タクシードライバーに公正な報酬を与える。ブロックチェーンの配車サービス「TADA」

2019.11.27 [水]

タクシードライバーに公正な報酬を与える。ブロックチェーンの配車サービス「TADA」

タクシーや運転代行、ライドシェア(一般車両の相乗り)のような配車サービスは生活に欠かせないツールとして広まってきた。しかし、その影ではドライバーに不当な報酬しか支払われていないケースも多く、モビリティ・エコシステムの課題のひとつとなっている。
韓国のMVL社が提供する配車サービス「TADA」ではブロックチェーン技術により、質の高いサービスを提供するドライバーが公正な報酬を得られる独自のシステムを採用。2018年7月にシンガポールでリリースされて以降、ベトナムとカンボジアの3カ国で約3万人のドライバーが登録している。
今回、同社のCTO & FounderであるKay Woo(ケイ ウー)氏とIFA社の阿部氏が対談。TADA(タダ)の目的や報酬システム、MVLがこれから進めていく事業構想について伺った。

健全なモビリティ・エコシステムを目指して

阿部:TADAがどのようなサービスなのか教えてください。

Kay Woo:TADAはモビリティ(交通分野)とブロックチェーンを掛け合わせた配車サービスで、2018年7月にシンガポールでリリースを開始しました。ドライバーから行動パターンなどのデータを取得する代わりに、一定の報酬が支払われるサービスとなっています。

阿部:報酬ですが具体的にどのようなものですか?

Kay Woo:ドライバーには報酬としてMVL Pointが付与されます。法定通貨(円やドルなど)の代わりにトークンを介したトークンエコノミーを採用していて、ドライバーは付与されたMVL PointをMVL Coinに交換することによって報酬を得られます。

タクシードライバーに公正な報酬を与える。ブロックチェーンの配車サービス「TADA」

阿部:報酬の流れをMVL PointとMVL Coinの2つに分けているのですね。

Kay Woo:MVL Pointは、MVL Coinを担保に価値を保証されたステーブルコイン(価格変動のない通貨)で、一般の市場には公開していません。対して、MVL Coinは実際のトークンとして取引されているため、その価値は市場の購買意欲によって変動します。

阿部:あえてMVL PointとMVL Coinに分けた理由は何ですか?

Kay Woo:もし、MVL Coinを直接付与したとすると、大抵の人はそのまま市場に流すでしょう。私たちも市場からトークンを買い付けていますので、健全なエコシステム(経済の循環)を維持するのにそれでは困るわけです。そこで、緩衝材としてMVL Pointを取り入れています。

阿部:Uberのような配車サービスという認識で合っていますか?

Kay Woo:Uberのエコシステムに、トークンエコノミーを加えたという認識でおよそ大丈夫です。ただ、それはサービスの一部にすぎません。私たちは運転中だけでなく、車両の修理や売買などのデータも取得しており、それらを活用したモビリティ・サービスを展開しています。

阿部:TADAのサービスにはどれくらいのユーザーがいて、マーケットがありますか?

Kay Woo:現在、シンガポールとベトナム、カンボジアに展開していて、登録されているドライバーは3万人ほど。今年中には韓国でも提供する予定です。ただ、韓国にはすでに타다(タダ)というブランドの配車サービスがあるので、同じ名前で展開するかは分かりません。どちらにしても、韓国は個人タクシーが多いことから、個人向けのサービスに対応させると思います。

タクシードライバーに公正な報酬を与える。ブロックチェーンの配車サービス「TADA」

ドライバーが公正な報酬を得られるシステム

阿部:サービスを展開する上で、大切にしていることを教えてください。

Kay Woo:ドライバーがいかに報酬を得られるかを大切にしています。現地のドライバーからすれば、外国人よりも現地人の方が対応しやすいですよね。そうなると現地人ばかりを乗せようとしますが、きちんと報酬があることで外国人も同様に乗せようと思ってもらえるでしょう。

阿部:ドライバーが公正な報酬を得られるシステムを作っているわけですね。

Kay Woo:一般的な配車サービスでは、ドライバーからコミッション(手数料)を取っています。むしろ収益のほとんどがコミッションとして取られることも珍しくありません。対して、私たちのプロジェクトでは、ドライバーから何かしらのコミッションを取ることは一切ないです。コミッションがないことで登録するハードルを下げられますし、実際にそのおかげでおよそ3万人ものドライバーが参加してくれています。

阿部:コミッションに頼らなくても、収益を得られているということですか?

Kay Woo:MVL Coinを市場で販売するなどしているので、目先の利益を追わなくても問題ありません。今はドライバーから得られるデータを蓄積する段階にあると思っていて、そのデータをもとにこれからさまざまなBtoB(企業間取引)ビジネスを展開していく予定です。

国・地域のニーズに合わせたサービスを提供

阿部:今後、日本に進出したり、サービスを展開したりする予定はありますか?

Kay Woo:すでに日本在住のメンバーが1人いて、住友グループやホンダグループのような日本企業にアポイントを取ってくれています。ただ、日本はタクシー事業の法律がけっこう厳しいので、今のままの配車サービスではなく、カーシェアリングビジネスや訪日外国人向けの運送サービスなどに切り替えることになるでしょう。

タクシードライバーに公正な報酬を与える。ブロックチェーンの配車サービス「TADA」

阿部:その他、これから展開していきたいプロジェクトがあれば聞かせてください。

Kay Woo:今後、日本でサービスを展開するとなれば、日本人が普段から使っているアプリ、決済システムを利用してタクシーが呼べるような仕組みを作りたいです。例えば、日本人が旅行でベトナムに行ったとして、そのままPayPayの決済でタクシーが呼べるような。実は、すでにPayPayなどいくつかの決済サービスと話を進めています。

阿部:最後に、AIre VOICEは日本のメディアなので、日本の読者にメッセージをお願いします。

Kay Woo:ブロックチェーンやトークンは、まるで違うもののようなイメージを持たれる方も多いと思いますが、実際には切っても離せない関係です。難しいものとして離れてしまうのではなく、まずは何でもいいのでブロックチェーン技術を使ったプロジェクトを体験してみてください。

AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。

ライター/堀本一徳 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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