2019.12.20 [金]

コミュニティこそが財産、BoostIOが目指すオープンソースの貢献者が報われる世界

ソフトウェアの設計図であるソースコードを公開し、誰もが自由に改良・再配布できるようにする開発手法「オープンソース」。不特定多数の開発者が参加することで、ソフトウェアの機能向上が見込めるメリットがあるが、日本ではまだ浸透し切っていない現状がある。

本記事では、「オープンソースの貢献者が報われる文化」を浸透させるため、ソフトウェア開発者に最適化されたノートアプリケーション「Boostnote」と、オープンソースプロジェクトのための報奨金プラットフォーム「IssueHunt」を運営するBoostIO株式会社CEO・横溝一将氏にインタビューした。

数千人のコミュニティに支援される独自のサービス開発体制や、企業のオープンソース化が圧倒的に合理的な理由、「世界最大の開発者コミュニティ」をつくる展望について伺った。

世界中に散らばる社外の数千人とともに、サービス開発

—— まずは、BoostIOが手がけている2つの事業について教えてください。

横溝:「Boostnote」は“エンジニア向けのEvernote”のようなサービスで、ほぼ全世界にユーザーさんがおり、海外ユーザー比率が90%の状況です。

今まではデスクトップアプリを提供していましたが、12月にはマルチデバイス化をはじめ機能を大幅に拡充したリニューアル版のリリースを予定しています。ものすごくディティールにこだわって開発しており、年内にユーザー数は100万を突破する勢いです。

「IssueHunt」はオープンソースのプロジェクトに対して誰でも好きな金額を投げ銭でき、それらが貢献者に分配されるサービスです。プロジェクト掲載数はおよそ1万3000件を突破しました。

—— Boostnote自体も、約2000人がSlackに参加するオープンソースコミュニティによって支えられているとお伺いしました。

横溝:Boostnoteはもともと会社のメンバーだけで開発・運営していましたが、2016年にオープンソース化することを決めました。その後、CTOが抜けたり、それに伴って他のメンバーも抜けたりして、しばらく僕一人で運営していたのですが、当時の僕は技術力がなかった。「1人じゃ何にもできない」と打ちひしがれていたときに、Boostnoteのオープンソースコミュニティに「助けてほしい」と率直に伝えてみたんです。

すると、名前も顔も知らない、世界中にいるコミュニティのメンバーたちが次々に開発をサポートしてくれ、今のような体制ができあがりました。

—— サービスを運営するなかでの気づきから、社外のメンバーに手伝ってもらう現在の体制が構築されたのですね。

横溝:そうです。さらに、この体験を経て「コミュニティに恩返ししたい」という気持ちが生まれ、IssueHuntをつくりました。最初はBoostnoteを支援してくれたコミュニティに恩返しすることが目的でしたが、今では約170カ国のユーザーに使っていただけるサービスになりました。

日本ではまだ、オープンソース開発者の貢献に報いる文化が整っていません。僕たちはIssueHuntの拡大を通じ、そうした現状を変えたいと考えています。

—— 日本では、オープンソース開発者を支援することは珍しいことなのでしょうか?

横溝:海外と比べると、まだまだ文化が浸透しているとは言えません。特にアメリカではオープンソースに寄付することが当たり前の文化があります。

IssueHuntをつくる以前は、日本にも同じ文化を持ち込めると考えていましたが、そう簡単にはいきませんでした。例えば、アメリカのチップ文化を日本で根付かせるのは、途方もない時間がかかるはずだし、ほとんど無理ですよね。オープンソース開発者の支援についても同じことが言えます。

そもそも、企業に対してオープンソース開発者を支援するよう説得するのはコストが高いです。現場の方々には共感していただきやすいですが、決裁者層の方々からは理解を示されないことが多々ありました。

リリース初期は綺麗事で物事を進めすぎていた部分が大いにあったなと反省しており、現在はオープンソースのエコシステムに影響が無い範囲で、いかに企業に対して実益をお返しできるかを考えているところです。

オープンソース開発は圧倒的に合理的 

—— 企業がオープンソース開発を行うメリットは、具体的に何が挙げられますか?

横溝:3点挙げられます。まず、「採用ブランディング」です。オープンソース開発を行なっている企業は、開発者の方々にとって魅力的に映ります。当社も積極的に自社の技術をオープンソースで公開しており、求人を出すとすぐに数十人から応募がくる状況です。

次に「技術のガラパゴス化を防ぐことができる」点です。大体の企業の技術はガラパゴス化していると思います。これは悪いという話ではなく、人材不足かつ多忙な状況においては、仕方ないことです。しかし、世界で最先端の技術に触れている開発者の方々から助言を受けられれば、ガラパゴス化を防げます。

最後に「自社の開発が効率化する」ことです。例えば、これまでBoostnoteのプロジェクトには、BoostIOからはベトナムのメンバーが一人アサインされているだけでした。ところがSlackには2000人もの社外のメンバーがおり、Boostnoteを共創している。貢献してくださっているコミュニティの方々へは、IssueHuntを通じて報酬を支払っています。

取材当日、たまたま打ち合わせに来ていたIssueHuntのProduct ownerを務めるDavy Castel氏。BoostIOは全員がリモートワークを実践している。

—— それだけのメリットがありながら、オープンソース化を進める企業が少ないのは、どういった背景からなのでしょうか?

横溝:国民性じゃないですかね。あとは多くの企業が大した技術を使っていない。普段、「コードを公開するのが恥ずかしい」という人によく出会いますが、「他の人はあなたが思っているよりあなたに関心は無いよ」といつも思っています。

オープンソースにしてしまえばたくさんのリターンを得られるのに、やらない理由を探している人や企業が多いですよね。

—— 日本の場合は、フォーク(あるソフトウェアのソースコードを利用して別のソフトウェアをつくること)されることに対して抵抗感を持つ企業も多い気がします。

横溝:そうですね。しかし、ソースコードをパクられても問題ないサービスは、どんどんオープンソース化を進めたるのが、圧倒的に合理的だと思います。

「Boostnote」も2000回近くフォークされていますが、コードはパクれても、人の集積であるコミュニティは絶対にパクれない。唯一無二のオープンソースコミュニティを抱えていることこそが、僕たちのコアコンピタンスです。もし今マイクロソフトがBoostnoteをつくっても、僕たちより良いものはつくれないと確信しています。

「世界最大の開発者コミュニティ」をつくる

—— この1年間、IssueHuntを運営してきて、感じている課題は何が挙げられますか?

横溝:サプライ側とデマンド側のバランスはまだまだ取れていないと感じています。現状、プロジェクト数は正直まだまだ少ないと思っていますが、かなり有名な開発者も報奨金リクエストを載せてくれています。

しかし、そういった人たちが求めるリクエストに対して、支援する人たちが圧倒的に足りていません。これはIssueHuntに限らず、オープンソース開発者支援の文化そのものの課題だと思っています。

—— IssueHuntをビジネスとして成立させる上での難しさに関しては、いかがでしょうか?

横溝:ビジネスとして成立させることは大切ですが、僕たちが本当にやりたいのは、「世界最大の開発者コミュニティをつくること」です。

例えばば、これまでつくってきたコミュニティを使って人材紹介業をやれば、お金はつくれます。しかし、そんなものに興味は無いし、僕たちがやるべきことは当社のミッションである、「クリエイター達の指揮者となり、働き方の標準を変えていく」ことです。やるべきことのみにフォーカスしていきます。

—— それでは、IssueHuntをいかに成長させていくのでしょうか?

横溝:今のフェーズで大切なのは、とにかくユーザー規模を拡大すること。何よりも、ユーザー規模の拡大を最優先に、事業に臨みます。

—— 最後に、これから事業を通じてどんな世界観を目指したいのか教えてください。

横溝:素晴らしいコードを書き、世界の技術発展に貢献している人たちが、その貢献に見合った対価を得られる世界になればいいなと思います。また、それらを通じ、すべてのクリエイターが公正に評価され、どこでも誰とでも共創できる場所をつくっていきます。

横溝一将氏
BoostIO株式会社 Co-founder/CEO。大学在学中にシステムやアプリケーション受託の会社を福岡で起業しその後上京。会社として作っていたBoostnoteをオープンソース化し、現在はGitHubスター約15,000を獲得している。共創してくれているコミュニティの方々に何か恩返ししたい想いや、オープンソースエコシステムが抱える課題をIssueHuntに落とし込み、グローバルなメンバー達とともに世界へ挑戦している。
取材・文/ハッスル栗村(モメンタム・ホース) 編集・撮影/岡島たくみ(同)

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