Libraが引き起こした議論の意味

2019.12.16 [月]

お金とは何か#15
Libraが引き起こした議論の意味

Libraが引き起こした議論の意味

Libraのホワイトペーパーが公開されたのは2019年6月18日です。

それから現在までに実に多くのLibraについての議論がなされてきて今も継続中です。

そしてその議論は、中央銀行、政府、経済学者から引き起こされる場合が多かったのです。

私はIT業界で既に30年以上働いていますが、このホワイトペーパーはもうIT業界の枠を大きく超えて金融の知識がメインになっていること、その内容はわかりやすく説得力があること、時代を変えるホワイトペーパーが現れたと思いました。

インターネットが来たことで、スマホさえ手に入れば情報はかなり自由にやりとりすることができるようになりました。ところが、お金のやり取りや、金融のシステムについては、まだまだ、不便なままです。例えば銀行間で国際的に送金するシステムに“SWIFTコード”というものがあります。

金融機関にだけ割り当てられるコードでこれをつかって国際送金は行われています。既に数十年前からあり、コストもかかります。それが、現代のIT技術からすれば化石のようなモノなのに今も金融機関ではこれが使われているのです。

なぜ金融分野だけここまで遅れてきたかというと、

1.お金については、価値そのものを取り扱うので、法律による厳密な取り決めがないと規律が維持できないこと

2.ブロックチェーンが来るまで、第三者の信用を介さずに価値のやりとりをできるITシステムがなかったこと

だと思われます。デジタルデータはコピーできてしまうので、ブロックチェーンが来るまでは価値のやりとりは、金融機関のような組織が保有するデータベース上に通帳や台帳のデータとして記録され厳密に管理されるという形でしかやりとりが難しかったのです。ところが、ブロックチェーンのおかげで、少なくとも技術的には、特定の少数の固定した管理者がいなくても価値のやりとりができるシステムを作れるようになった。ただ法律はそれを十分活用できるように整備されてはいません。

このタイミングでLibraが発表され、Libraは多くの議論をされ、批判されています。

一つには、Facebook社は、個人情報をお金に換えるビジネスをしてきたので、その会社がそんなに公明正大で公平な金融システムを提供してくれるのかという疑念があると言うことです。

ただ、Libraによって引き起こされている議論の本質は、既存の中央銀行も含めた金融機関と法定通貨を中心とした現在の経済システムの価値を根底から考え直さずにはいられなくなってきたているところにあると私は考えています。

その人の立場を脅かしかねない何がか誕生したとき、多くの場合、その人はその何かを脅威に感じ批判してしまう。 ここではその人が中央銀行や政府だということです。

Libraが引き起こしている議論の多くはこれによるモノだと私は推測しています。

2008年のリーマンショック以降各国中央銀行のバランスシートは拡大を続けました。

法定通貨は今ではずっと使われてきて、みんな使っているから信用されているという部分がさらに膨らんできているということと考えていいと思われます。

もし、より確かで利便性が高くより多くの人が使い流動性も高い通貨が出現した場合、法定通貨の存在価値は一気に縮小する可能性が出てきます。

Libraはそれ自体が成功しないとしても、世界最大規模のIT企業が周到に準備すると、新しいグローバル通貨となりかねないものが計画できることを示してくれたのです。

国家と法定通貨とグローバル通貨

法定通貨は基本的にはその国の中で使われています。

米ドルは、アメリカが世界一強い経済力と軍事力を持っているので、基軸通貨として世界の決済で一番使われてきました。でも海外旅行すると基本的にはその国の通貨を使いますね。

ところが、インターネットが拡大した現代では、SNSも電子メールも情報のやりとりに関して、国境は基本的には存在しないのと一緒になってきています。

国ごとに使用を義務づけられた法定通貨より、世界で国境をこえて国際的に10億人以上もユーザーがいるようなFacebookやAmazonのような企業がグローバル通貨を計画すると、利便性でも場合によっては信頼性でも、中央銀行の発行する法定通貨を上回るモノができるかもしれない。

というより、ほとんどの法定通貨の利便性は上回り、現在世界の基軸通貨となっている米ドルすら上回るかもしれない。そんな想像をLibraのホワイトペーパーはかき立ててくれるのです。

中央銀行は金融システムの安定のためにきっと色々な仕事をしてくれているのでしょうが、個人から続けるということでは、非常にわかりにくいか、ひょっとするとほとんど機能していないかもしれない。それに対してLibraは最初に使命として 『個人を力づけること』を目標としていることを宣言しています。

大義名分があって、さらにLibraのブロックチェーンはオープンソースで提供されることも書かれているので、心あるエンジニアはこれに参加して役立つシステムを作ることになるでしょう。

それに対して中央銀行のシステムはどのように誰がつくっているのかクローズドです。

未来の通貨の姿を確実には予想できませんが、どちらの方が面白そうか、より多くの人が関心を持ちそうかということでもLibraは面白い立場にいます。

Facebookの世界の月間アクティブユーザー数は約24億人にも達しています。世界一国民の多い中国ですら約14億人です。 通貨はより多くの人 に頻繁に使われれば使われるほど、通貨としての価値(信頼性)をましてくるので、その面でもLibraは当初から大きな可能性を持っていることになります。

ただし、2019年現在の今も、国家は強大な力を持っています。法律と軍隊は国家が持つものだからです。ですから、未来においてグローバル通貨が使われるようになるとしても、そこに至るまでには平坦でなく様々な出来事が起きるのだと思います。現在のこれだけ議論と批判が巻き起こっているのですから。

まとめ

Libraに関しての議論や批判は、Facebook社への疑問だけでなくむしろ、中央銀行や法定通貨の存在価値を見直さざるを得ない不安から引き起こされている可能性が高い。

GAFAをはじめとするグローバルIT企業は国家をこえるユーザー数と法定通貨をこえる利便性をもった通貨を作り出せる潜在能力を持っている。

現在まだ国家は強い権力を持っているので、Libraのようなグローバル通貨を国家がどのように取り扱っていくかがわからない。

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