ブロックチェーンの主導権をアメリカと争う中国。デジタル人民元は中国市場を拡大させるか

2019.12.08 [日]

ブロックチェーンの主導権をアメリカと争う中国。デジタル人民元は中国市場を拡大させるか

中国の習近平国家主席はいまや「仮想通貨の父」と呼ばれる。ブロックチェーンを革新的技術だとし、中国が業界をリードすると発言したのだ。仮想通貨プロジェクト「リブラ」を立ち上げたフェイスブックのマークザッカーバーグ氏は「アメリカがやらなければ中国がやるだろう」と述べた。ブロックチェーンや仮想通貨に目を向けるなら、中国の動向は要チェックだ。
登録ユーザー数500万人を超える仮想通貨取引所「KuCoin」のジョニー氏に、中国市場の動向について伺った。

―中国の仮想通貨市場にはどのような変化がありましたか?

ジョニー:大きく3つ変わりました。まず資金調達です。これまでビジネスの初期段階における代表的な資金調達方法はICOで、多くのプロジェクトが実施していました。ICOは取引所がプロジェクトを代行してトークンを販売するもので、プロダクト開発段階にあるプロジェクトが、開発資金の投資と引き換えにトークンを安く先行販売します。このトークンはテストネットトークンとも呼ばれます。特にイーサリアムには注目が集まり、多くの資金を集めました。しかし調達した資金を持ち逃げするスキャムが発生するようになって規制が強化され、現在はIEOで資金調達するのが主流になりつつあります。IEOは取引所がプロジェクトの審査や告知を行い、実施後の上場も確定しているため、投資家は安心して投資できます。

トークンの経済モデルも変わり、最初のチームリザーブという形から、コミュニティトークンのようなリザーブをしない形へと移行していきました。発行した仮想通貨の枚数を減らして仮想通貨の価値を上げる「トークンバーン」や、仮想通貨を使わずロック状態にしてブロックチェーンのセキュリティに貢献するかわりに薄利を得る「ステーキング」などが行われるようになり、トークンの捉え方もどんどん進化しています。

市場も変化しています。さまざまなトラブルやアクシデントを経て全体的に慎重になり、リスクマネジメントが厳しくチェックされるようになりました。ブロックチェーン業界は、中国で多くの変化を迎え、大きく発展したと感じています。ビジネスモデルの進化においても、中国は企業のニーズや変化を捉え、世界をリードしていると言えるでしょう。

ブロックチェーンの主導権をアメリカと争う中国。デジタル人民元は中国市場を拡大させるか

中国政府の方々と話す機会はありますか?

ジョニー:はい。取引所は中国政府だけでなく、各国の政府の方々と話す機会があります。ブロックチェーン業界が発展するには法整備が重要ですから、すでに法整備ができている国と話して情報収集しています。そこから新しいビジネスの創出につなげたいです。

中国政府がブロックチェーン技術を受け入れるタイミングは想定以上に早かった。世界中でブロックチェーン業界の法律が完備される日も、いつか必ず来るでしょう。我々もこの良い流れを更に加速させるために政府と話し合い、積極的に協力していきます。 

中国政府ブロックチェーン技術を生かした政策に着手していますね。現状の中国情勢について教えてください。

ジョニー:去年、中国はブロックチェーン業界のイノベーションに最も貢献しました。中国は、仮想通貨・暗号資産・ブロックチェーン業界の発祥地である欧米とは異なる形で発展しています。

欧米でビットコインが発明され世界中に広まり、さまざまな技術者が研究を行いましたが、ビジネスに応用されたケースはほとんど見られませんでした。しかし、中国はこの2年間、ブロックチェーン技術をビジネスや生活に取り入れる努力をしてきました。その結果、中国はキャッシュレス決済が最も多く利用される国になりました。中国のモバイル決済ツール「WeChat Pay」と「AliPay」は世界的にも有名です。

ブロックチェーンの主導権をアメリカと争う中国。デジタル人民元は中国市場を拡大させるか

ブロックチェーン技術を活用した送金は安全性に優れているので、中国で一番早く発展し、広く普及すると思います。実際に中国の習主席が「ブロックチェーン技術を積極的に発展させていく」と発言した次の日、国家中央銀行からデジタル通貨電子決済「DECP」、通称デジタル人民元というステーブルコイン(価値が安定した仮想通貨)が発行され、世界的な注目を集めています。

デジタル人民元の発行により、どんな変化が生まれるでしょうか。

ジョニー:中国経済のコアの部分に運用され、必ずマーケットに良い影響を与えると思います。中国の金融政策組織「中国金融40人フォーラム」の黄奇帆副理事長は、「デジタル通貨による電子決済(DCEP)の重要性は、既存の通貨をデジタル化するものではなく、準備通貨そのものを置き換えることにある。デジタル通貨による電子決済は、口座の取引処理依存を減らし、人民元の流通と国際化に有用となる」「DCEPは同時に、通貨創出や帳簿などに関連するリアルタイムのデータ収集を実現して、通貨の引き当てや金融政策の実行に有益な参考資料を提供する」と発言しています。

フェイスブックのマークザッカーバーグ氏が「アメリカがこのままリブラを認めなければ、中国に追いつかれる」と発言していましたが、中国はずっと前からブロックチェーンの開発に着手していて、公表はしていなかっただけです。リブラの発表以降、公表するようになりましたね。

実際はほとんど差がありません。デジタル人民元のコンセプトはリブラと似ていて、国一つで仮想通貨の価格をコントロールするのではなく、数多くの国でステーブルコインのシステムを形成していきます。国は違っても、先進的な考え方を持っていれば、結局同じような所にたどり着くのではないでしょうか。ただ、経済安全を守るための監査は各国で違いが生まれると思います。

中国のブロックチェーン業界はすでに世界トップレベルの進化を遂げています。デジタル人民元が普及すればそのスピードはますます加速するでしょう。

貴重なお話をありがとうございました。 

AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。

ライター/秋カヲリ 編集/YOSCA

この記事をシェア