IoTという言葉を耳にする機会が増えてきたのではないでしょうか。
IoTとは「Internet of Things」の略称です。「様々なモノがインターネットと繫がった世界」を表します。
現在、このIoTの世界が「ヘルスケア」の分野でも活用されるようになっています。ヘルスケア分野のIoT活用メリット、そしてIoT導入の背景と実例をご紹介します。
ヘルスケア分野の課題
少子高齢化の進行による医療難民
日本では少子高齢化の影響で労働人口の減少、高齢者比率の増加、それに伴う社会保障費の増加が大きな課題となっています。そして地方は「医療難民」という問題が浮上しているのです。
「医療難民」とは病床数の削減により、入院を希望する患者も在宅医療にせざるを得ない患者のことです。病床数の削減の背景には、政府が膨大な医療費の削減を目的として「地域医療構想」という提言を行ったことがあります。
入院から在宅医療に切り替えることで、大幅な医療費の削減が見込めます。
しかし、慢性疾患の患者にとっては従来の在宅医療では非常に不安でしょう。しかし、政府の方針として病床を増やすことは厳しいため在宅医療サービスの向上が求められています。
地方の深刻な医師不足
2019年現在、医師は医学部の定員を増やしてきたことにより年4,000人ずつ増加しています。しかし、「医師不足」というワードが世間を賑わせていますよね。
医師が4,000人増えたとしても、全ての都市に均等に割り振られるわけではありません。
一般企業の人手不足・都心部への集中が取り沙汰されていますが、医師に関しても都市部一極集中が起きているのです。こうして、地方は需要に対して十分な医師がいない状態が続いています。
人材難の介護業界
介護業界における人材不足はかねてより問題視されていますが、原因としては2つあります。
1.高齢化により需要が増える一方、労働者は減っているから
これは少子高齢化が原因で生じている問題です。
様々な業界で労働人口の減少による労働力の確保が悩みの種となっていますが、介護業界では急激な需要の増加も同時に起きているため、より一層深刻な状態となっています。
2.離職率が高く、人が定着しない
離職する原因として肉体的、精神的な負担が大きいことが挙げられます。
介護は24時間体制で行われるものも多く、不規則な勤務形態や、日々の肉体作業は介護する側を疲弊させてしまいます。
ヘルスケア×IoTで解決できること
2025年問題の対処、在宅医療サービスの向上
2025年問題というのをご存知でしょうか。2025年とは団塊世代(戦後第1次ベビーブーム世代)が75歳という後期高齢者に分類される年齢になる年を指しています。
2025年問題というのは、後期高齢者が増えることで今まで以上に医療費の増加に拍車がかかることです。この2025年問題への対処として、現状政府が実施しているのが医療改革です。
医療改革により、病院は「診察・治療」を担当し、リハビリや長期的なケアは介護施設が担当するという役割分担が決定されました。
そうすると、必然的に在宅医療の需要が高まります。しかし、既存の在宅医療の場合、対面に限定された診療では、診察できる時間、内容も限られてしまいます。
そこで、IoTの技術を取り入れて常時バイタルデータの取得や遠隔からの診察を可能とすることで、従来よりも早く正確な処置を行うことが可能になります。
介護者の負担減
介護においては、介護する側の身体的負担が大きいことが原因で、人材難や自宅介護困難な家庭が増えてきています。
介護の際に肉体的な負担が大きい場面は「入浴」「トイレ」「移乗」です。どれも介護者を持ち上げるため膝や腰に負担がかかります。1、2回程度であれば問題ないかもしれませんが、
介護の現場では何十回と繰り返される動作です。
こうした身体的な負担が重なって離職せざるを得なくなり、自宅介護が困難な状況に追い込まれている人も少なくありません。
そこで、介護用ロボットの活用で介護する側の負担を減らす試みがスタートしました。
ヘルスケア分野に革命をもたらすIoTの価値
医療サービスの質を保ちつつ、社会保障費を下げられる
2025年問題に対処するため、国は歳出の大半を占めている社会保障費の削減を目指しています。もちろん削減の対象には、医療費と介護費も含まれています。
東京への一極集中により、地方では人口が減ってきており、それに伴って税金も減ります。税金が減れば、その都市の社会保障も同等のサービスを提供し続けることが難しくなってきます。
医療サービスでの質の低下が起きるのは命に関わることであり、地方と都市部の格差は見過ごせません。
しかし、IoTの力を使えば医療サービスの質を損なうことなく医療費の削減が期待できます。
「遠隔医療」は入院をせずに在宅で医療を行うことで医療費を削減しつつ、IoTデバイスを用いてバイタルデータを共有し医師へ必要な情報の共有をすることで的確な診察を可能にします。
IoT技術は便利なだけでなく、国が課題として抱えている「社会保障費の削減」に対しても有効な手段と言えるでしょう。
予防医療の発展
IoTの技術は「診察」だけでなく日々の健康管理にも活用できます。
血圧、体温、脈拍などのバイタルデータを測定した際に即時記録し、かかりつけの病院へデータを共有します。そして、異常があった場合は警告と対応策を提示することも可能です。
このように、自身で異常を感知してから病院へ行くのではなく、普段からバイタルデータを測定し医療機関と連携することで病気の早期発見と予防に役立てることができます。
医療サービスの向上
医師と患者の繋がりだけでなく、医師同士の繋がりが増えることによって得られるメリットもあります。
2014年、病院内で携帯電話の利用が解禁されました。それまでは電波が医療機器に与える影響を危険視され利用を制限されていたのです。
この解禁によって、医師同士の連絡にスマホで行うことが可能となり画像、メッセージなどが早く共有できるようになりました。
医師同士がより密な連携を取ることで詳細な治療のアドバイスを得られ、病院内の医師だけではなく遠隔地の専門医から助言を得ることが可能となります。
上記のように医師同士の情報連携が密になることで、経験が浅い医師でも素早く正しい診察をすることができ医療サービスの向上につながります。
ヘルスケア×IoTの事例
遠隔医療の実現「安診ネット」
「遠隔医療」は2015年までは離島など一部の地域を除き禁止されていました。
しかし、地方の過疎化と医師不足、更に技術の進化の要因が重なり2015年からは厚生労働省によって実質解禁となりました。
「安診ネット」とは「居室を病室のようにするサービス」です。
病室と同じ医療サービスを居室で実現することに注力しており、医療現場で実際に行われているバイタルデータや問診票などの医療情報を全て医療機関へと共有します。
また、事前に医師は患者ごとに異常値を設定し、異常値を超えるとアラートが送られる仕組みが作られています。
最近ではこの異常値の設定にAIを用いており、日々のバイタルデータから適切な異常値をAIが算出されています。
診断支援AI「マゼラン」
診断支援AIとはその名の通り診断の「支援」を行います。具体的には、日々のバイタルデータを取得し患者の特性を理解したAIが、患者に関して一次診断を行うというものです。
医師不足が進む中、在宅医療の需要が高まり機械による診察の代替が必要となってくるでしょう。
診断支援AIでは、診察の精度を上げるために膨大な学習データが必要です。診断支援AI「マゼラン」は、全国にある「安診ネット」にて蓄積した診察データを学習データとして活用し日々精度を高めています。
ウェアラブル端末による健康管理
ウェアラブル端末とは「身に着けることでバイタルデータなどを取得する端末」を指します。
具体例としては「Apple Watch」や「JINZ MEME」が挙げられます。
Apple Watchとは、Apple社が製造している時計型のウェアラブル端末です。特徴として、睡眠時間や心拍数、消費カロリーなどの情報を自動で計測することが可能となっています。
「JINS MEME」とは、メガネメーカーのJINSが製造しているメガネ型のウェアラブル端末です。3つのセンサーで着けている人の状態を判断し、眠気や集中状態、姿勢について自身の状態を知ることができます。
上記のようなウェアラブル端末を使えば個々人の生活リズムの「見える化」を行い、より具体的な生活習慣の指導が可能となります。
まとめ
ヘルスケア分野のIoT活用メリット、そしてIoT導入の背景と実例をご紹介しました。
少子高齢化が進んだ結果、労働人口の減少、地方の過疎化などの社会問題が顕在化してきた日本においてIoTはこれからの課題を解消する有効な手段と捉えられています。
課題先進国である日本が、社会課題を解決すればヘルスケア分野においてデファクトスタンダードとなることができます。
課題解決に欠かせないIoT技術の今後に要注目です。