サンプリングボイスを用いて楽曲を構成する独特な手法を駆使し、世界中のファンを魅了するアーティスト・DÉ DÉ MOUSE。「発明」とまで言われるほど革新的な手法で作品を生み出し続ける彼は、どのようにアーティストとして成長していったのか? そして、音楽を取り巻く環境やテクノロジーの行末に何を思うのか? アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が聞いた。
ー現在は自分なりの音楽を生み出している実感はありますか?
あります。人の声をコンピューターで編集して言葉でない音にしたり、全く違うメロディーを作ったり、人だけど人じゃないようなものを主軸にして音楽を作るのは、自分なりの手法だと思っています。
この手法を定着させたのは僕だということに気付いたのは、実は最近なんです。確かに、デビュー当時もそうした手法をメインで取り入れてやっている人はいなかったんですが、いつの間にかボイスカットアップが当たり前になって、海外のDJにもよく知られるようになりました。それで、いろんな人から「あの手法を作ったのは君だよ」って言われるようになって「そうなのか」って。
ー「自分でジャンルを作る」という目標は達成されましたね。今後の目標を考えたりしていますか?
「また新しいジャンルを作ろう」という思いもあるにはあります。でも、やっぱり新しいジャンルは総じて、10代や20代の若いカルチャーから出てくるものです。特にダンスミュージックは若者のものだと僕は思っています。
なので、今は肩の力を入れるというより、自分ができる表現を続けていこう、という気持ちが強いですね。
ー2015年のアルバム『farewell holiday!』ではオーケストラを取り入れました。斬新なサウンドだったことを覚えています。
どうしても、打ち込みでオーケストラをやりたかったんです。東日本大震災の計画停電のとき、「電気を止められたら僕みたいなミュージシャンは何もできないな」と思って。昔の音楽家や作曲家はペンと紙だけで音楽が作れたのに、僕らは電気がなかったから何もできない。だから、自分の曲を譜面にして、誰かが再現できるようなことをやってみたかったんです。
実は、このアルバムを作るにあたっては、スタッフとすごく揉めました。売れないし、イメージが違いすぎるって言われたんです。僕は「この次のアルバムは売れる方向で作るから」と言って通そうとしたんですけど、「一回信用を失ったら大変ですよ」って言われて。
ーそれほど実験的な作品だということですよね。
彼らの言うこともすごく理解できたんです。だから「じゃあ先に売れるアルバムを作るよ」って言ったら、マネージャーが「いや、オーケストラでいきましょう」と言ってきました。お互いに相手の言い分を聞いて考え、相手の言うことを飲み込もうと思っていたんですよね。
ーいい関係性ですね。
『farewell holiday!』を出せたことは、自分としてもすごく満足のいくことでした。作っている最中は「誰かに先にやられてしまうかもしれない」という焦りもあったんです。というのも、当時全盛期を迎えていたEDMの盛り上がりは数年で消える。EDMの次は少し内省的なものだったり、メロウなものを追い求める人が増えるだろう、という確信があったんです。だから、極端に振り切ったものを早めにやりたい、という気持ちがありました。
ー確かに、ここ数年はlo-fiなど、チルアウトミュージックによったものが増えてきていますね。
4年前に既にそういう方向性で作っていたという足跡を残せたことが、すごく自信にはなっています。だからこそここ数年は「みんなが好きそうなダンスミュージックに振ってもいいかな」って思えるんです。「ここからは思い切って皆さんを楽しませていただきます」っていう感覚がある。
ただ一方で、ファースト・アルバムからずっと聞いてくれているファンの意見ばかりを聞いていると、同じようなものしか作れない、というジレンマもあります。昔からのファンが好きでいてくれる音楽も取り入れながら、今の時代に対する自分なりの音楽を作っていくバランス感覚を大事にしています。
ーそのバランスは難しいですよね。ファンであるからこそ、ファーストアルバムで受けた衝撃をもう一度求めたくなる気持ちもすごく分かります。
往年のファンの方から「今のDÉ DÉ MOUSEの音はアクがない」というご意見をいただくこともあります。確かに、昔の方がアクがあっていい面もあったんですけど、個性が強すぎると今の時代ではマイナスに働くこともあるんですよね。
ー個性がマイナスに働く?
今の若い世代はサブスクリプションサービスで音楽を聴く人がほとんどで、プレイリスト文化が広まっているんですね。誰もがDJのように、特定のジャンルに分類された音楽をプレイリストを通して聴いている。逆に言うと、強い個性が埋もれやすい時代になってきているんです。
そんな特性を持つユーザーが多い中で、聴いてもらうためにどうするかを考えたときには、できるだけジャンルが分かりやすい音楽に振るべきなんです。個性ではなく、ジャンルを明確にする。
ージャンル外の音楽と出会うきっかけが少なくなっているんですね。
まだ日本国内は、アーティストの個性で聴いてくれている。海外の方が、この傾向が顕著ですね。ちょっとでも音がジャンルから外れていると、プレイリストから外されるんです。ジャンルライクな時代の中で、自分をどう入れ込んでいくのか、という考え方が重要になってくる。
ーすごく納得できます。
時代に合わせていくことは、新しく人に知ってもらうために必要なことです。現に、ここ10年で大きく変わってきたのが、子どもたちがライブに来てくれることが増えたこと。親が、子どもさんに聴かせてくれているようですね。子どもは知らない曲でも、演者が楽しそうにしているとノってきたりします。そういうダイレクトな反応をもらえるのはすごく面白いです。
ーいい循環ですね。子どもたちから反応を得られるのは嬉しくないですか?
とても嬉しいですね。少し前だったら「自分も歳をとったんだな…」って思っていたかもしれないけど、今は子どもたちがライブに来てくれることが素直に嬉しい。自分の音楽が、下の世代に繋がっていることが嬉しいんです。
「思い出の人」にはなりたくないので、こうした状況はほんとにありがたいです。美しかった自分を残して消えていくってことはしたくない。やっぱり、あがいてでも今を楽しく生きている姿を見せた方が僕はかっこいいと思うし、常に目標がある方がハツラツとしていられるはず。毎年アルバムを出すっていう目標もあって、どれだけ飽きられてもひたすら「自分はこれが好きだからやる」という楽しい姿を見せていきたいです。
(後編へ続く)
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DÉ DÉ MOUSE
2019.12.11発売
8th full album「Nulife」
2,200 円 (tax out) / NOT0027 / not records
DÉ DÉ MOUSE “Nulife” Tour 開催中!
ツアー情報については
http://dedemouse.com/livescheduleへ
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