2019.12.30 [月]

ブロックチェーンを知った気になっている人にこそ読んで欲しい『マンガでわかる!? ブロックチェーン』誕生秘話

都内某所のある日。派遣会社からブロックチェーン団体の事務局と広報の仕事を紹介された、ブロックチェーンの「ぶ」の字も知らない仲本サラ(23)。彼女から飛び出す素朴な疑問と、職場での専門家とのダイアローグで、ブロックチェーンの理解が深まる『マンガでわかる!? ブロックチェーン』。なぜ、このコンテンツを制作することになったのか、アステリア社の担当者を取材した。

『マンガでわかる!? ブロックチェーン』【第1回】より

「つなぐ」技術のエキスパート企業がブロックチェーンに注目した理由

前身であるインフォテリア時代に出荷し始めたデータ連携ソフト「アステリア」シリーズを主力製品とするアステリア社。同社は、1998年に現在の代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏がXML(インターネット上のコンテンツを記述する言語の一種)の“つなぐ力”に魅力を感じて創業した。2018年10月には東証一部に上場し、最新版の「アステリア・ワープ」は、この分野のデファクト・スタンダードとも言われるソリューションとなっている。「アステリア・ワープ」は、EAI(Enterprise Application Integration)とよばれる分野のツールで、データフォーマットが異なるシステム同士のデータを連携可能にする。IoTやマーテク(マーケティング×テクノロジー)などによって集積されていくビックデータを扱う際の有力な手段としても注目されている。

実は、同社代表取締役社長/CEOの平野洋一郎氏は、2016年4月に国内初となるブロックチェーンの業界団体一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)を立ち上げ、その代表理事に就任している。ブロックチェーン界隈では、有名人でもある。

アステリア社のAI搭載のIT統合エッジウェアと呼ぶ製品「Gravio」は、バージョン3(2019年8月リリース)でブロックチェーンに対応した。

「Gravio」は、振動センサー、温湿度センサー、スイッチ、人感センサー、開閉センサーなどのIoT機器を活用する“カジュアルIoT”を提案している製品群。例えば下北沢(東京・世田谷)の北口商店街にある飲食店「極鳥」では、開閉センサーを利用してトイレの空き状況をリアルタイムで店内に掲出しているほか、冷蔵庫内の温度センサーで異常を自動的に検知するなどに「Gravio」は活用されている。

これをバージョンアップさせ、IoT機器で得たデータの信頼性をブロックチェーンで確保しようというのが最新のバージョン3である。アステリア社では、このようにブロックチェーンを製品に搭載することで、より実用的に利用するための施策を推進している。

こうした製品をリリースするほかに、ブロックチェーンを熟知した会社ならではの取り組みをオウンドメディアで行なっている。それが『マンガでわかる!? ブロックチェーン』だ。このコンテンツは、アステリア社のブロックチェーン事業推進室・室長で、ブロックチェーン推進協会(BCCC)では技術応用部会において技術者向けにブロックチェーンのアプリでの活用方法などを啓蒙している森 一弥氏の発案でスタートした。

ちゃんと説明すれば技術の人ではなくともブロックチェーンを理解してもらえる

「もともとは、私の席のとなりに座っていた広報担当者との雑談がきっかけです。知人のマンガ家さんに依頼ができそうということを聞いたので、じゃあ、お願いしてみようということで、連載をスタートしました」(アステリア ブロックチェーン事業推進室 室長、ストラテジスト・森 一弥氏)

そもそも、同社がオウンドメディア「in.LIVE(インライブ)」をスタートさせた背景には、次のような狙いがあった。

「弊社では、製品ブログや社長ブログなどで、製品情報を超えた情報発信を行なってきました。ただ、扱うテクノロジーや事業領域が広がってきたこと、そして、社会における情報テクノロジーのあり方に関心が集まるなかで、発信内容などを広げていく必要性が増してきました。アステリアという名前は、情報システム部門の方には、よく知っていただいているのですが、個人投資家や学生さんなどを含めた一般生活者には、何をしている会社かよくわからないという声があったことも、オウンドメディアを充実させる背景にありました」(アステリア 広報・IR室 「in.LIVE編集長」田中 伶氏)

田中氏は、自らもBlogで積極的に情報発信を行ない、オウンドメディアなど分野で幅広く活動をしている。ブロックチェーンの専門家と、オウンドメディアの専門家がタッグを組んでスタートした企画だが、その道は平坦ではなかったようだ。作者紹介の森氏の箇所には<監修だと思われている事が多いですが、ストーリーから書いてますから!むしろ公開版よりめちゃめちゃ書いてますから!>とある。このあたりについて、森氏に聞いてみると
「技術のことも、内容の構成も作れるのでマンガでブロックチェーンの話をしたい!と、漫画家さんに相談したところ、快く引き受けてもらえたので、早速原案を練り始めたんです。最初から12回ということだったですが、主人公の名前から想像していただくとおわかりのとおり、もう少しいろいろなキャラ設定や伏線があったんですが…」(森氏)

これに対して、コンテンツ作りの専門家の見解は?
「たしかにやりたいことはわかるんですけれど、あまりにも内容が専門的になりすぎて、読者が消化不良になっても目的は達成できません。そのあたりは、話し合いを繰り返しながら、仕上げていきました」(田中氏)

詳しいことは割愛するが、専門家同士が意見をぶつけ合って対話を繰り返していくなかで、初心者でもわかりやすくブロックチェーンを学べるコンテンツへと練り上げられていった。

詳細は、ぜひ本編をご覧いただきたいが、2019年6月に最終回が掲載され、その後の反応も悪くないようだ。ブロックチェーンにマンガで触れてもらうことで、知らない人にもざっくりとイメージを掴んでもらえるようになったことが大きいという。クライアント企業に説明をする際も前提となる知識を持ってもらえるようになったと、森氏は話す。さらにブロックチェーンを知っている気になっている人にもブロックチェーンについて正しく理解してもらえるようになったと分析する。

「ブロックチェーンはスゴい技術であれもこれも何でもできると思っている方と、仮想通貨のイメージに引きずられて怪しいものという印象をお持ちの方がいます。こうした方々の先入観を変えるきっかけになっている面もあると思います。

ブロックチェーンもIT技術のひとつなので、メリットとデメリットの両方があります。そういうところの理解をしていただくきっかけになった面はありますね」

最後に、森氏が<公開版よりめちゃめちゃ書いてます>とする構想の断片を少し。読んだ方はお気づきと思うが、主人公の名前は、仲元サラ。この名前に意味がある。ITに疎く、ブロックチェーンの「ぶ」の字も分からなかったサラの今後や、彼女の秘密が今後明らかにされていくのか…。続編の構想は検討中だということなので今後の展開にも期待したい。

森 一弥氏
アステリア(旧インフォテリア)株式会社 ブロックチェーン事業推進室 室長 ストラテジスト。2012年よりインフォテリア勤務。2017年3月までは主力製品「ASTERIA Warp」のシニアプロダクトマネージャーとしてデータ連携製品の普及に務め、特に新技術との連携に力を入れる。 2017年4月より新設されたブロックチェーン事業推進室にて実証実験やコンサルティングなどを実施。またブロックチェーン推進協会(BCCC)では技術応用部会を立ち上げ、技術者へブロックチェーンアプリケーションの作り方を啓蒙している。

田中 伶氏
アステリア株式会社 広報・IR室。メディアプランナー。 大学在学中に人材育成会社を立ち上げ、その後はスタートアップでPRや法人向けの新規事業立ち上げなどを経験。話題のビジネス書や経営学書の解説をするオンラインサロンを約5年間運営。難しいことをやわらかく、平たく解説するのが得意。

取材・文/DIME編集部 撮影/篠田麦也

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