ベトナムは2020年までの「脱現金化(キャッシュフリー)」を掲げている。輸送費や保管費の削減、取引の効率化、犯罪阻止などのメリットを持つが、現金中心の社会に実装するにはインフラから変える必要があり、課題も多い。
ベトナムのBitcoinVN社は、ベトナム通貨と仮想通貨を交換する取引所を運営し、仮想通貨も利用できるATMを開発した。ベトナムは仮想通貨によってどう変わるのか。IFA社の阿部氏がベトナムへ渡り、共同創始者のDominik Weil(ドミニク ヴェイユ)氏に脱現金化への取り組みを伺った。
ブルーオーシャンを切り拓く仮想通貨ATM
Dominik Weil:仮想通貨も利用できるATMにはブルーオーシャン開拓のチャンスが眠っています。5年前のビットコインのようなものですね。チャンスを掴むべく、今はATMのネットワークを増やして取引のプラットフォームを拡大することに最も注力しています。決済プロセスの改善や、ローカルコミュニティのサポートも行っています。
阿部:仮想通貨が使えるATMはどれくらい普及しているのですか。
Dominik Weil:ベトナム国内で4個あり、これから12個に増やす予定です。2016年に初めて設置され、2017年に2〜3台増えました。
阿部:仮想通貨がだんだん浸透しつつある証ですね。ベトナムは仮想通貨のトレードがとても活発な国だと聞きます。市場規模はどれくらいですか?
Dominik Weil:各取引所の発表によれば、ベトナムでのトレーディングは2017年夏段階で5,000万〜1億円、トレード市場規模で言いますと世界のトップ10に入っています。日本や韓国よりも活発ですね。
阿部:ベトナム政府とも仕事をしていると伺いました。
Dominik Weil:はい。昨年はワークショップを共催してフィードバックをもらったり、イベントに招待して意見を聞いたりしました。
阿部:この業界に参入したのはいつですか?
Dominik Weil:2014年3月です。ベトナムでビットコインの取引所をローンチし、5年ほどアルトコインの仲介サービスを実施しました。ほかにもビットコインのATMや、取引所や市場を通さずに個人や企業が直接仮想通貨の売買を行うOTC取引、イベントの運営などを行っています。
阿部:なぜ2014年にこのビジネスを始めたのですか?
Dominik Weil:仮想通貨に魅了されたからです。きっかけは 2013年、共同創始者の1人がビットコインについて教えてくれて「仮想通貨っていったい何なんだ?」と不思議に思い、しばらく本を読みふけりました。ひとつの疑問点を解消すると、また新しい疑問が湧いてくる。3か月ほど勉強に没頭したあと、ついにそれまでの仕事を辞めてブロックチェーン業界に転身し、ビジネスを始めました。
阿部:最初はどんなプロジェクトを行ったんでしょうか。
Dominik Weil:2013年の夏に、フランクフルトでコミュニティをローンチしました。フランクフルトではすでにブロックチェーン関連のミーティングやミートアップが開催されていたのです。でも、2017年の夏にフランクフルトでのミートアップに行ったら8割が銀行家。フランクフルトはヨーロッパの金融の中心地でもあり、すっかり様相が変わっていました。ビジネスを展開しやすい場所を探した結果ベトナムに行きつき、今に至ります。
阿部:ベトナムの特徴を詳しく教えていただけますか。
Dominik Weil:賃金が2010年頃の2倍になり、ここ10年で急成長しています。若い人たちが多く、リスクを背負える起業家精神もある。ただ、環境が整っていない発展途上の国でもあり、仮想通貨ビジネスは「違法ではないが、合法でもない」というグレーゾーンに位置しているので、自由に動ける一方でアクシデントも多いです。
阿部:国によってビジネス環境は大きく左右されますよね。貴社のメインユーザーはベトナムの人々ですか?
Dominik Weil:サービスによりますね。ユーザーのほとんどはベトナム以外のユーザーがほとんどのサービスもあります。ベトナムに送金したいのに銀行が対応していない場合、よくビットコイン送金が活用されます。利用者の半数は銀行口座を持っていない旅行者ですね。
阿部:ベトナムは国外からの送金がとても難しい国だと聞きました。ビットコイン以外の仮想通貨にも対応しているのですか?
Dominik Weil:基本はビットコインですが、リップルなどほかのコインも使えますよ。
クレジットカードより仮想通貨が普及する可能性
Dominik Weil:ベトナム政府は2020年までにキャッシュフリーにするという大胆な計画を立てていますが、あと1年しかなく、正直間に合わないだろうと思っています。まだほとんどのビジネスで現金が使われていますから。
阿部:来年には間に合わずとも、将来的には現金の代わりに仮想通貨が使われるでしょうか?
Dominik Weil:ビットコインは代替通貨に適していますから、可能性は十分あります。クレジットカードのように、カード番号を読み込む決済形式になるのではないでしょうか。
阿部:ベトナムはクレジットカードを持っている人が多いのですか?
Dominik Weil:そんなに多くありません。中階級の人々が使っていますね。ビットコインが広く使われるようになったら、クレジットカードよりも仮想通貨カードが普及する国になるかもしれません。
阿部:中国や上海、香港、台湾などのベンチャーキャピタルはベトナムに注目しています。特に中国ですね。今後、多くの中国人がベトナムに進出すると思いますか?
Dominik Weil:仮想通貨以外でも、ここ2年ほどは中国人が海外進出する流れが生まれています。特にベトナムは不動産、テック、ブロックチェーンのスタートアップに適した国として注目されていますね。中国人の投資によって、ブロックチェーンのイベントが頻繁に開催されていますし、マーケティングやプロジェクトなどの機会もたくさん生まれています。
阿部:反対に、どこかの国に進出する予定はありますか?日本はどうでしょう。
Dominik Weil:シンガポールや香港への進出は考えていますが、日本の取引所はライセンスが必要なので今のところ考えていません。中国企業は2017年に市場が閉鎖されてから、東アジアや西欧諸国市場で貪欲に拡大していますが、日本や韓国の企業はあまり大きな動きがありませんよね。
阿部:中国企業のような積極性はないですね。仮想通貨やブロックチェーンに興味を持つ日本人に向けて、何かメッセージをいただけますか?
Dominik Weil:積極性も大事ですが、まずは慎重な判断を心がけてください。多くの人が「簡単にお金が手に入る」と思って仮想通貨に手を出し、失敗しています。よく考えずに投資したり、トークンを買ったりするのは危険です。まだ詐欺もありますから、安全なプロジェクトを見極めてから行動してください。そうすれば長期的な恩恵を受けられるはずです。
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/秋カヲリ 翻訳/佐々木希 編集/YOSCA 撮影/倉持涼