ゲーム市場におけるモバイルゲームの割合は半数以上を占めるが、モバイルゲームユーザーの97%はゲームに課金しない。ゲーム市場規模は12兆5,000億円。莫大な伸びしろを持つ巨大市場だと言える。
世界中にグループ会社を展開する香港のAnimoca Brands社は、ドラえもんやアトム、ちびまる子ちゃんといった日本のキャラクターゲームも手掛けるテック企業だ。ブロックチェーンを用いたゲームも多数開発しており、ブロックチェーンで新たなプレイ価値を創出して課金ユーザーを増やす目論見だ。IFA社の阿部氏は、同社CEOのArnoldo Concepcion(アーノルド コンセプシオン)氏と対談し、その戦略を伺った。
ユーザーはプレイするだけのゲームには課金しない
Arnoldo Concepcion:Animoca Brandsはオーストラリアで上場し、世界中で合計8つのグループ会社を展開しました。現在は225人の従業員がいます。フィンランド、ドイツ、カナダ、アルゼンチンにも拠点があり、香港では複数の会社を運営しています。
阿部:事業内容について詳しく教えてください。
Arnoldo Concepcion:iOSやAndroidのモバイルゲーム開発のほか、AI会社に投資をしています。香港、インド、日本などで約65の会社に投資しました。ブロックチェーンビジネスでは自社のゲームとエコシステムに投資しています。
阿部:ブロックチェーンビジネスを成功させるために、どんなことを意識していますか。
Arnoldo Concepcion:かなり早い段階で市場に参入したいと思っています。2009年ごろ、iPhone向けのモバイルゲーム市場に早く参入したことが成功につながりました。ブロックチェーンビジネスでも早期参入が勝機を握るでしょう。
阿部:なるほど。やはり主力ビジネスはゲームでしょうか。
Arnoldo Concepcion:ええ。ゲームはiOS向けに販売していましたが、ブロックチェーンゲームはデスクトップ向けにリリースしています。ゲームはGoogleとAppleが主要なプラットフォームで、ブロックチェーンゲームのポリシーはまだ決まっておらず、発展途上です。
阿部:ゲーム事業を成長させるために取り組んでいることはありますか?
Arnoldo Concepcion:ゲーム市場そのものを大きくするために、ブロックチェーンで新しいゲーム価値を提供しています。ゲーム市場は12兆5,000億円もの規模があり、これは映画市場と音楽市場の合計を3倍にした規模です。ゲーム市場のうち7兆5,000億はモバイルゲームですが、97%のプレイヤーはお金を払わないのでコンバージョン率はたったの3%。ここを引き上げたいんです。
阿部:どうしたらプレイヤーはゲームにお金を払うようになるのでしょうか。
Arnoldo Concepcion:ゲームによって得られる価値を増やすことです。通常、ゲームを購入して得られるのはプレイする資格だけ。どんなにおもしろくても、何時間もプレイしても、得られるのはプレイ中の快感とクリアする達成感だけです。レベルアップに応じて何かしらの資産や新しい体験を得られるようになれば、これまでにないゲームの価値が生まれます。こうした仕組みを作れば、現在3%しかないコンバージョン率は10~15%に跳ね上がると予測し、ゲームにブロックチェーンを導入しました。
プレイヤーが収益化を目指せるゲーム
阿部:具体的にはどんな仕組みを導入しているのでしょう。
Arnoldo Concepcion:代替不可能なトークンであるNFT(ノンファンジブルトークン)をベースにして、ゲームのアイテムなどに希少性を持たせています。トークンを集めるレースゲーム「フォーミュラ1」では、ヘルメットなどさまざまなパーツが購入でき、それぞれ異なるタイプのステータスが得られます。他ユーザーのパッケージも見ることができ、ランキングもわかります。
阿部:NFTとゲームは親和性が高いですよね。
Arnoldo Concepcion:ええ。これからは仮想通貨や現金を使えるオンラインストアと連携してアイテム売買や友人とのトレードができるようにします。収益は取引時の手数料によって得ています。
阿部:反響はいかがですか?
Arnoldo Concepcion:5月24日に先行販売をしたところ、11万USドル超(1,100万円超)の収益を生み出しました。モナコグランプリに向けて次のオークションを開催し、週ごとに車やドライバー、トラックなどを続けてリリースしていく予定です。ほかにはiOSやAndroid向けに、外部IPを使ったスヌーピーなどのキャラクターゲームやゲームエコシステム「サンドボックス」を開発しています。
阿部:サンドボックスはコミュニティ主導型のゲームエコシステムですよね。
Arnoldo Concepcion:はい、プレイヤーは暗号通貨の支払いを行う分散プラットフォーム上でゲームを制作し、収益化もできます。400万以上ダウンロードされ、今でも月間100万人がプレイしています。同じコンセプトで、マインクラフトのオンラインバージョンのようなゲームを作る予定です。プレイヤー自身が創作できるゲームは人気がありますし、ブロックチェーンとの相性もよく、アセットを売買したり、トレードしたりできます。
阿部:かなり開発費用がかかると思いますが、資金はどのように調達しているのですか?
Arnoldo Concepcion:外部のパートナーからもサポートを受けています。約1カ月前にアナウンスした際には2,500万ドル集まりました。ただ外部に頼りすぎるとリスクが高くなるので、一部の投資家からの申し出は断り、カカオなど韓国の有力企業からの投資を受けました。日本の投資家もいますよ。資金が集まったら、日本、韓国、ヨーロッパ、中国にも展開していきます。コンテンツがプラットフォームになる時代なので、開発含めコンテンツ作りに注力したいですね。
阿部:日本にも展開する予定なんですね。
Arnoldo Concepcion:日本企業との取り組みは多く、アトム、ドラえもん、ちびまる子ちゃんのゲームを開発していて、ウルトラマンのライセンスを持っています。ブロックチェーンゲームも来年リリースする予定です。AIに関するプロジェクトは日本企業から投資を受けていて、ソフトバンクのAI部門とも仕事をしていますよ。
阿部:それでは、ブロックチェーン業界に興味を持っている日本ユーザーに向けて、ブロックチェーン業界の魅力を教えてください。
Arnoldo Concepcion:ブロックチェーン業界には大きなビジネスチャンスがあり、たくさんの知識が吸収できます。ミートアップなどブロックチェーン業界の人と話せる場に足を運び、積極的に接点を持ってください。まだブロックチェーンビジネスの枠ができていない状態ですから、今のうちに参入すれば重要なポジションにつける可能性も高い。5年後、10年後に注目されるビジネスパーソンになれるかもしれませんよ。
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ライター/萩原かおり 翻訳/佐々木希 編集/YOSCA 撮影/倉持涼