通勤や通学など、日常生活には移動がつきものだ。テクノロジーによって交通手段が増えて移動スピードは加速したが、最適な交通手段を選ぶのは容易ではない。渋滞や事故などで交通状況が流動的に変化するからだ。移動距離や交通費などの固定条件だけでは、最適な交通手段は選べない。
ロンドンのDOVU社は、ブロックチェーンを用いて最適な交通手段を提案するアプリを開発した。ユーザーが交通手段を共有・変更すると、報酬としてトークンを獲得・使用できる。企業だけでなくユーザーも利益を得られるビジネスモデルだ。IFA社の桂城漢大氏が同社の創業者であり弁護士のKrasina Mileva(クラシナ ミレヴァ)氏と対談し、人々の習慣を大きく変える力を持つ同社のエコシステムについて伺った。
交通手段の選択がユーザーの生活を変える
Krasina:会社を立ち上げたのは、交通業界に魅力を感じたからです。以前は企業の弁護士として働いてさまざまな業界の問題を見てきました。交通業界は特に変化が激しく、めざましく発展している業界だと感じ、交通関連のビジネスを始めようと約3年半前に現在のCEOであるIrfon Watkins(アルフォン ワトキンス)と会社を立ち上げました。
桂城:ビジネスの内容について詳しく教えていただけますか。
Krasina:カーシェアリング、カープール(相乗り)などの車会社と協業し、ユーザーに最適な交通手段を提案しています。人は習慣の生き物で、通勤や通学ではいつも同じ交通手段を使います。交通サービスが増えれば増えるほど選択肢は増えますから、複数の交通サービスからもっとも理想的な交通手段を提案しています。交通手段の選択は、人々の習慣を変える一番簡単な方法だと言えるでしょう。
桂城:どういった経緯でビジネスの発想を得たのでしょうか。
Krasina:DOVUはさまざまな会社のデータをマイニングしているため、データを個人に還元して価値を生み出そうと考えたのです。DOVUをスタートさせた年は、スマートシティやOEMや自動車メーカー、公共交通機関やeバイクとの連携を可能にするために、ブロックチェーンをベースとしたプラットフォームを探していました。
桂城:プラットフォームがあると、どんなことが可能になりますか。
Krasina:たとえば、毎朝7時に1番のバスに乗って通勤しているとします。本来は最短距離なのですが、道路はいつも渋滞です。私たちのプラットフォームを使えば、15分歩いていつもとは違うバス停に行き、2番のバスを使えば渋滞を避けられると教えてくれます。こうしてより効率的な交通方法を見つけられ、いつもの習慣を変えられるのです。
桂城:なるほど。プラットフォームにさまざまな交通手段を入れることで、より最適な交通手段を提案できるのですね。
Krasina:この技術は通勤時間短縮以外の目的にも活用できます。もっとエコな交通手段を選びたい場合は、徒歩や自転車、二酸化炭素の排出量を減らす車の利用を提案します。エコにも配慮していて、公共機関やシェアサービスの利用を促して余分な二酸化炭素の排出を減らしたいです。
桂城:似たサービスもあるかと思いますが、どういった点が特徴ですか?
Krasina:インセンティブをつけた報酬があると、ユーザーに対して効果的にアプローチできるという結論に至り、DOVUでは報酬付きのサービス提供をしています。仕事でも報奨金などの報酬があると、社員の習慣を変えやすくなりますよね。それと同じことです。ユーザーの行動を変えるために報酬を付けよう、と。
桂城:その報酬提供にブロックチェーンを用いているのですね。
Krasina:ええ。私たちのトークンをインセンティブにしています。提案を通して自分の行動を変えればトークン、仮想通貨で報酬が得られるんです。たとえば車で通勤する代わりに公共交通機関を使った場合、報酬として10トークン稼げます。設置したマーケットプレイスではトークンを交通サービスに使えるので、翌日スクーターを使って通勤したいと思ったら、このスクーターの利用料をトークンで支払えますよ。トークンを他の通貨と交換することもできます。
他社と提携してエコシステムを構築
Krasina:とはいえ、私たちはブロックチェーン開発に重きを置いていません。ブロックチェーン業界はまだとても若く、異なるプロトコルや透明性、許可を得なければならないことがたくさんあります。こうしたブロックチェーン業界の発展を目指すにはパワーが求められます。同時に複数の目標を達成するのは難しいので、私たちはインセンティブ制度によって個人だけでなくさまざまな業界のビジネスも変えることに注力したいです。
桂城:そのビジョンを実現するためには、他の企業とも連携する必要がありますよね。
Krasina: ええ、タクシーやカーシェアリングなど自動車系サービスとの相性は特に良いですね。ブロックチェーンによりサーバーと連結しているので、ルート選択やオイル交換などで最適な提案ができますし、運転手としてトークンを稼げる可能性もあります。
桂城:現在はどんな企業と提携していますか?
Krasina:BMW、ルノー、日産、三菱、ボルボ・トラック、大きなモーターサイクル会社などと連携しています。また、いくつかのスマートシティ、インドネシアのカーシェアリングのプラットフォーム、Go Aheadというイギリスでもっとも大きな公共交通機関のプロバイダーとも仕事をしていますよ。
桂城:協業してエコシステムを推し進めていくのですね。
Krasina:そうですね、異なるサービスを一つにしてエコシステムを届けたいです。最近ではテクノロジーによって街中の電力を有効活用するスマートシティについて多くのビジネスパーソンが興味を持つようになり、どうしたらスマートシティを実現できるのか考えています。複数のサービスを統合しないとスマートシティは実現できませんから、多くのパートナーが必要です。
桂城:では、現在はどのようなフェーズにいますか?すでに実装しているのか、試験段階なのか。
Krasina:パートナーごとに異なるステージにいますね。イギリス最大の公共交通機関Go Aheadは実装に臨む段階に入りました。今年の終わりには支社のひとつと提携し、ロンドンの交通サービスを使うとトークンを稼げるようにする予定です。
桂城:ユーザーはどのようにサービスを利用するのでしょうか。
Krasina:Go Aheadのアプリをダウンロードしてチケットを買います。アプリではどんなルートを選んだらいいか、どのように目的地にたどり着けるかを案内し、もし特定の交通手段に問題が発生すれば、代替案を提供します。どの提案を選んでもトークンを稼げますよ。
(後編へ続く)
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/秋カヲリ 編集/YOSCA 撮影/倉持涼