2020.02.12 [水]

高い改ざん検知性とスケーラビリティを備えた分散型台帳ソフトウェア「Scalar DLT」は業界標準となるか?

分散データベースとブロックチェーンの良い特性を兼ね備えた「Scalar DLT」という分散型台帳ソフトウェア製品を開発する株式会社Scalar。今注目のスタートアップ企業の一つだ。

この製品は改ざん検知性を必要とする様々な業界に一石を投じて、新たなパラダイムシフトを起こす可能性を秘めている。

ブロックチェーンでは実現が困難な「高いスケーラビリティ」を実現する分散型台帳ソフトウェア

「高いスケーラビリティを実現できる製品を目指すのはもちろんのこと、エンジニアがアプリケーションを可能な限り容易に開発できるようなプラットフォームソフトウェアにしたい」

と語るのは、Scalar社の代表取締役 CEO 兼 COO 深津 航 氏

数千万、数億というトランザクションが1日で発生するような大規模なシステムにも耐えうる品質を維持しながら、開発の容易さを確保して世の中を便利にしたいと意気込んでいる。

Scalar社が開発する「Scalar DLT」は、分散データベースである「Scalar DB」と分散型台帳である「Scalar DL」から構成されている。電子署名が付与されたスマートコントラクトを分散トランザクションの形式で実行し、その実行結果を複数の独立したコンポーネントで連鎖的に管理することにより、高い耐改ざん性を有しつつ、従来のブロックチェーンにでは実現が困難であった高いスケーラビリティ、強い一貫性、確定性を実現している。

「ブロックチェーンは削除したいデータの管理や高い検索性を実現するのが苦手なんです。妥協案として、ブロックチェーンの前段にデータベースをおいて、ブロックチェーンにはログだけを書くということが行なわれています。ただし、そのやり方ではデータベースとブロックチェーンの一貫性を保つことが困難であり、障害が起きると、ブロックチェーンにあるべきログが存在しないなんてことが起きえます。Scalar DLTでは、改ざん検知性をもつデータベースと書き換え可能なデータベースの両方をScalar DB上で管理していて、両方の更新をACIDで行うことで、そのようなことが起きないようになっています。」(深津氏)

ACID特性とは、「データベースのトランザクション管理において必要な性質」のこと。

A:Atomicity(原子性)

C:Consistency(一貫性)I:Isolation(独立性)

D:Durability(永続性)

の頭文字を取ったもの。要はデータ管理を行なうときにACIDが満たされていないとデータ不整合が起きてしまう可能性がある。

すでに社会に実装されており多種多様な業界から注目を浴び始めている

この手の分散型台帳・ブロックチェーン関連のソリューションは、2019年末だと、PoC(実証実験)だったり、研究開発中であったりする場合が未だ多い。

しかしScalar DLTはすでに社会実装されており、大規模なデータ処理が必要なシーンやデータの高い改ざん検知性が求められるシーンで活躍している。

Scalar DLTのシステム構成。Scalar DB上にScalar DLが構築されている。スケーラビリティや可用性、一貫性等の性質はScalar DBにより実現され、改ざん検知性はScalar DLにより実現されている。

一般的にはスケーラビリティと改ざん検知性は相反する要求であるため、単なる組み合わせでは双方を高いレベルで実現するのは困難だが、Scalar DLTはそこを可能にしているのが一番の特徴である。

2019年8月には、日本マイクロソフト社が主催した革新的なテクノロジーを持つ企業のピッチコンテスト「Microsoft Innovation Lab Award 2019」で優秀賞を受賞した実績を持つ。Scalar DBはオープンソースとして公開されており、誰でも自由に使うことができる。

「電力小売り事業者での30分電力量メッセージデータ格納システムの基盤としてScalar DBが使われています。電力小売り事業者は30分単位で、供給先の家庭や企業からデータを取得・格納しなければなりません。接続先が数万件以上あり、高い可用性が必要です。また契約先が増加した場合に柔軟に拡張できなければなりません。そんな要件を確実に満たせています」(深津氏)

他にもインタビューでは明かせないが、特に電子的な証拠が必要となるようなユースケースにおいて大手企業からの引き合いが多く、まさに社会が求めているデータベース製品になりつつあるようだ。

現代社会が抱える重要課題の一つ「個人情報管理」にも活用できる

インターネットを利用するユーザーの個人情報が知らないうちに抜き取られて、行動分析などに利用されている。そんな報道をよく目にするようになって少なくとも1年はたっただろうか。

ウェブ広告の世界では「ITP」という個人情報の追跡を制限する機能が話題となっている。iPhoneなどのアップル製品にインストールされた標準ブラウザー「Safari」が持つ機能で、ユーザーの行動分析ができずに正しい効果測定ができなくなっている。そのため企業目線では、ユーザーから情報を取得してよいか確認する必要があり、情報を取得してよいと「同意」したかどうかを、きちんと管理しなければならない。

無論、同意したという情報は改ざんされてはならない。情報を取得した企業が適切な対価を個人に支払う「情報銀行」という仕組みはブロックチェーンとの親和性が高い。

これらの情報管理や情報銀行の仕組みは大量のユーザーや取引トランザクションが発生し、かつ同意情報等に対する高い改ざん検知性を必要とするので「Scalar DLT」との親和性は非常に高いようだ。今後の展開に期待したい。

株式会社Scalar

代表取締役 CEO 兼 COO 深津 航氏

1998年日本オラクル株式会社入社し、サポートに8年在籍した後、データベースのセールスコンサルタントを経て、SiebelおよびHyperionの買収EBI/EPM事業を担当。Big Data(ビッグデータ)事業の立ち上げでは、Hadoop/NoSQL, AI, Spatialなどの製品を事業化。主に、大手都市銀行、生損保へのシステムを販売・導入。2017年12月に株式会社Scalarを設立し、代表取締役CEO兼COOに就任。
取材・文/久我吉史 撮影/篠田麦也

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