2019.12.24 [火]

新しい生き方を選んだ人が、孤独にならない社会をつくりたい ――「サードコミュニティ」を仕掛ける、気鋭のプロデューサーが描く未来

If you want to go fast, go alone. If you want to go far, go together. (早く行きたいなら一人で行け、遠くへ行きたいならみんなで行け)——昨今よく耳にする詠み人知らずの言葉を全身で体現する、一人の男性がいる。“新たな社会文脈を創り出していく企画集団”NEWPEACEを率いる高木新平氏だ。

高木氏はこれまで、政治、住まい、男女の在り方といった旧態依然の領域を独自の視点で捉え直し、新たな潮流を生み出してきた。アクションの背景にあるのは「画一的な価値観の解放」だという。

そんな彼が新たに立ち上げ、新たな潮流を牽引する旗印になっているのが、会員制のカレー屋「6curryKITCHEN」とクリエイティブ版ベンチャーキャピタル「NEWS」。いったいなぜ、カレー屋から社会を変えることができるのだろうか。どうして、スタートアップエコシステムの醸成にコミットするのか。立ち上げに至る同士のビジョンと、今後の構想について、話を伺った。

システムを変えたいから、ビジョンを掲げて仲間を募る

—— 高木さんはこれまで、シェアハウスを全国各地に立ち上げたり、東京都知事選で「ネットを活用した選挙戦」をプロデュースしたり、過去にない“新たな潮流”をプロデュースされています。最近は会員制のカレー屋「6curryKITCHEN」やクリエイティブ・マーケティングの知見を投資する「NEWS」を立ち上げられていますが、立ち上げる事業はどのようにしてコンセプトを決められているのでしょうか。

高木:“新たな潮流”にこだわってきた理由は、“20世紀的な価値観”を壊したかったからです。僕が考えるに、20世紀は画一性の時代でした。画一的な教育制度や、画一的な幸せのロールモデルがあったと思います。“一億総中流”という言葉がそれを体現しています。

そうした側面があったおかげで経済成長することができた反面、正解と不正解が存在するために、生きづらさを感じる社会だったのも事実です。一方、ビジネス環境の変化が激しい現代は、複雑化した課題が散在していて、多様性なくして経済成長は望めません。

そこで“解放”をキーワードに、キャンペーンや事業をつくってきました。事業を立ち上げた領域はさまざまありますが、根底にある想いは一緒です。

—— そうだったんですね。“解放”を行う手段として、事業を立ち上げるだけでなく、協業やスタートアップへの投資も行われています。周囲を巻き込み、協業するスタイルを取るのは、何か理由があるのでしょうか?

高木:僕は想いを言語化したり、ストーリーを組み立てて社会に浸透させることが得意なんです。プロダクトや事業をつくることも好きですが、僕より得意な人たちもたくさんいます。であれば、彼らの取り組みを広げていくことも方法論の一つだなと。大きなシステムを変えるためには、さまざまな領域から同時多発的に新しい動きが起きることが重要だと思うので

—— 目的が同じなのであれば、手段はそれほど重要ではないと。

高木:その通りですね。かつて“起業後進国”と言われた日本も、少しずつスタートアップエコシステムが成熟しつつあります。起業家人口が増えていますし、資金の調達額も年々増えています。要するに、“若くて面白い人”が増えているんです。僕は、彼らと手を組んで社会を変えていきたい。

「新しい事業が立ち上がっても、法律や規制の観点でなかなか進展がない」という話を聞くことがあると思います。ただ実は、若い官僚の人たちの多くも社会システムを変えようと努力しています。ただ、今はパブリックセクターだけで社会を変えられる時代でもない。

この事実を民間にいる僕らはもっと知るべきですし、お互いに協力し合えば変化の速度も速くなります。僕は彼らをつなぎ合わせ、変化を促進し、スタートアップエコシステムの醸成に貢献したいと思い、「Public Meets Innovation(PMI)」という組織をつくりました。そこではスタートアップと官僚が手を組んで、ワークショップや提言策定などしています。成果が出るまで時間はかかりますが、このコミュニティは必ず重要な橋渡し役になると信じています。

—— クリエイティブ版ベンチャーキャピタル「NEWS」を立ち上げたのも、従来にとらわれない形でスタートアップエコシステムへの貢献をしようとされているということですか?

高木:NEWSは、僕の問題意識が色濃く反映された取り組みです。市場の中では、まだまだナレッジが偏っています。その一つがクリエイティブ・マーケティングです。大企業であれば広告費を払って広告代理店に委託できるかもしれませんが、スタートアップはそれほど予算がありません。

しかし、新しいサービスが次々と広がることは日本社会の競争力のためにも、ユーザーの便益のためにも必要です。そこで、僕らにできることはないかと考えた結果、お金ではなくストックを対価に働く、投資型の形態を取ることにしました。それぞれが自立したり企業に属したりしながらも参画できる「分散型組織」として運営していくことで、クリエイティブを投資するという不確実性が高く・短期的ではないビジネスモデルの耐久性を高めています。古巣でもある博報堂のような大企業から副業的に参画するプロを増やしていければ、クリエイティブやマーケティング技術のアロケーションとしてもいいですし、きっと大企業にも良い経験を持ち帰ると思います。

人を動かすためには、メッセージよりもアーキテクチャのほうが機能する

—— 高木さんが考える、“20世紀的な価値観”を解放できる社会とはどのようなものなのでしょうか。

高木:「新しい生き方を選んだ人が、孤独にならない社会」ですね。21世紀になり、個人の中に多様性を持とうという人が増えました。今ではメジャーな動きになりつつありますが、起業や転職、副業などの自由なキャリアチェンジもそうした潮流の一つです。ただ、思い切って飛び出した先で、孤独になってしまう人も一定数います。なぜなら、トレンドは変わっていっても、根っこにあるシステムが旧態依然だからです。

僕はこれまで、メッセージで人を鼓舞して価値観を刺激し、新たな行動を応援してきました。しかしキャリアを変えることって、一歩間違えると孤独になってしまうんですよね。出産してママになった女性もそうですし、定年退職をした年配の方も、また起業家やフリーランスにもそうなってしまう人が多い。新しい生き方を選ぶ人こそ、個人としての自分を支えるコミュニティが必要なんです。

僕自身の過去を振り返ってみると、会社を辞めたとき独りだったらどうなっていたか想像ができません。シェアハウスをつくり、そこに仲間がいたから、果敢にチャレンジすることができました。それに鑑みれば、一人の人間として変えにいくのではなく、その人を取り巻く環境を変えにいくことが結果的には行動、そして価値観を変えていくのではないかと思うようになりました。

僕は、“個の時代”への変化が“孤の時代”に向かうのではないかと危惧しています。「個人の活躍を追求した結果、最終的に孤独になってしまう」というジレンマをなくすために、一人ひとりがチャレンジしやすい環境(アーキテクチャ)を構築することが最近のテーマです。

—— SNSで発信が容易になり、個人として意見表明をできる時代になりましたが、意見表明をしたがためにマイノリティになってしまう人も少なくないですよね。

高木:そうなんです。SNSから生まれる“ニューヒーロー”の枠は限られています。数万人単位のフォロワーを抱えるインフルエンサーがいる一方で、大抵の人はフォロワーが数百人程度の状態で意見表明をしているので、行動しても孤独になってしてしまうんです。

SNSは“自由に泳げる海”ですが、泳ぎきる体力を持っているのは、コミュニケーション力が高い、限られたごく一部の人だけ。挑戦するのは容易でも、生き残るのは至難の技です。だから、挑戦しやすい風潮をつくることより、挑戦しても死なない環境をつくることに注力しています。

どうしてカレー屋が、人生を主体的に生きる起点になりうるのか

—— インタビューの冒頭で「事業を立ち上げた領域はさまざまありますが、根底にある想いは一緒です」とおっしゃっていました。今年になって法人化した会員制のカレー屋「6curryKITCHEN」にも、高木さんが目指す世界観が投影されているのでしょうか。

高木:もちろんです。「6curryKITCHEN」は、レストランではなく、あくまでキッチンであることを標榜しています。つまり、「提供者とお客さん」という二項対立の関係性ではなく、提供者もお客さんも、全員が「会員」として、同じ立場でいられるように設計しています。「みんなで混ざってつくる」コミュニティなんです。

高木:例え話ですが、僕はNIKEが大好きで“超リスペクト”しているのですが、100万円分のNIKEのスニーカーを買う機会があったとしても、買えないと思うんです。買ったとしても、上がる幸福度には限界がある。それよりはむしろ、100万円を払って、NIKEのスニーカーをデザインする機会の方が魅力的です。そのほうが体験価値が高い。そんな気がしませんか?

何が言いたいかというと、人生は「作る側」の方が楽しいということです。観に行った文化祭は覚えてなくても、自分が仲間と徹夜して作った文化祭は忘れられない思い出になっているように。なぜなら、そこには学びやつながりが生まれるから。お金を払って消費するのではなく、お金を払ってつくる機会を得るほうが、得られる価値が大きい。だから「6curryKITCHEN」では、だれもが提供側になる仕掛けがあります。

カレーを食べに来ているといつの間にかキッチンに立っている。カレーを起点に、イベントを開催する人も、一日店長をするもいます。一人でも多くの人に、キッチンの中に立ってほしいんです。

フォロワーが数十人のSNSで発信しても、情報洪水の中では誰も気づいてくれないかもしれません。でも「6curryKITCHEN」のように共有する価値観でつながったリアルなコミュニティがあれば、数十人がしっかり注目して、応援してくれるんです。そうした土壌があれば、安心してステージに立つ機会を得られるので、自分の人生を生きるきっかけが得られるかもしれませんよね。

—— 「カレー屋」はあくまでフックに過ぎないんですね。

高木:おっしゃる通りです。究極的に言えば、僕は飲食店をやりたいわけではありません。“食”を通じて、コミュニティをつくりたいんです。会食は会議室で行われるミーティングと異なり、食事によって会話にリズムが生まれ、人間関係を構築しやすくなるメリットがあります。また、ジブリのシーンには必ず食事が描かれますが、大切な関係性も食事から生まれると思っています。つまり僕が売っているのは、カレーではなく、食を起点にしたコミュニケーションなんです。

—— ちなみになぜ、数ある飲食店の中でも、カレー屋を始めることにしたのでしょうか。

高木:まず、カレーが好きで。子どもの頃から僕の中でカレーは最高の日本食でした。でもカレー業界は、同じく人気の食べ物であるラーメン等に比べてイノベーションが起きてないような気がして。

カレーの歴史を紐解いた書籍『カレーライスと日本人』によると、実はカレーには定義はないらしいんです。カレーの本質は「融通無碍」、つまり自由であると。その話を知り、交流のアイテムとして最高の素材だと思いました。主食からおかずまで、なんでもカレーにすることができるので。

サードコミュニティを社会のインフラに——“経営者”高木新平が目指すビジョン

—— これまで、高木さんが掲げるあるべき未来像と、現在携わる事業についてお話をお聞きしました。今後はどのような仕掛けをされていくのでしょうか?

高木:「6curryKITCHEN」はその一つですが、会社でも家族でもない、パブリックとプライベートが交わるような「サードコミュニティ」を作っていきたいと考えています。起業や複業が広がり、家族のあり方も多様化しているなかで、そういう受け皿が新しいライフスタイルに踏み出す人のいいクッションになると思っています。人はクッションがあるから思いっきりジャンプできる生き物だなと。

食に限らず、サロンや本屋など「サードコミュニティ」となるお店を幾つか展開していく予定です。並行して、お店をコミュニティ化していくための必要なOS(オペレーションシステム)もつくっていきます。

属人的なセンスとネットワークに頼りになりがちなコミュニティづくりを、技術を駆使して様々な人が立ち上げ可能なものにしていきたいなと。それはいずれ、新しいまちづくりになっていくと思っています。

20世紀は「勤勉に働いて、快楽的に消費する」生産と消費が分断して成長した時代でした。しかし余暇がすべて消費に回収される社会は豊かではないと思います。むしろこれからは働くことと遊ぶことの境目が曖昧になっていくし、同時に複数のアイデンティティを持つことも当たり前になるでしょう。

そうした人間の多様性をグラデーションのように柔らかく支える「サードコミュニティ」を社会に浸透させていくことで、人々が画一性から解き放たれて多様性が爆発する未来をつくることが、僕のビジョンです。

 

高木 新平
NEWPEACE代表 / ビジョンアーキテクト
3.11を契機に博報堂から独立。シェアハウスを全国各地に立ち上げる。2015年「20世紀からの解放」を掲げ、Visioning Company NEWPEACEを創業。自動運転・シェアリングエコノミー・SDGsなどの社会浸透を仕掛ける。2017年よりサードコミュニティ事業を展開。

取材・文・撮影/モメンタムホース

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