Libraの目的は今のお金の課題解決か?

2019.12.16 [月]

お金とは何か#16
Libraの目的は今のお金の課題解決か?

Libraの目的は今のお金の課題解決か?

Libraになぜ中央銀行が慌てているかを前回までの記事で書いてきました。

Libraのホワイトペーパーをよく読むと法定通貨の地位を脅かす以上のこと、今の金融自体の課題を解決する機会を提供しているように見えます。

ホワイトペーパーの以下の部分をみると、まさに今のお金の問題への解決策をLibraが生み出そうとしていると思えるからです。そしてそれはお金とは本来どうあるべきかまで考えさせてくれます。

Libraが生み出す機会

–ホワイトペーパーからの抜粋——————————-
共にこの取り組みを始めるにあたり、皆さんに私たちの考えをお伝えし、このイニシアチブから生み出したいコミュニティやエコシステムの方向性を定めたいと思います。

  • もっと多くの人が金融サービスや安価な資本を利用できるようにする必要がある、と私たちは考えます。
  • 人には合法的な労働の成果を自分でコントロールする生まれながらの権利がある、と私たちは考えます。
  • グローバルに、オープンに、瞬時に、かつ低コストで資金を移動できるようになれば、世界中で多大な経済 機会が生まれ、商取引が増える、と私たちは考えます。
  • 人々は次第に分散型ガバナンスを信頼するようになる、と私たちは考えます。
  • グローバル通貨と金融インフラは公共財としてデザインされ統治されるべきである、と私たちは考えます。
  • 私たちには全体として、金融包摂を推進し、倫理的な行為者を支援し、エコシステムを絶え間なく擁護する 責任がある、と私たちは考えます。
    ————————————

一つずつ考えていきます。

  • もっと多くの人が金融サービスや安価な資本を利用できるようにする必要がある、と私たちは考えます。

わかりやすく想像できることは、Libraに書かれたとおり世界にはまだ17億人もの銀行口座を持たない人がいるので、その人達にも銀行口座を持てたのと同じサービスを提供できるようにしようと言うことです。

ただし、よく考えると、もっと深いことを言っていると想像します。

例えば現在、多くの人が利用しているネット証券が使われるまでは、株証券の売買は、証券会社の人に対面か電話で株の売買を依頼して、多額の手数料を取られていました。

証券会社は手数料が利益の源泉なので顧客に売買を繰り返させるように営業活動をしていました。結果的に多くの顧客は損をしました。

ネット証券はより多くの人に金融サービスを安価な手数料で利用する機会を提供したのです。これと似たことを金融サービスのより広い分野でより進化した形で使えるようにことを目指しているのだと想像します。

そしてこれは金融機関のあり方がさらに激変することを意味します。ネット証券が誕生したことで、それまでの証券営業の仕事は一気に減りました。そのようなことが金融のあらゆる分野に広がっていきます。

そのときに必要とされるサービスの機会もLibraは提供するということなのでしょう。

さらに、一緒にサラッと書いてある、もっと多くの人が安価な資本を利用する機会も作りたいとはどういうことでしょう?

例えば上場企業は増資(株式の追加発行)や社債を発行することで資本(お金)を集めることができます。未上場企業や個人はこれはまずおこなえず、基本は融資(借金)をしてきました。

それが最近ではクラウドファンディングというスタイルで、個人でもお金を使いたい目的を提示して、支援者を集めることもできてきています。そういうことがより多くの人ができるようになれば、上場企業やその社員でなくとも、安価な資本を利用する機会は広がるわけです。

そのような機会も提供していくと言うことかと思われます。実はFacebookはWhatsAppという世界で一番使われているメッセージングアプリですでに送金を行えるようにしているのでこれはイメージしやすいのでしょう。投銭のようなことが既にユーザー間でできるということですから。

逆に言えば、今までの金融機関は個人がアクセスできない金融サービスをマージンをとって個人に提供して利益を得ていただけで、IT技術が進歩してブロックチェーン技術もさらに活用され広まってきたら、その中抜きビジネスはピンハネとの違いを説明できなくなるかもしれません。

  • 人には合法的な労働の成果を自分でコントロールする生まれながらの権利がある、と私たちは考えます。

これも深く考えると非常に意味が深い可能性があります。このお金とは何かの連載の中でトマ・ピケティの『21世紀の資本』を紹介しました。資本の増加速度が労働による収益の増加を常に上回っているので金持ちはより金持ちになり労働者との格差は広がるばかりであること、資本の適正な分配ができないと資本主義は持たないことをこの本は指摘していました。

2019年現在もお金は、お金を一定額以上持っている人がそれを運用することで得られる利益が、労働して得られる利益より大きいままです。このことと、ここでLibraが提供できると主張する機会は強い関係を持っているのでしょう。

なぜなら、今のお金は、合法的な労働の成果を自分でコントロールできる生まれながらの権利がないからこのような動きをしているとも言えるからです。

例えば、株式会社に勤めて、合法的な労働の成果を提供しても、その会社の利益の多くが株主への配当として支払われている場合、これは労働の成果を自分でコントロールする力を持っていないとも言えるのではないでしょうか?これは一例にすぎません。一生懸命働いても、貧しい人もいれば、労せずしてもともと持っていたお金が増え続けている人もいます。少なくとも労働の成果は自分でよりコントロールできるようにしたいと思うのは自然な願いだと思います。その機会を提供できると書いであるのです。

まとめ

Libraが提供する機会の最初の二つは、お金のあり方を本質から考え直させ、資本主義の現代の問題点にまでより良い変化を促すよう思えるものです。

その意味は深いですが、これを個人情報を売ることを利益としてきた民間企業が最初に計画する形で本当に公正にすすめられていくのだろうかというほど、大きな社会課題に挑もうとしています。

次の記事は引き続きLibraが提供する機会の続きを解説していきます。

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