サンプリングボイスを用いて楽曲を構成する独特な手法を駆使し、世界中のファンを魅了するアーティスト・DÉ DÉ MOUSE。「発明」とまで言われるほど革新的な手法で作品を生み出し続ける彼は、どのようにアーティストとして成長していったのか? そして、音楽を取り巻く環境やテクノロジーの行末に何を思うのか? アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が聞いた。
ーテクノロジーについても聞いていきたいのですが、AIやブロックチェーンに興味ありますか?
僕、めちゃくちゃ文系なので数学的なこととか理論とかはさっぱりなんですけど、AIとか量子力学の本は好きで読んでるんです。テクノロジーにもすごく興味がありますよ。
ーちょっと意外ですね。
僕の周りはプログラマーが多くて、そういう人と話すのも大好きです。でも自分はミーハー理系で、根は文系。本物の理系の人と話すと、会話がズレることがよくあります。
例えば、ある理系の知人は数学のことを「答えがひとつだから好き」と言うんですよ。僕は「答えがひとつしかないなんて、想像する余地がなくてつまらない。100個答えがあってもいいじゃん」って思うんですけど、この考えは理系の人にとっては意味が分からない。だから、話をしていても話が行き違うことがあります。
ちょうど「シンギュラリティ」という言葉が一般的に浮上した始めた2015年ぐらいに、彼らとAIの話をしたことがあります。「AIによって、クリエイティブな文化が侵されるぞ」って怖くなりました。AI自らが音をシミュレーションして、「明るく、ロックなテイストで」というデータを入力すれば勝手にヒット曲が作られる未来をイメージしてしまったんです。それで、僕は「怖い」と死ぬほど言っているんですけど、彼らは「そういう未来が見てみたい」って言うんです。
ー本当にそういう時代が来たら、と考えてしまいませんか?
確かに曲だけならAIが作れるし、そういうwebサイトはすでにあります。でも、浅田祐介さんというプロデューサーが「人は曲を作った理由や、その人の持つストーリーにお金を払う。AIにはストーリーがない」って言っていて、「なるほどな」と思いました。以来、「顔も分からないAIの曲を聞いても、魂はないと人は思うだろう」と考えるようになりました。
ー将棋やチェスなどでも、機械同士の戦いは興味が沸かないですもんね。でも、AIに人格が出てきたら…とも思いませんか? 私は最近「人間の意識」って何なのだろうと、よく考えるんです。
僕も、同じようなことをお風呂に入ったときに考えますよ。だいたい毎日答えが違って「電子機器と同じで、オフになった瞬間に意識は消えるんだろう」「電子機器はオンにしたらまた動くから、身体を直したら魂も戻るのか」「いや、やっぱり身体は入れ物だから、魂が1回抜けたら戻って来れないか」とか(笑)。
ー面白いですね。ブロックチェーンについては何か思うことはありますか?
クリエイターにとってはとてもいい仕組みですよね。中抜きされないで、個人に直接報酬が支払われる仕組みが簡単にできるかもしれない。
ー私はそうなってほしいと思っているんです。インターネットだって、結局GAFAのような巨大な企業が牛耳ってるわけじゃないですか。
そうですよね。例えばYouTubeだってどんどん規約が改正されていくし、還元率も公開されていないから、報酬が変わったとしても知りようがない。分からないものに甘んじなければいけない現実は確かに怖いなと思います。
ー絵画のアーティストは、インスタやTwitterで作品を発表する人が増えてきました。SNSでの発信についてはどう思いますか?
絵描きさんは総じてフォロワーの多い方がたくさんいますよね。音楽は音と動画で見るものが多いから、その時点で(ユーザーにとっては)少し面倒なんでしょう。特に電車の中などの音が出せない状況で、一番気軽に楽しめるのは絵や写真だったりする。
だからSNSだけで考えれば、音楽よりも絵は広める機会が多いとも思います。音楽は、毎月のように何千万という曲がアップされているけど、注目されるのは本当にごく一部。
ーそんな時代に、自分の音楽をどう広めようと思っていますか?
そこなんですよね。一番の問題は、作品が行き届かないことなんです。自分の曲を、好きになってくれるはずの人にまで届かない。少し前の時代、いい曲は必ず売れると言われていましたけど、今は違う。いい曲が売れるかどうかはではなく、分かりやすいかどうか、情報が届けられているかどうかが重要なんだと思います。
ついこの間、音ゲーの「beatmania IIDX HEROIC VERSE」に楽曲を提供したんですよ。すると、その曲がユーザー層に響いて、僕のオリジナル曲を聞いてくれるきっかけになったみたいなんです。やっぱり行き届いてないことが問題なんだと痛感しました。じゃあ、どうすればブレイクスルーできるかというと、今の時代はやっぱりお金をかけるしかないんです。あるいは、SNSでの発信力のある人に認められるとか。これも、お金だったり数の世界の話なんですけどね。
日本のカルチャーが、世界で売れにくいっていうもう1つの問題もあります。音楽に限らず、表現をしている人は口を揃えて、「日本で1,000人にしか売れなくても、48カ国で同じくらい売れれば生きていけるじゃん」と言う。でも実際は、日本で売れるものは独特なので、海外では受け入れられづらいんです。
ー難しいですね、日本から世界へというのは。
売れているのは、ゲームとアニメだけじゃないですかね。それ以外は、ほぼ全滅。かつて日本産が強かったソシャゲも、世界的なヒット作は中国の企業が作っていたりします。資本がないということもあるし、日本で受けるものが特殊で、先を行き過ぎているのかもしれない。すごく難しいですね。
ーそうなってくると日本のアニメも危ういですよね。
日本人がプラットフォームやコンテンツを作ろうとしても、アメリカや中国の圧倒的な資金力の前では無力になってしまう。その中でどう生きていくか、今のクリエイターはすごく問われていますよね。長いものに巻かれろでいくのか、反抗していくのか。
ただ、今は「肩の力抜いていこう」っていう時代ですからね。僕は、こうした時代の変化を突っぱねるよりかは、うまく受け入れて使いこなしていった方が、みんな仲良くできるんじゃないかと思いますよ。
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DÉ DÉ MOUSE
2019.12.11発売
8th full album「Nulife」
2,200 円 (tax out) / NOT0027 / not records
DÉ DÉ MOUSE “Nulife” Tour 開催中!
ツアー情報については
http://dedemouse.com/livescheduleへ
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