをクラウド経由で処理するのではなく現場で求められるデータ処理に関しては現場内で完結できるようにしたシステムです。
システムによっては、機械学習によるデータ分析も可能です。
エッジコンピューティングの活用事例
(1)5Gの導入のために
5Gとは新しい通信システムの名称です。5Gが導入されると従来の通信速度のより数十倍早くデータのやりとりを行えます。
ただし、通信速度が速くなったとしてもそれを上回るデータ量のやりとりがあれば高速通信の活用が出来ません。
そこで、エッジコンピューティングを用いて「現場で行うデータ処理」と「クラウドで行うデータ処理」を分け通信の負荷を下げる構想が発表されています。
データを分散して処理することが普及することで、5Gの真価が発揮できるのです。
(2)AIコンピューティングロボット「JETSON」
「JETSON」とはNVIDIA社が製造する小型デバイス用のAIコンピューターです。
「JETSON」はイギリスの配送業で利用されており、各店舗から半径5キロ以内の宅配業務を自律移動で行っています。
また、農作物の識別にも利用されています。畑を自律移動するロボットが、作物や土壌の状態を見極め、適切な場所へ肥料や水を投入することが出来るのです。従来では、職人が経験と勘で行っていた作業をロボットによって自動で行うことが現実となっています
(3)Amazon Dash Button
AmazonはDashButtonというサービスをプライム会員限定で提供しています。
このサービスはボタンを押すだけで特定の商品の購入が可能な、DashButtonという製品を利用できるサービスです。また、2016年には更に進化したDash Replenishment Service(DRS)という
サービスが提供されています。これらのサービスは、端末部分行う処理とクラウドで行う処理を分けるという方法が取られています。
AmazonはAWSというクラウドサービスが大きな事業ですが、そのAmazonでさえ上記サービスのようなエッジコンピューティングを用いたサービスの提供を始めました。
今後は、従来のクラウド経由サービスだけでなくエッジコンピューティングを用いた迅速なサービスが普及していくでしょう。
(4)さくらのIoT通信モジュール
クラウド事業者である「さくらインターネット」から「さくらのIoT通信モジュール」というエッジ側のIoT通信モジュールが発売されています。
クラウド事業者であることから、同社のクラウドとエッジ側のモジュールを組み合わせることでモジュールから得るデータをセキュアな状態でクラウドへ送信することが可能となっています。
このように、クラウド事業者がローカルデバイスをつなぐ通信モジュールを用意したことでIoTサービスの通信部分を一貫して管理できるようになりました。IoTの環境が整ったことで、新規事業へ乗り出しやすくなったとも考えられます。
まとめ
IoTで注目されるエッジコンピューティングと従来IoTシステムとの違いついてご紹介しました。エッジコンピューティングに対する知識は深まったでしょうか。
クラウドの技術の発展と共にIoTの普及が可能となりました。
しかし、データの増加に伴いクラウドだけで処理することが困難になってきました。
そこで、「現場の処理」と「クラウドの処理」にデータを分けて迅速なデータ分析とフィードバックの提供を可能にする「エッジコンピューティング」が活用されるようになりました。
今後も、サービスの高速化に貢献する「エッジコンピューティング」に要注目です。