地元大学との共同研究で取引速度を2倍に。教育からブロックチェーンを考える

2019.11.20 [水]

地元大学との共同研究で取引速度を2倍に。教育からブロックチェーンを考える

近年、ブロックチェーンは飛躍的な進化をとげてきた。その背景として企業と大学が協力し、意欲的に研究を進めてきたことが挙げられる。ベトナムのホーチミンに本拠地をおくElefosもまた、地元大学との共同研究により成果をあげている企業だ。
今回は、同社のCo-Founder Development(共同創始者)であるYen Thanh Le(イェン タン リー)氏とIFA社の阿部氏が対談。Elefosが行っているプロジェクトやその研究結果、教育に期待されるブロックチェーンのこれからについて伺った。

1秒間に6,000トランザクションまで達成

Yen Thanh Le:私はElefosにおける共同創始者であり、主任開発者としても関わっています。以前はアメリカのGoogle LLCでインターンとして、インターネット上の認証手法に関わるオーセンティケーション(認証)の開発を担当していました。

阿部:Elefosではどのようなプロジェクトを行っているのですか?

Yen Thanh Le:金融取引のパフォーマンスを向上させるため、ディスクリプトクラウドコンピューティングシステムを中心に研究開発をしています。現在、金融取引のパフォーマンスを1秒間に6,000トランザクション(取引の処理単位)まで引き上げることに成功しました。

阿部:確かVISAだと1秒間に3,000トランザクションくらいでしたよね。カード決済よりも速いことになりますが、実際の環境で使用したとしてその速度を維持するのは可能ですか?

Yen Thanh Le:1秒間に6,000トランザクションの処理については、実際の利用状況に近しいパブリックな環境で実施しています。さらに、性能の低いハードウェアを搭載したコンピュータを使用していたので、高性能なハードウェアであれば処理能力はもっと上がるはずです。現に社内のプライベートな環境においては、1秒間で10,000トランザクションまで達成しました。

地元大学との共同研究で取引速度を2倍に。教育からブロックチェーンを考える

阿部:開発されているディスクリプトクラウドコンピューティングシステムについて、このシステムはどのような課題に対して解決策を提示できるのか教えてください。

Yen Thanh Le:金融取引が抱えるプリンシパル=エージェント理論の課題を解決できると考えています。本来、仲介人(エージェント)は依頼人(プリンシパル)の利益を優先すべきですが、仲介人が自身の利益を追求してしまうこともあるわけです。ディスクリプトクラウドコンピューティングシステムにより金融取引のパフォーマンスが向上すれば、より安全で低コストな取引が可能となり、すべての取引が分散することでこの課題は解決されるでしょう。

大学との連携でパフォーマンスの向上を目指す

Yen Thanh Le:ディスクリプトクラウドコンピューティングシステムの開発を進めるにあたり、ホーチミン市自然科学大学と共同で研究室を立ち上げています。1秒間に6,000トランザクションという高いパフォーマンスを実現できたのも、このように大学と連携して処理能力を上げるさまざまな研究をつづけてきた成果です。

阿部:Elefosのこのプロジェクトには、何人くらいが参加しているのですか?

Yen Thanh Le:我々のチームには全員で10人います。具体的にはアメリカで活動するインターンが3人、私を含めたデベロッパーが4人、デザイナーが1人、残りの2人はビジネスを担当。このチームで行っているのは、主に開発したサービスをビジネスに応用することです。

阿部:サービスの研究開発は、あくまで大学と共同で行っているわけですね。

Yen Thanh Le:大学の研究室、学生を加えることで研究開発までやっていこうという考えです。私と大学の教授との間にはとてもいい関係を築けていて、大学のなかでもとくに優秀な学生を紹介していただけます。例えば、学内でも上位5%に入るような学生です。そこにはIOTにとても詳しい学生もいて、ブロックチェーンに関するハードウェアを担当してもらっています。

阿部:あえて地元の大学と、共同で研究開発しようと考えた理由を教えてください。

Yen Thanh Le:ホーチミン市自然科学大学はベトナム国内でも、コンピュータサイエンスや数学にとても強い大学として知られています。必然的に学生のスキルも高くなり、彼らと一緒に研究開発をすることで我々の求めるパフォーマンスを完成できると感じたからです。

地元大学との共同研究で取引速度を2倍に。教育からブロックチェーンを考える

阿部:VECというサービスが表彰を受けていますよね。これはどういった賞なのですか?

Yen Thanh Le:VECはベトナムエデュケーションチェーンの略語で、Elefosのサービスのひとつです。昨年、ベトナム教育省が教育に関する知識を若い世代に継承することをコンセプトに大会を開催し、我々のVECは4位を受賞しました。ちなみに、VECはこのコンテストにおいて唯一のブロックチェーン関係のサービスで、この分野としてはベトナム初の受賞になります。

教育からブロックチェーンのこれからを支える

阿部:ブロックチェーン関連には規制がつきものですが、ベトナムの現状はどうですか?

Yen Thanh Le:今のベトナム政府は、クリプトカレンシー(暗号資産や暗号通貨のこと)を使用した決済を認めていません。ただ、財産として所有することは違法ではありません。事実、数年前までベトナム国内では不動産やドル以外に、クリプトカレンシーでの投資が流行っていました。

阿部:今後、ベトナム国内では政府を含めどのように変化していくと考えられますか?

Yen Thanh Le:ベトナムの人々はクリプトカレンシーにとても関心が高く、これからは政府としても法整備を進めていくことでしょう。昨年には政府がブロックチェーンやクリプトカレンシーに関するイベントを開催して、勉強のためベトナム以外の国からも専門家を招いていました。

阿部:ベトナムの人々はクリプトカレンシーでの投資に関心が高いわけですよね。でも、法整備が整っていない現状で、こうした投資に手をだすのはリスクが高いと思うのですが。

Yen Thanh Le:この分野に投資する人には2種類いるのではと。まずは、すでに不動産や証券に投資していて経験があり、クリプトカレンシーにも早い段階で適応できる人です。対して、これまであまり投資の経験がなく、仲介人の言葉を信じて投資してしまう人もいます。ベトナム国内でも2年ほど前から詐欺が報告されていて、被害者の多くは投資の経験がない人でした。

地元大学との共同研究で取引速度を2倍に。教育からブロックチェーンを考える

阿部:Elefosとして今後の目標、目的などありましたら教えてください。

Yen Thanh Le:我々の目的は、技術で人々の生活を良くすることです。そのためにもまずは教育を通して、人々にブロックチェーンの良さを知ってもらいたい。これまでさまざまな詐欺がありましたが、あくまで一部の問題です。ブロックチェーンはビジネスや生活に応用できる便利な技術なので、信頼できるサービスを開発して人々に共有していきたいと思っています。

阿部:最後に、日本でやってみたいこと、日本の企業とコラボしたいことはありますか?

Yen Thanh Le:今後はベトナム国内だけでなく日本はもちろん、東南アジア全体にも展開していきたいです。とくに日本は経済的にとても大きな国で、さまざまな需要が期待できます。当然、ブロックチェーン関連のニーズもあると思うので、日本においてもパートナーを探して一緒により良いサービスの展開を目指していきます。

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ライター/堀本一徳 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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