FacebookのLibraを一番恐れるのは誰か?
Libraのホワイトペーパーが発表された時、私は電車の中にいました。内容に引き込まれて、夢中になって読み切ってしまい、開いた口がふさがりませんでした。
そのくらいこのLibraホワイトペーパーは最初から要点をとらえてうまくできていました。
一言で言えば『新時代の地球の中央銀行の理想像』を表現していたのでした。しかも、そのホワイトペーパーは日々完成度を高めて進歩しています。
ホワイトペーパーの最後に、次の方々から有益なアドバイスをもらい感謝していますと名前が列挙されていますが、それらの人は新進気鋭の若手経済学者達です。最初のビジョンが金融のあるべき未来像とその使命を表現できていたので、既に優秀な経済学者達が協力してきているのです。
ところが、マスコミを通じて伝わってくるLibraへの各国、各中央銀行からの評価は不安視または敵視するかのようなモノが多いです。これは、Libraが新しい非常に野心的な計画なので、それ自体が挑戦的な意味合いもあり、必ずしもうまくいくとは限らないということもあります。
ただここまで、否定的な報道が多いのは、各国の政府や中央銀行にとってそれだけ自分達の脅威となる存在と認識され既に攻撃対象となっているのではないかと私は推測しています。
Libraが世界の新中央銀行の機能を持ちかねないなら、それを一番恐れるのは、今の各国中央銀行とそれと一体になった国家権力そのものなのです。
Libraは世界一安定した通貨になり得る設計
この連載で貨幣の3大機能、価値の尺度、価値の保存、価値の交換について詳しく述べてきました。これらの機能は貨幣の価値が安定していることが大前提になっています。日本人は日本円が70年以上稀に見る安定した通貨だったので、上記のことを意識しないで円を信頼できる貨幣として疑問すら持たず使えてきました。
他の国では、通貨危機により瞬時に価値下落したことも多数あります。(例、アジア通貨危機 〔タイ、インドネシア、韓国等〕トルコ、アルゼンチン、イギリス、ベネズエラ…)
そのような状況になると、その国内での価値交換の機能は(極端なインフレを耐えられれば)残ったとしても、価値尺度、価値の保存と蓄積の機能は崩壊しますので、上記3条件の2条件を満たさず、貨幣機能が不十分な通貨となり信頼低下により価値下落のさらなる悪循環が生じます。
このような経験をした国民は自国通貨以外の(米ドル、日本円、スイス・フラン等、ユーロは選ばれないこと多い)通貨で貯金をしたくなります。
貨幣にとって価値が安定していることは、存在価値に深く関わってきていることがわかってもらえると思います。
現在は、世界の基軸通貨である米ドル、債権国である日本の円は他の法定通貨に比べて相対的には信頼されています。
ところがその米ドルも、アメリカが双子の赤字といわれる、財政赤字、貿易赤字を継続して抱えています。世界で一番決済に使われている基軸通貨であることを最大の価値としている通貨に過ぎない面があります。
米ドル自体が、経済の一番の尺度として今現在使われているからその価値は安定しているかに見えるとも言える状態になっています。
日本円も日本国自体は債権を海外に持っています(海外にお金を貸したり、資産を保有している)が、国内は赤字財政ですから、他の法定通貨より比較的信頼度が高いだけで今後どうなるかはわかりません。
それに対してLibraはスイスにLibraリザーブ協会(準備金協会)を設置して、世界の通貨の使用量に応じて適切に配分された各法定通貨の短期国債を中心とした資産ポートフォリオ(資産の組み合わせ)を作る計画です。それに基づき、Libraはそのときの適切な交換レートで希望する法定通貨に交換できるようにすると書かれています。
ブロックチェーン等の技術的なことはここでは考えないでも、上記のことを実行できただけで、米ドルや日本円より、安定した通貨が誕生することに期待できます!
世界一安定した通貨は、貨幣の3大機能を世界一忠実に実行できる潜在能力を持つことになるのです。
安定と通貨の透過性
ここでは、通貨にとってどれだけ安定が基礎になっているか安定という言葉の意味から考えていきます。
安定とは?
1. 物事が落ち着いていて、激しい変動のないこと。
比較対象があってこその変動です。通貨に限って言えば、現在の基軸通貨である米ドルに対してのレートの動きを変動と見なされています。
2. 平衡状態に微小な変化を与えても、もとの状態とのずれがわずかの範囲にとどまること。
例えば天秤は動きますが、もとの場所に戻ってきます。これも安定の種類です。
3. 物質が容易に分解・反応・崩壊しないこと。
消失しないという大まかな理解でいいです。
貨幣の役割と安定性は不可分
貨幣の3条件と、安定の3定義がそれぞれほぼ対応しています。
1.購入、販売、支払い、入金、これらの決済行為で激しい価格変動あったら?
絶え間ない価格変更が必要になります。払ってから貨幣価値が上がると、払わなければ良かった。貨幣価値が下がると払っておいて良かったとなりますが、その反対側の払ってもらった人は、入金で材料代払う予定が価値が落ちてもう足りなくなった。値上げしなくては…不都合の連鎖が引き起されます。
2.価格が下がり始めたら下落に加速、逆もある貨幣だと?
価値の尺度が孫悟空の如意棒のように伸び縮みしたらモノサシとして使えません。
ただ、1.と違うのは価値は決済条件のように瞬間で決定され記録として固定されるものではありません。ですから、ある程度は変動しても、ある価格帯に戻ってくるのであれば、価値尺度としては使えます。
3.分解、崩壊する貨幣だったら?
価値の保存手段として使えないですね。自然分解するプラスチックで紙幣を作るようなものですから。
貨幣保存機能と金融危機
現代の問題は貨幣の価値が増大しすぎていることなのです。貨幣として価値を貯蔵保存できる機能が増大し過ぎています。使うことが第一目的だったはずの通貨(貨幣)をため込むことが多くなっています。
中央銀行が金融緩和(通貨の供給を増大)させてもそれが消費でなくて貯蓄に回されることが多く経済が歪んでいます。(実体経済より金融経済の方が桁違いに大きくなる根本原因です)
歪みはどこかで是正されるものです。一定以上大きな価値を蓄えるということはある貨幣に実体以上の価値があるという共同幻想の中にしか存在しえないものなのです。
貨幣は本来、価値の保存、貯蔵手段としては少し弱い方が、経済にプラスなのです。年間2%程度のインフレ(貨幣価値の下落)が、安定した経済発展に最も効果的と言われています。100万円の買い物するときに、来年になると102万円になると思ったら今買おうかと思う人がでてきます。逆にデフレだととりあえず貯金しとけば来年は98万円で買えるから、今急いで買う必要ないなと思う人もでてきます。
さて上記のことから、
通貨はその役割を果たすために安定は基礎となり、その安定を満たすことのできる設計となっているLibraをもっとも恐れたのは通貨をよく知りその権力を操る側にいる既存の各国中央銀行のハズなのです。
次回もLibraについて書いていきます。