2020.04.22 [水]

Web3.0の実現を目指しブロックチェーンで日本から世界へ

ブロックチェーン関連で高い技術力を身に着け、世界に挑戦している日本国内のスタートアップ企業がStake Technologies株式会社だ。ブロックチェーンを使ったITソリューションを開発するときに必要な「核」となる技術の確立を目指している。

CEOの渡辺創太氏はインド、中国、ロシアなど世界各国でNPO活動に参加し、シリコンバレーにある著名なブロックチェーンスタートアップ企業で働いた経験を持つ。

「企業としてブロックチェーン技術を用い、日本から世界で一番使われるプロダクトや技術を創ること。そして、その先に『Web3.0』を実現することが目標です」(渡辺氏)

と高い目標を掲げている渡辺氏のインタビューは技術的な話に固執すると思いきや、高い視座を持った利用者目線の話が興味深かった。

「Web3.0」とはブロックチェーン技術を使って実現するインターネット世界のこと。今までのインターネットの世界では、SNSを軸にユーザーが双方向でコミュニケーションを行なう中で、個人に関する情報がプラットフォーム企業に集中し、一部の企業が集めた情報を使って一方的に利益を得ていた。「Web3.0」ではユーザーが情報を主体的に管理して対価を得られるようになる。このような仕組みを「情報銀行」と言う。

情報通信に必要不可欠な「プロトコル」を確立することが世界一への勝ち筋

「世界一」になるために渡辺氏が考えていること。それがブロックチェーンのマクロトレンドを意識しつつ「プロトコル」を確立することだ。

プロトコルとは、複数の機器同士が通信するときに必要なデータ送信順序や条件、手順を定めたもの。先に述べたITソリューション開発に必要な「核」となる技術である。例えば、インターネットでいえばブラウザーを使ってウェブサイトのページを表示するのに「http」や「https」というプロトコルが使われている。

利用者からすればどんなプロトコルが使われていようと、ウェブサイトを表示して情報が得られさえすればよい。一方で、ウェブサイトを提供するデータベースの構築を担当するIT企業からするとプロトコルは重要である。なぜならそのプロトコル通りに通信が行なえないと、利用者に情報を提供することができなくなってしまうからである。

ブロックチェーンを使ったソリューションを開発するときにも同じことが言える。

「ソリューションの開発を受託して利益を上げているだけでは、技術力が高いとは言えません。幸い弊社には『未踏スーパークリエイター』(*)のCTO山下琢巳を始め、東京大学の修士や博士出身のブロックチェーンスペシャリストが多くいます。ブロックチェーンのソリューションを開発するときに様々な技術者が使う必須のツールや『プロトコル』を日本発で世の中に出す。その上で世界中のパブリックブロックチェーンの発展に貢献し世界で一番使われるプロダクトを創ることこそ我々のやりたいことです」(渡辺氏)

*未踏スーパークリエイター:経済産業省直轄のIPA法人が選出する、ソフトウェア関連分野で優れた能力を有する若い逸材の内、特に優秀であると認定された開発者

複数の異なるブロックチェーンをつなげる「Polkadot」に注目

「プロトコルを確立する」とは具体的に何を差すのだろうか。

「我々が開発に関わっているオープンソースのパブリックブロックチェーンの一つに『Polkadot』というものがあります。異なるブロックチェーン同士を接続できる機能を持つので、分業体制が実現できスケーラビリティなど既存のブロックチェーンの様々な問題を解決します。分散金融に特化したブロックチェーン、スケーラビリティに特化したブロックチェーンなどアプリケーションやプロトコルに特化したブロックチェーンが『Polkadot』を介してシームレスに繋がっていきます。その結果、複数のシステムや企業間での大規模なデータのやり取りがよりスムーズに実現できるようになると思います。」(渡辺氏)

渡辺氏の注目する「Polkadot」とは、スイスにある「Web3 Foundation」という組織が手掛けるオープンソースプロジェクト。従来のインターネットとは異なり、「サーバーが不要な分散されたウェブであるWeb3.0の実現」をビジョンに掲げているのが特徴で、そのビジョンを達成する手段の一つが「Polkadot」であり複数のブロックチェーンをつなげる機能を持つ。

そもそもブロックチェーンはデータを管理する基盤の一つである。例えば金銭的な価値や他人とのやり取りを記録したデータの集合体が仮想通貨であり、仮想通貨ごとに使用しているブロックチェーンネットワークやプロトコルは異なっている。

医療や裁判、製造業の工程管理などデータの履歴管理が重要となる分野でもブロックチェーンの活用が進められている。ブロックチェーンの上に乗っているアプリケーションこそ比較的似たりよったりだが、その基盤となっているブロックチェーンのネットワークは別のものといってよい。

あるサービスではビットコインと同じネットワークを使っているかもしれないし、また別のサービスではイーサリアムと同じネットワークを使っているかもしれない。一つのネットワークだけであらゆるサービスを実現しようとすると、ブロックチェーンが持つスケーラビリティの問題に直面するのだ。

だが、複数の異なるブロックチェーンが乱立した場合、ブロックチェーン同士の接続が難しいため、データのやり取りをするために、双方のデータを参照し合うプロトコルの開発が必要になってしまう。

こんな課題を解決してくれるのが「Polkadot」であり、渡辺氏が注目しているポイントである。複数のブロックチェーンを接続してデータ参照ができれば、それぞれのブロックチェーンからデータを読み出して利用する手間が省ける。

では、Stake Technologies社はこの「Polkadot」というプラットフォーム上で何をしているのだろうか?

「複数のブロックチェーンの接続ができる前提であれば、機能やユースケースに応じて適切なブロックチェーンを作成しながら、『Polkadot』を介して接続していけます。その中でも我々が作っているのはスケーラビリティ問題を解決する「Plasm Network」というブロックチェーンです。『Polkadot』を開発者が使用する時には2つの選択肢があります。1つ目はブロックチェーンそれ自体を創り『Polkadot』に接続すること。もう1つは『Polkadot』に接続されたブロックチェーン上でアプリケーションを創ることです。後者のアプリケーションを作成するという時にEthereumを見ればわかるようにスケーラビリティ問題が必ず顕在化します。『Plasm Network』は『Polkadot』に繋がる他のブロックチェーンと相互運用性を持ちつつスケーラビリティ問題を解決するためのプロトコルです。」(渡辺氏)

スケーラビリティの問題解決と分業体制の構築が可能なブロックチェーンソリューションを提供するのが渡辺氏の狙いなのだ。

「Polkadot」の実現するWeb3.0の未来

「Polkadot」はWeb3.0を実現するためのプラットフォームとして知られている。冒頭で説明したようにWeb3.0はブロックチェーン技術を使いユーザーに主体性を持たせることがポイント。そもそもWeb3.0の前身にあるWeb1.0とWeb2.0の特徴を改めて理解しておこう。

一言でいうとそれぞれWeb1.0は読むことのできるWeb。Web2.0は読み書きのできるWebである。FacebookやGoogleがWeb2.0の代表的なサービスで、Webページ上で文字を読むだけではなく、ユーザー自ら投稿することができる。しかし、Web2.0には多くの点で問題を抱えている。

「インターネットが普及しだしてこのかた30年、我々は自らのデータをコントロールしていない。インターネットのアーキテクチャーが極度に中央集権的で、人々に力を与えるはずのテクノロジーが人々から自由とプライバシーを奪っているともいえます。これはデータがGAFAを始めとする巨大企業によって独裁的に管理されているからです。これでは健全な競争環境やイノベーションが生まれません。Web3.0とはデジタル空間を再び民主化しようという取り組みであり我々はブロックチェーンを使って、このWeb3.0を実現します。多くの方にとって馴染みがないかもしれませんが、Stake TechnologiesはWeb3.0の実現をミッションに置いています。」(渡辺氏)

プロトコルを確立して広く一般的に利用してもらうためには、それ相応の技術が必要になる。開発に必要な仕様書を読み込んでプログラミングができるという水準では到底及ばない。仕様の根底までを理解してかつ、その仕様を作成した人物や背景なども含めて広く深い知見が必要となる。渡辺氏やStake Technologies社では、そのために必要な取り組みやノウハウを高めてきた。

その甲斐あって、IFA社が開発を進めている次世代型銀行の構想である「AIre」シリーズの主となる機能開発は、Stake Technologies社が担当することになった。

次世代型銀行とは各個人が持つ属性情報を、マーケティング目的などで利用したい企業に課金させて対価を得て、利用者にも還元するビジネスのこと。ここでいう属性情報には、個人が年齢や居住地に始まり食べ物の好みや人生の価値観など個人が持っている情報の全般が含まれている。

個人にとっては重要な資産となっているこれら属性情報を適切に管理し、企業から得るインセンティブ対価を誤りなく個人に支払う。次世代型銀行の目玉となる各社をつなぐ機能の開発をStake Technologies社が担当しているのである。

技術力の高さもさることながら「世界一を目指したい」というブロックチェーン技術に対する貪欲さがIFA社との協業の決め手になったことだろう。

世界一を目指し、海外のアクセラレーションプログラムにも積極的に参加

当然といえば当然なのだが「世界一になる」というのは言葉だけではない。

「日本国内でのブロックチェーンのユースケースや技術的な実装は海外のトップクラスと比べると残念ながら遅れを取っているのが現状です。日本人としてこの現状は非常に悔しいです。海外でユースケースや技術を持っている企業が日本市場に参入してきてマーケットシェアを取ろうとする動きも最近顕在化してきました。これから日本のブロックチェーンエコシステムを次のレベルに持っていき、日本から世界の一線で通用するスタートアップとなりたいと考えています。その為には我々自身が世界で勝ち、海外企業との技術的提携や協業が重要になります。我々の取り組みで言うと、『Web3 Foundation』から弊社の技術力が買われ現時点で5回の助成金を獲得しました。この5回という数字は公開情報に基づくと世界最多となる数です。また、Parity Technologies社の主導するプログラムにも参加中で、プロダクト開発、マーケティング、資金調達の支援をいただいています」(渡辺氏)

Parity Technologies社とは、Ethereumの共同創業者であるGavin Wood氏によって設立された企業であり、ブロックチェーンの開発を正に世界最前線で率いている企業である。

ブロックチェーン技術に限らず世界と比べて劣っている技術や要素がある場合、日本国内の状況に憂慮して海外に流出してしまう人材は少なくない。

渡辺氏の場合には、日本国内での技術を盛り上げるためにあえて海外企業と協業して切磋琢磨する道を選んでいる。シリコンバレーでの勤務経験を持ちグローバルな視点で物事を考えたりコミュニケーションしたりできるため、東京大学大学院で日本発となる公式なWeb3.0に関する授業を「Web3 Foundation」と共催したり、アメリカの名門大学であるUC Berkeleyやシンガポール政府の支援するアクセラレーションプログラムも積極的に利用し、経営力を磨いている。

「我々が世界一線で培ったプロトコルやブロックチェーンソリューションを国に国策として使ってもらうことが長期的に一つのゴールです」(渡辺氏)

日本の未来を良い影響を与えられる。グローバルな日本人の活躍に目が離せない。

Stake Technologies Co-founder&CEO

渡辺創太 氏

インド、ロシア、中国でNPO活動に従事後、ソフトバンクで長期インターンを経て、2017年シリコンバレーに渡航、現地のブロックチェーンスタートアップChronicledに就職、1年間働いた後、起業。Stake Technologies株式会社代表取締役社長。東京大学大学院工学部ブロックチェーン寄付講座共同研究員。ブロックチェーンが切り開く次世代のWebであるWeb3が主な関心。慶應義塾大学経済学部4年。

取材・文/久我吉史 撮影/高仲健次

この記事をシェア