ベトナムを中心に事業展開するBigbomは、オンライン広告に関するソリューションを提供している。CEOのVung Nguyen(ブン グェン)氏は、これまでに広告業界でいくつもの新規事業を立ち上げ、成功させてきた実績の持ち主だ。
Bigbomがブロックチェーン技術を用いてどのようなサービスを立ち上げ、どのような革新を広告業界に起こそうとしているのか。オンライン広告で著しい成果を出す同社の取り組みについて、IFA社の阿部氏が伺った。
ブロックチェーンを使ったオンライン広告ツールを提供
阿部:Nguyenさんの現在の役職と、キャリアについてお聞かせください。
Vung Nguyen:私はBigbomの共同創設者で、現在はCEOを務めています。
2006年に初めて起業をしてから、十数年にわたって新規事業の立ち上げに携わってきました。特に2011年からは、広告業界で数社を起業しています。Bigbomの一つ前には、Adtop(アドトップ)というオンライン広告を扱う会社のCEOを務めていました。Adtopの売上は日本円に換算すると大体15億円ほどになります。
阿部:すごいですね。では、Bigbomの事業内容を教えていただけますか。
Vung Nguyen:Bigbomは2015年に創業し、シンガポールに本社の拠点を置いています。
主なプロダクトは3つ。一つ目は「Bigbom Ads」といって、オンライン広告に関するソリューションです。GoogleやTwitter、Facebookなど複数のプラットフォームに広告を掲載する際、それぞれに広告予算の割り当てや入札の調整を行うには人の手が必要になります。「Bigbom Ads」は、これを最も高い費用対効果が得られるよう自動で最適化します。
二つ目は「Bigbom Marketplace」で、これは広告主と、パブリッシャーや代理店、コンテンツプロバイダーなどのオンライン広告の専門家をつなぐプラットフォームです。三つ目は「Bigbom Contract」で、ブロックチェーン技術を使ったスマートコントラクトの仕組みを利用しています。紙で行っていた広告の契約をオンライン上で容易にできるうえ、契約時の監査を情報の透明性が高いブロックチェーン上で行うことで、すべての取引関係者のリスクを最小限に抑えた契約が実現できます。
阿部:FacebookやTwitterなどのSNSにも力を入れられているかと思いますが、何人くらいのコミュニティを抱えておられるのですか。
Vung Nguyen:Telegram(テレグラム:メッセージを暗号化できるチャットアプリで、主に仮想通貨の情報収集プラットフォームとして使われている)には、1万人以上のフォロワーがいます。Facebookは6,000人程度です。Twitterは、以前1万人以上のフォロワーがいましたが、クリプトカレンシー(暗号通貨)についても情報を扱っていたところ、規約に触れてブロックされてしまいました。
阿部:社内のチーム構成はどのようになっていますか。
Vung Nguyen:現在はIT関連のエンジニアが10人、マーケティングとカスタマーサービスが合わせて10人、そのほか広報や総務、経理が合わせて4人ほど。全部で25人ほどになり、ここホーチミンだけでなく、ハノイにも数人が勤務しています。
阿部:なるほど、ハノイにもいらっしゃるのですね。
2020年にはアメリカへの進出を計画
阿部:今はベトナムを中心に事業を進められていると思いますが、ユーザーもベトナムの方が多いのでしょうか。
Vung Nguyen:現時点では、ベトナムのお客さんが中心です。ただ、2020年には、次のステージとしてアメリカとカナダへの進出を考えています。
阿部:それはどういった理由からですか。
Vung Nguyen:現在、世界のデジタルマーケティングの中心にいるのは、GoogleとFacebookで、この2社でおよそ世界の7割弱のシェアを占めています。この2社が本社拠点を置くアメリカも、全世界におけるデジタルマーケティングのマーケットシェアが非常に大きいため、Bigbomとしてもこういった大きなマーケットをターゲットにしていきたいと考えているんです。Bigbomは本社をシンガポールに置いていますが、それも世界のさまざまな国々に展開しやすいという理由からです。
阿部:アメリカへの進出というのは、ベトナムの商品をアメリカの人にも買ってもらうというイメージでしょうか。
Vung Nguyen:いえ、そこでビジネスをしたいんです。つまり、アメリカ人がベトナムの商品を買うということだけではなく、現地で事業を展開し、広告出稿のニーズがあれば、誰にでも検討していただけるようにしたいと考えています。
阿部:アメリカに進出する際には、アメリカにも支店を持たれるのでしょうか。
Vung Nguyen:現時点では、オフィス開設の計画はありません。ベトナムの企業で何社かアメリカのマーケットに進出しているところがありますが、現地にはオフィスを開設せず、シンガポールやベトナムからコントロールできています。
web上でも詳しい使い方を解説しているので、それを読むだけでもどのようなツールかが体験できますし、実際に使っていただくうえでも、フィーの支払いはVISAを介して世界のどこからでもできるようにするなど、在住する国に依存しない仕組みになっています。例えば何か問題が起きた際にも、web上からチャット形式でベトナムのチームが対応します。唯一アメリカに行ってやるべき作業があるとすれば、マーケティングとPR活動だけでしょうか。
阿部:なるほど。御社が提供するツールを少し見させていただきましたが、すごく分かりやすいシステムになっていますよね。UIやUXもいいと感じましたが、何度も改善を繰り返しながら運営されているのでしょうか。それとも、初めからこういったものがつくりたいという理想の形があったのでしょうか。
Vung Nguyen:UI/UXについては、創業した2015年からずっと研究をしています。世界中の100以上のシステムを参考にしながら自分たちに最適な形を考え、時間をかけてバージョンアップしてきました。現在は、お客さんがやりたいことを少し入力するだけで、最適な広告戦略を自動的に提案してくれるようになっています。
阿部:すばらしい。苦労してつくられたのですね。
Vung Nguyen:その通りです。
デジタルマーケティングに大きなインパクトを与えたい
阿部:日本についてもお伺いしたいと思います。今後、日本でビジネスをしたいという思いはありますか。
Vung Nguyen:デジタルマーケティングの大きなマーケットは日本にもあると考えているので、非常に興味を持っており、日本にも展開したいと思っています。直近では、日本でGoogleの主催のイベントが開催されるので、東京まで足を運んで参加するつもりです。
阿部:最後に、Bigbomを今度どのように展開したいと考えられているのかをお聞かせください。
Vung Nguyen:ShopifyやWooCommerceのような、アメリカのオンラインマーケティングの大手企業と提携したいと考えています。そうすれば、彼らは我々の広告システムをうまく使い、膨大なユーザーデータから最も効率の良いターゲティングができるようになります。このようにして、どんどんアメリカのマーケットでのシェアを拡大していきたいと考えていますね。
阿部:なるほど、まずはアメリカを攻めていきたいと考えておられるのですね。
Vung Nguyen:そうですね。その次のステップとしては、「Bigbom Contract」を「Bigbom Marketplace」の方にも適用していきたいと考えています。そうすれば、デジタルマーケティングの構造すらも置き換えるような形になり、デジタルマーケティングに大きなインパクトを与えます。例えば、これまではあるアメリカの会社がタイの広告会社を使いたいと考えたとしても、アメリカの会社からすれば要望がきちんと実現されるか分からず、タイの会社からすればフィーがきちんと振り込まれるかが分からなかった。お互いに不信感があったと思うのですが、これからは両社を評価し、最適な形を提案するマーケットプレイスを築いていきます。
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ライター/三ツ井香菜 編集/YOSCA 撮影/倉持涼