囲碁AIのコンテストで培ったAI技術で事業展開するトリプルアイズ社の福原 智氏は、IoT、ブロックチェーン、AIを、次のイノベーションを生み出す“三つ子”として一つの塊として考える。なぜ、そう考えるのか?
ブロックチェーンは、これからが本番
福原氏は国立大学の物理学科を卒業後に技術系企業に就職、PEバンクの看板プロエンジニアとして活躍。その後チャンスを次々にものにして、2008年に創業したトリプルアイズ社の技術担当役員に就任し、2009年に社長となり、現在に至る。トリプルアイズは、囲碁AI開発で培った画像解析の技術を応用し、画像認識プラットフォーム「AIZE」などのサービスを提供するディープラーニングに精通するAI開発のベンチャーだ。
福原氏は一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)の理事も務め、著書『テクノロジー・ファースト』(朝日新聞出版、2018)では、IoTとブロックチェーンと組み合わせることで根本問題が解決できることを紹介している。
IoTによってモノとモノがつながる。ここでいうモノは、マシンやデバイスを指す。まずモノ同士がつながる段階で、つながる相手が信用できる相手であるのかを判断する必要がある。さらには、つながるうえでの契約事項の設定と承認のやりとりをしなければならない。限られた範囲の小さなコミュニティであれば、毎回面談をして契約することもできるだろう。しかし全世界の不特定多数の人とつながろうとする場合、対面での認証作業はどう考えても不可能だ。面談に代わって、自動的に契約承認する仕組みがいる。
もうお気づきだろうが、ブロックチェーンを使えばそれが可能である。
『テクノロジー・ファースト』P.169~
ブロックチェーンはこのような特徴を持つため「第四次産業革命」「Society 5.0」などと呼ばれる社会の変革に必要な技術と福原氏は考える。そして今後、ブロックチェーンは本格的に盛り上がると分析する。
少し補足をしておこう。2000年代に入るとコンピュータだけでなくケータイでもインターネットを利用できるようになり、さらに無線で機器連携ができるWi-Fiが普及し、誰もが手軽にネットワークを構築できる環境が整う。それまでは人と人、人とコンピュータが通信を行なっていたが、通信モジュールを備えた機器と機器、機器とコンピュータがつながるようになる。電気やガスなどの計器類や自動車などの連携、いわゆるM2M(machine to machine)である。
このM2Mが普及すると無人化や省力化が進むといわれたが、根源的な課題も残されていた。なりすましやハッキングをどう防ぐかである。この頃からインターネットが社会に普及したことで、一層セキュリティに関心が高まる。機器がなりすましていた場合、それをどう防ぐのか。この課題はその後に注目されるIoT(Internet of Thing、モノのインターネット)の世界でも、引き続き残る。
この課題に一石を投じるといわれる技術として注目されているのがブロックチェーンだ。
福原氏が著書でも触れているとおり、つながる相手が信用できるかの判断はもちろん、信頼できる相手との契約や取引を自動的に行なうことができるからだ。しかも、ブロックチェーンの利用が進むと、IoTの普及を加速させ、センサー類からさまざま情報が集まるようになる。そうした情報が集積され、ビックデータになるとAIの性能が飛躍的に高まるようになる。
福原氏はこのように発展してきたIoT、ブロックチェーン、AIを三つ子としてワンパッケージで考え、自社のサービスへの実装も進めている。
「今後、IoTによっていろいろなモノ同士でリアルタイム勘定(会計処理の際に行なう仕訳や勘定元帳への記録を取引と同時に実行する)などができるようになっていきます。そして、新しいビジネスが次々生まれてくる。そのとき、利用者を100万ユーザーで想定するか、1億ユーザーか、10億ユーザーか、となる。それによって選ぶ技術はもちろん、営業やマーケティング、経営戦略も変わるでしょう。
他の方法もありますが、ブロックチェーンが優位なのは大規模ネットワークを作りやすいという点です。それゆえに、私たちが提供する『AIZE』でも、こうした要望に応え、ブロックチェーンを入れていこうと企画しています。
ブロックチェーンは一時のブームが終わったという方もいますが、見方を変えると次のステージに入りつつあるともいえます。インターネットが普及した過程を振り返っても、盛り上がっては冷めてという周期を繰り返している。その停滞期には、生半可なプレーヤーが退場するんですね。例えばサーバーホスティングサービスも、いまではさくらインターネットなど数社です。彼らは本物だから生き残った。そして、ブームが冷めた後にLINEやFacebookやテレビ会議、リモートワークなどが登場したわけですから」
福原氏らはAI分野を最も得意とする。それゆえに、AIの進化を加速させるブロックチェーン、IoT、5Gなどの普及にも強い関心を持ち、それを応援する。BCCCの活動に参加する理由も、こうした背景があるのだ。
中小企業こそが、これからイノベーションを起こせる
IoT、ブロックチェーン、AIのような新しい技術の分野では、中小企業にこそ成長の可能性があると福原氏は考える。なぜならば、こうした新しい技術の波に乗るにはトップの大胆な経営判断やリーダシップが不可欠だが、大企業はそこがウィークポイントとされることが少なくないためだ。
「なぜ、私が中小企業であることに自信を持っているか。それは、中小企業ではオーナー社長が多い。オーナー社長は天才といわれる一方で、アホっていわれるように、社会の規範にとらわれない発想ができますよね。そして、ずっと夢を持ち続ける。
例えばウチでは 『GAFAを超えるぞ』みたいなことを本気で言っています(笑)。できないかもしれないけれど、そういう意思を持つのは自由です。自由意志で決められることが大事で、組織が大きくなっていくと決められないことが多くなりますよね。そうすると、社会の変化についていけない。一方、オーナー社長ならば失敗することがあるかもしれないけれど、イノベーションは起きやすいはず。そんな思いで事業をやっています」
ブロックチェーンやAIのように新しい技術の本質を見抜き、それを活用し、新しい価値で社会を変える。その主役は福原氏のようなエンジニアマインドの強いオーナー社長なのかもしれない。
福原 智氏
トリプルアイズ社 代表取締役CEO。山形大学理学部物理学科卒。2008年に株式会社トリプルアイズを設立。国内囲碁AI大会で優勝するなど、人工知能の研究開発に取り組むと共に、自社ディープラーニングシステムを応用したユーザー向けシステム開発を推進する。現在はIoTと組み合わせたAIoTサービスプラットフォームを開発中。ブロックチェーン推進協会(BCCC)の理事として、設立に関わる。