2020.01.10 [金]

ゲームを楽しむことが社会で評価されるようになるきっかけとして、ブロックチェーンは一石を投じるのかもしれない

今、ブロックチェーンは社会実装が進み始めているが、ミクシィのような企業のCTOからは、どのような景色が見えているのか。同社の『モンスト』開発の中核的なメンバーである村瀬龍馬氏に、ブロックチェーンの可能性を聞いた。

ブロックチェーンはコラボレーションを活発にするデータベース

ミクシィと聞くと、SNSの先駆けである『mixi』よりも『モンスト』(モンスターストライク)の会社のイメージを持つ方が今となっては多いかもしれない。改めて、ミクシィはどういう会社なのかを広報担当に聞くと、「私たちは、家族や友人など、顔が見えるリアルな関係のコミュニケーションを豊かにしていくサービスを、これまでも、そしてこれからも作り続けていく会社です」という答えが返ってきた。

同社CTOの村瀬龍馬氏は、この話を次のように補う。

「SNS『mixi』は、まだ気軽ではなかったインターネット上での友人・知人とのコミュニケーションをより簡単に、より楽しくできるようにしたことで、多くのユーザーの方にご利用いただきました。『モンスト』では、それまで一人で遊ぶものが多かったスマホゲームを、友人や家族と集まって楽しめることをコンセプトにしたことで、これまでスマホでゲームをやったことが無かった人も含めて大きくユーザーが広がったと思います。ミクシィでは様々なサービスを通してそうしたコミュニケーションの場を提供し続けていきたいと思っています」

そんな村瀬氏にブロックチェーンについて、どう考えているかを聞いてみた。

「エンジニアとして、その仕組みに魅力は感じています。ブロックチェーンを一言でいうならば、コラボレーションを活発にするデータベース。例えば、コラボレーションをする時に、そのデータベースをどちらが持つかといった意外と面倒な問題がありますが、ブロックチェーンなら共通のルールを作り、誰がそのデータベースに参加できるのか、そして参加者した人の痕跡を残すことができる。

もう少し踏み込んで言うならば、企業によってはIT監査があるんですね。監査担当者から、サーバーエンジニアが『このデータベースは改ざんしていませんよね』とか聞かれるんですけれど、ブロックチェーンは履歴に関してはそもそも改ざんが出来ず、痕跡が残るので、万が一の時にもきちんと検証をして証明することができます。

データベースやサーバーのログって、なんでいじられないんだっけ? ということを考えいく時に、それがサーバーエンジニアの良心に任されているようではダメなんです。ワークフローを整えることも重要ですが良心のようなヒューマン・ファクターが入らないようなシステムにしていくことが大事なので、ブロックチェーンで、そうしたことが実現されたらという期待はあります」

ただし、村瀬氏はブロックチェーンについて動向を注視している、という段階のようだ。なぜならば、上述したようなIT監査のような場面や、エンジニアの規律も現在のシステムで十分にまかなえていると考えているため。既存の選択肢を上回る動機となる何かがあるかを、冷静に見極めている。

「例えばですが、『モンスト』で育てたキャラが、他のゲームでも使われ、そこで進化して、また『モンスト』のキャラとして戻ってくるとしたら、ブロックチェーンのようなもので、トレーサビリティが必要かもしれません。ですが、処理スピードやレーテンシーを考えた時に、今は実際の運用面でブロックチェーンを選ぶかどうかは見極める必要があると思います。

うちで大事なことは、ブロックチェーンが使われるかどうかではなくて、面白いゲームなのか、友達や家族に話したくなるようなゲームなのか、事業として見込めそうなゲームなのかということ。

そういう意味では、ブロックチェーンを適用したゲームを作りたいというクリエーターが私に提案してきたとしても、何故必要なのかをしっかり説明するのは大変だろうな、と思っちゃいますね(笑)。もちろん、動向は注目していますよ。でもね、という感じかなぁ」

ゲーマーが、ゲーマーとして生きられる社会を目指して

今、ゲームやエンターテイメントの世界でもブロックチェーンの活用が進み始めている。例えば、「ゲームにかけた 時間も お金も 情熱も、あなたの資産となる世界」を標榜する『マイクリ』(「My Crypto Heroes」。提供元は、double jump.tokyo)のような動きを、村瀬氏は注目しているという。

「『マイクリ』さんは、ゲームの面白さへの挑戦と同時に、自分たちが使った時間、得られた価値を、ずっと資産にしたい、社会現象を巻き起こしたいという理念があると思うんです。あれはスゴくいいことで、ゲーム業界にとっては大事なことだと思います。ゲーマーが、ちゃんとゲーマーとして誇れるように、ずっとゲームをやり続けても大丈夫な社会にしないといけないというのは、あったほうがいいなと思うからです」

TVゲームが登場してから数十年が経つが、熱狂的な支持を得ている一方で、それを社会的に問題視する立場もある。最近では、依存症や引きこもりなどの文脈でゲームが語られることがあり、せっかくゲームを楽しんでいるのに、どこかで後ろめたさと隣り合わせがあることは否定できないはず。そのように、ゲームを楽しむことが社会のなかで評価されるようになるきっかけとして、ブロックチェーン技術は何か一石を投じるのかもしれない。

「ゲームって、世の中的には可処分時間とか、可処分所得っていうものを切り崩してやっているという捉え方があります。その一方で、エンターテイメントとして楽しんでもらったり、生活が豊かになったりということもある。当社の製品でいうと、友だちや家族とワイワイ過ごす場を作っているので、そうして過ごした時間や体験などには価値があると思うんです。そういう時間、感情、経験などが資産として残り、ゲームを楽しんでもいいんだよという状況を作ることができるとしたら、その手段としてトークンのようなものは選択肢のひとつとしてあるのかもしれません。

eスポーツなども勝利することによって自慢することができたり、観戦して楽しむことができる。そういう世の中にしていくために、ブロックチェーンを始めとして、いろいろな技術が活用していく必要がある。それが職業のようなものになるかどうかはわかりませんが、何かの証明があることでゲーマーが、ゲーマーとして生きられるようになったら、とても良いですよね」

要は、ゲームを楽しんでいる人同士はみんなで仲良くなれるし、そういう輪が広がっていけば、いろいろな立場を乗り越えて平和な社会に向かうのではないか、ということではないだろうか。

今秋に茨城で行なわれた「いきいき茨城ゆめ国体」では、文化プログラムの一環として「全国都道府県対抗eスポーツ選手権」が同時開催された。来年の鹿児島大会でもeスポーツの開催は予定されていて、実はいま、全国の高校では、eスポーツのクラブ活動も盛んになりつつある。こうした動きを巡る議論は、村瀬氏が言う「ゲーマーが、ゲーマーとして生きられる社会」を考えるうえで、様々な材料を提供するはず。ブロックチェーンの社会実装は、こういうところから進むのかもしれない。

村瀬龍馬
ミクシィ取締役執行役員CTO。高校卒業後、ゲームの専門学校に半年在籍するも「早く働きたい」という想いから、2005年に株式会社イー・マーキュリー(現:株式会社ミクシィ)に入社。SNS『mixi』の開発に携わる。2009年に1度退職し、ゲーム会社の役員や京都のゲーム会社でエンジニアなどを経験。2013年に株式会社ミクシィに復帰し、別部署を経て『モンスターストライク』の開発部署に異動、XFLAG開発本部 本部長としてXFLAGのエンジニア全体を統括した後、2018年4月に執行役員CTOに就任。2019年6月には取締役就任。

文/編集部 撮影/高橋宗正

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