経済成長率トップ10に入るベトナムは、平均年齢31歳と若く勢いのある国だ。スタートアップ企業が多く誕生していて、数学オリンピックでも上位に入っており、優秀なエンジニアを多数輩出している国でもある。
ベトナムのBAP社は、最先端技術を駆使してAIやブロックチェーン、スマートホン、ゲーム開発などを行う。ブロックチェーン技術を用いたスマートコントラクト、取引所の開発に秀でており、ICOや仮想通貨開発の実績も豊富で、ベトナムをけん引するブロックチェーン企業だ。
同社の創業者であり、サイバーエージェントで働いていた経験も持つDao Ngoc Thanh(ダオ ゴック タィン)氏とAIreVOICE編集長の大坂氏が対談。今ICOを成功させる方法や長くビジネスを続ける秘訣を伺った。
今ICOを成功させる方法とは
Dao Ngoc Thanh:BAP社は、日本の東京と大阪、ベトナムのダナン・フエに拠点を持つオフショア開発企業です。オフショア企業は、人件費などコストの差を利用して海外の仕事を請け負っています。BAP社は高い技術力があるので、新興国であるベトナムの強みを生かして、日本企業からも多くの開発仕事を受託しています。8割が日本の仕事です。
大坂:日本の仕事が多いのですね。もともと日本とのつながりがあったのですか。
Dao Ngoc Thanh:私はベトナム大学を卒業したあと、サイバーエージェントに入社して「Ameba」のゲーム事業に携わっていたんです。それから上場企業などに移ってさまざまな経験を積み、ブロックチェーンを知ってしばらくしてからBAP社を立ち上げました。とても新しいテクノロジーで上下の波も激しかったので、しばらく様子を見てから企業を決断しましたね。
大坂:サイバーエージェントで働いていたんですね。事業を始めるにあたっての苦労はありましたか?
Dao Ngoc Thanh:ブロックチェーンがまだ発展途上で、認知や理解が追いついていない部分があり、そこが踏ん張りどころでした。だれもブロックチェーンを理解しきれていなくて、当然詐欺などのトラブルも多く、お客様同士でも「本当に大丈夫か」と不安視する声が出たりして追い風が強かった。会社についても「ブラックな会社なんじゃないか」とうがった見方をされることもあり、ネガティブなイメージを払しょくするのに苦労しました。
大坂:ブロックチェーン業界全体に言えることですよね。ブロックチェーン、仮想通貨のニーズは高まっていますか?
Dao Ngoc Thanh:ええ。仮想通貨で人気を集めているのはビットコインですが、ビットコインにはないスマートコントラクトの機能を持つイーサリアムの普及に伴って、取引情報だけでなく契約情報もブロックチェーン上に記録されるようになりました。こうしたイーサリアムをベースにしたコインをICO(トークンを用いた資金調達)で用いることによって資金調達しやすくなり、企業からの注目度も高まっています。
大坂:BPA社もICOを行いましたよね。ベトナム国内で実施したのですか?
Dao Ngoc Thanh:いえ、グローバル向けに実施しました。メインターゲットはやはりアメリカと中国、日本です。
大坂:ベトナム国内だとまだICOは珍しいと思いますが、周りの反応はいかがでしたか。
Dao Ngoc Thanh:日本も同様だと思いますが、ビットコインと聞くと最初は「詐欺なんじゃないか」と訝しむ人が多いです。ただ、ちゃんと値段が上がると「安全だ」と信頼される。そうやってコツコツ信用度を高めていくしかないですね。世界的にトークンで資金調達するICOが普及していると言っても、多くの企業はトークンの半分を自社のコミュニティに無料配布していて、コミュニティのメンバーが利益を得られるように価値向上を目指すことで成長につなげようとしている。まだ自分たちで盛り上げていくフェーズだと思います。
大坂:自分が利益を享受するためには、トークンの価値が上がらないといけないですからね。なんにせよ、早く仮想通貨に対するネガティブなイメージが薄まってほしいです。
Dao Ngoc Thanh:本当に。仮想通貨やビットコインといった単語を出すと「あやしい」と感じる人はまだ多くいますが、ブロックチェーンと言えば新しい技術として一目置かれる傾向がありますね。だから私も説明するときは意識的にブロックチェーンと言うようにしています。
プラットフォームを作った企業は強い
大坂:ブロックチェーンに関連した国や行政機関の取り組みはありますか?
Dao Ngoc Thanh:3~4年前と同じ状況で特別大きな取り組みはありませんが、国としては最先端技術を取り込むメリットがあるわけで、規制はほとんど設けられていません。自由にやってください、という状態ですね。ただ、ビットコインで学費を払えるようにする取り組みは国からNOが出て頓挫しました。
大坂:それは残念です。仮想通貨は電子決済や送金がスムーズなのが利点ですから。電子決済はベトナムでも普及していますか?
Dao Ngoc Thanh:今ちょうど波が来ていて、広まっています。中国を筆頭に、日本も流行っていますよね。従来の銀行から電子銀行にお金を移さないとできず、そこはまだ調整中ですが。
大坂:日本では特にペイペイが話題を集めていますが、リサーチすると全体的にはまだ現金のほうが好まれているようです。電子決済の普及度合は国民性も関わっているように思うのですが、いかがでしょうか。日本人は保守的だから、まだ現金のほうが好まれるのかなと。
Dao Ngoc Thanh:単純に、従来の常識から新しい常識に移行するには時間がかかるのではないでしょうか。電子決済に上場企業が参入してきたのも、ユーザーの反響がいいからです。ブロックチェーンも同じで、ユーザーが受け入れ、さらに企業が受け入れるまでに時間がかかる。時間をかけてブロックチェーンの持つ信頼性と透明性が人々に理解されたとき、社会に浸透するでしょう。
大坂:ダナンはブロックチェーンなどの先端技術に対して肯定的な風潮がありますか?
Dao Ngoc Thanh:ダナンはシンガポールのような先端都市を目指していてスタートアップ企業が多く集まっていますが、まだまだこれからです。ブロックチェーン業界そのものがこれからの業界ですから、目標に向かって邁進します。
大坂:それでは、今後のビジョンを教えてください。
Dao Ngoc Thanh:グローバル向けのプラットフォームを作り、その利益でベトナムの子ども向けのサービスを作りたいです。今のサイバーエージェントがあるのは、自社ブランド「Ameba」で土台となるプラットフォームを作ったから。ビジネスのベースになるプラットフォームを作らないと、時代の流れに適応できないリスクがあります。今まで請負仕事が7割を占めていましたが、会社を立ち上げてからの3年間で蓄積した技術や経験、人脈を生かして自社サービスを開発し、一般家庭の子どもにもたくさんのチャンスを与えられるビジネスを展開したいですね。
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ライター/秋カヲリ 編集/YOSCA 撮影/倉持涼