今ある銀行は必要なくなる。すべての人が“銀行”になるプラットフォーム

2019.12.12 [木]

今ある銀行は必要なくなる。すべての人が“銀行”になるプラットフォーム

ビルゲイツは、1994年に「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と言った。フィンテックが進化する今、その言葉が現実味を帯びている。世界には銀行口座を開設できない人が多く存在し、従来の銀行サービスが十分に機能しているとは言い難い。
ロンドンのBABB社はこうした現状を変えるべく、資本金に関係なくすべての人が“銀行”になれるプラットフォームを開発中だ。ブロックチェーンやAIを活用し、分散型の銀行業務プラットフォームを構築する。今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が同社のCEOであるRushd Averroës(ルシュド アヴェロイス)氏と対談。貧富問わず、すべての人が銀行化する未来について語った。

今の銀行を基盤に金融革命を起こす

大坂:なぜ分散型の銀行業務プラットフォームを作ろうと思ったのですか?

Averroës:私はイギリスに住み始めた時に銀行口座を開設できませんでした。そこから、移民や学生など銀行口座を作れない人も使えるサービスは作れないか考えるようになったのです。世界中で2億人もの人々が金融排除を受けていると知り、イギリスだけのローカルな解決策ではなく、グローバルな解決策を考えるべきだと思いました。これがサービス開発のきっかけです。インフラにかけるお金を安くしてビジネスコストを減らせば、銀行と競えるサービスが作れますからね。

大坂:どのようなコンセプトで開発したのでしょうか?

Averroës:安全性・透明性を持つブロックチェーンを活用した未来の銀行サービスです。ビルゲイツは1994年に「銀行機能は必要だが、今ある銀行は必要なくなる」と言いました。人々は必要なのは銀行ではなく金融サービスです。

今ある銀行は必要なくなる。すべての人が“銀行”になるプラットフォーム

大坂:なるほど。どんなブロックチェーンを使っているのですか?

Averroës:1種類だけでは対応できないので、3種類のブロックチェーンを実装しています。パブリックは、仮想通貨の世界とどのように関わっていくか、中央集権化をいかに分散させるかに使います。そしてコンソーシアムは、銀行や公共機関などのステークホルダーとの間で使います。プライベートも実装していますが、特に大きな役割は果たしていません。

大坂:コンソーシアムは、すでに銀行と話を進めているのですか?

Averroës:はい、ヨーロッパの銀行と連絡を取っています。その中にクレディ・スイスがあり、スイスのイギリス大使館を通して連絡をくれました。私たちのビジネスを理解し、可能性を感じている証なのでうれしいですね。

大坂:資金調達はどうやって行うのですか。

Averroës:アプリで行っています。アプリのパブリックカテゴリーでは、キャンペーンを企画してソーシャルメディアなどで拡散することができます。仮想通貨が利用でき、国内に限らず世界に向けて発信できる点が特徴です。

大坂:なるほど。これは寄付になるのでしょうか、それとも投資家に対するリターンがあるのでしょうか。

Averroës:これは寄付の範疇です。また、プライベートカテゴリーでは招待状を送ってプライベートキャンペーンを行えます。グローバル対応しており、特に制限はありません。

今ある銀行は必要なくなる。すべての人が“銀行”になるプラットフォーム

大坂:銀行とも連携しているんですよね。

Averroës:ええ、現金を引き出すなら銀行と協業する必要があります。ゼロからイノベーションを起こすことはできません。既存の銀行サービスを利用しつつ、グローバル規模のサービスを開発して金融革命を起こしたいと思っています。現在はヨーロッパ内で既存の銀行口座を使えるようにしていて、3〜4か月以内にグローバル対応する予定です。

大坂:では、銀行口座と連携したエコシステムで仮想通貨の発行や取引をするのですか?

Averroës:そうですね。トークンを使って、チャージや決済ができるようにしたいです。世界には日本円や米ドル、ユーロなど、中央銀行が発行したフィアット通貨が約180種類あり、その中の10〜20種類のフィアット通貨が直接交換可能です。たとえば日本の製品を買いたいと思った時も日本円に交換できます。

大坂:仮想通貨の交換システムも作る予定ですか?

Averroës:もちろんです。ただ顧客との間でのみ活用します。Venusのようなプラットフォームはすでにあるので、エコシステムとしては銀行のシステムはいらないだろうと。今のところ取引にライセンスは必要ありませんが、フィアットに関してはEマネーのライセンスが必要です。

日本が“残念”な理由

大坂:貴社が参加なさっている「新金融街Canary WharfのLevel39 (Level39 Accelerator Space)」について教えてください。

Averroës:Level39はインキュベーター(ベンチャー企業に経営や資金調達のサポートを行う組織)で、志を持った人々が集まっています。オープンマインドな会社がたくさんあり、ブロックチェーン関連企業もあります。世界的な企業も参加していて、とても良い環境が整っていますよ。

今ある銀行は必要なくなる。すべての人が“銀行”になるプラットフォーム

大坂:さまざまな国のブロックチェーン企業と交流があるのですね。日本市場についてはどう思いますか?

Averroës:正直…がっかりしています。日本のブロックチェーンや仮想通貨市場は、取引にばかり注目していますよね。長期的なブロックチェーンの利益ではなく、ビットコインでどれくらい儲けられるかを考えている人が圧倒的に多いです。

大坂:お金の話ばかりで、短期的にしかブロックチェーンを見ていない人ばかりです。

Averroës:そうですね。東京でたくさんの起業家に会いましたが、だれもインフラの話をしないのは予想外でした。

大坂:多くの人はブロックチェーンの根本的な原理や価値まで考えていません。だからこそ、私たちはそれを変えようとしています。政府はなかなか理解してくれませんが…。

Averroës:政府の理解がないと発展が遅くなりますね。

大坂:一度は日本政府もリスクを負って推進したのですが、コインチェックの流出事件が起きてからは180度方向転換してしまったんです。日本人の性格的にリスクは避けたいですからね。

Averroës:消費者を守るためにもリスク回避は必要です。ただ、危険を冒さないとイノベーションは生まれません。インドネシアでは、現金を作る過程で輸送や印刷に毎年10億ものお金を費やしています。このお金を、将来性のあるブロックチェーン業界の投資家や起業家に回そうと思わないのはとても悲しいことです。一方、シンガポールはブロックチェーンによって現金にかかるコストの削減を推進していて、こうした国が少しでも増えることを祈っています。

AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。

ライター/秋カヲリ 翻訳/佐々木希 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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