Libraの使命と日銀の目的
Libraはホワイトペーパーの最初に次のようにミッション(使命)を書いています。
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『Libraのミッションは数十億人のエンパワーメントにつながる、シンプルでグローバルな通貨と金融インフラを提供することです。』
(通貨のしくみを変える。世界経済を革新する。その結果、世界中の人の生活が向上する。)————————————–
これをみて各国中央銀行が慌ててているであろうことを理解するために、中央銀行の一例として日本銀行の目的を日本銀行の“おしえて日銀”というQ&Aサイトから抜粋します。
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日本銀行の目的は、「物価の安定」を図ることと、「金融システムの安定」に貢献することです。
物価の安定
日本銀行の金融政策の目的は、物価の安定を図ることにあります。物価の安定は、経済が安定的かつ持続的成長を遂げていくうえで不可欠な基盤であり、日本銀行はこれを通じて国民経済の健全な発展に貢献するという役割を担っています(日本銀行法第1条第1項、第2条)。
金融システムの安定
決済システムの円滑かつ安定的な運行の確保を通じて、金融システムの安定(信用秩序の維持)に貢献することも、日本銀行の重要な目的です(日本銀行法第1条第2項)。日本銀行は、金融機関に対する決済サービスの提供や「最後の貸し手」機能の適切な発揮等を通じて、この目的の達成に努めています。————————————–
両方読むと、一段とLibraの使命が人類の進歩に貢献するものらしいと理解を助けてくれます。
この『お金とは何か?』シリーズの中で、日本でも第二次世界大戦後ハイパーインフレにより物価が100倍にもなったことを紹介させてもらいました。この日銀の目標は本来とても大切なことです。ただ、平成時代から物価の安定どころがデフレに苦しむ日本経済にとってその目的の重要性は昔よりかなり低下しているようにみえます。
それに対して、Libraのホワイトペーパーの中では使命に続いて、その背景として、今の世の中には17億人もの銀行口座を持てない貧困層にチャンスを与えることと説明が続いています。今現在の世界の経済的に解決すべき大問題に真正面から取り組む使命を持っていることを、説得力を持って訴えかけています。
今まで、中央銀行は絶対的なプライドを持って運営されてきたのだと思います。日本でしたらその経済を循環させる日本円を唯一発行する権利のある銀行なのですから。
ところが、世の中は変化して、日銀の目的は、Libraの使命ほど崇高なものとは思えないのです。なぜなら、日銀の目的は、現状を守るための目的で何か大きな進歩を目指しているものではない。それに対してLibraの使命は、2019年現在の人類共通の大問題の解決に真正面から取り組もうとしている。それが短い文章から明確に伝わってくるものになっているからです。
世界銀行とLibra
今の中央銀行は国ごとに設立されているので、Libraのように超国家的なモノと直接比較するのは本来の性質が違うところがあります。そこで世界銀行のことも考えてみます。
世界銀行は各国中央銀行が協力して債務不履行(借金返せないまま破綻しそうな)発展途上国を助ける等も名目として作られています。そのため、確かに超国家的です。
ただ、世界銀行も個人が口座を作れるような銀行ではなく、個人を直接的にエンパワーメントできる機関ではないのです。発展途上国の困っている金融機関に追加融資をするということをしています。
Libraの使命とトマ・ピケティ
Libraのホワイトペーパーの中に以下の記述あがります。
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世界の人口のかなりの部分がこの流れから取り残されています。世界中で17億人の成人が従来の銀行を利用できず、金融システムの外にいます。10億人が携帯電話を持ち、約5億人がインターネットにアクセスできるにもかかわらずです。————————————–
今も銀行口座すら持てない人が17億人もいる。このままではいくらITが進歩してもこの人達をエンパワーする方法がみいだせないです。それにたいして、例えばスマホの中の電子ウォレットで直接Libraを扱えるようにすればこの人達が実質的に銀行の口座を持てたのと同じようなあるいはそれ以上の利便性を提供できることになります。
現在は、例えば発展途上国の銀行口座もない農民がせっかく、農作物をつくっても、現金を持って買い付けにきたバイヤーに安く買い叩かれて、いつまでも貧しいままというような状況があります。
もし、その農民がスマホを操作して適正な価格で自分の農産物を販売できたら、きっと大きな助けとなるはずです。これらのことは、既存の金融機関、中央銀行、世界銀行も、何も出来てこなかったばかりか、お金のない人の方が収入あたりの金融機関向けの手数料が割合として多いという状況でした。
これだけをとっても、貧しいことがさらなる貧しさを生む一因になっていました。
トマ・ピケティが『21世紀の資本』の中で書いたことは、
過去200年間の税金徴収のデータ等から徹底的に分析して導き出された結論は、
「金持ちのお金はさらに増え続ける。その増加スピードは労働収入より大きい。なぜなら、資本の増加率は労働による収入の増加率を常に上回っているから」というモノでした。
2017年1月15日に以下の発表がされていますので、今はさらに格差が進んでいるはずです。
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貧困撲滅に取り組む国際NGO「オックスファム」は1月15日、世界で最も裕福な8人が保有する資産は、世界の人口のうち経済的に恵まれない下から半分にあたる約36億人が保有する資産とほぼ同じだったとする報告書を発表した。————————————–
例えば、食料が不足している人が食料買えたら、とても嬉しいでしょう。世界の貧困層にはそういう人もいるでしょうが、お金が足りないまま。
世界の金持ちトップ8の人はもう持っている数兆円あるいはそれ以上のお金の10%を使ってでも買いたい物を見いだせていないでしょう。プライベートジェット機ですら、千機も買えるようなお金をもってさらにそのお金が増えることが嬉しいとしたら、その欲望はかなり偏執狂的なモノのハズです。
今までの中央銀行の施策ではこれに対してなんら対策を打てませんでした。むしろリーマンショック以降の極端な金融緩和により、金融格差の拡大を後押ししていました。
Libraだって、これを急に解決はできないでしょうが、光をあてて、道をある程度でもしめせるようになったことは偉大な進歩です。
ただ、素晴らしい可能性は逆に言えば、国家や中央銀行の目的が今の人類から見てかつてほどの価値がなくなってきていることに気づかせてしまいます。それも、Libraが批判を受ける大きな要因になっていると私は推測しています。
次回もLibraを切り口にお金について考えていきます。