仮想通貨企業が信頼されるには。台湾2位の取引量を誇る「ACE EX」のビジネス戦略

2019.11.19 [火]

仮想通貨企業が信頼されるには。台湾2位の取引量を誇る「ACE EX」のビジネス戦略

ブロックチェーンや仮想通貨業界は新しい業界なので未発達な部分があり、業界としての信頼度は高くない。大きな可能性を持つテクノロジーであるにも関わらず、ネガティブなイメージが普及を阻害している。
政府と協力してインキュベーションプラットフォームを運営する台湾のACE EX社は、従来の金融機関と協力しながら手堅く事業に取り込み、高い信頼度を維持している。ほかの仮想通貨企業とは一線を画すその運営方針が強みとなり、取引所が公開されてから5か月でユーザー数は約5万人、取引量は台湾2位と着実に成果を出した。逆境のなかどうやって信頼を勝ち取ったのか、同社ジェネラルマネージャーのDavid Pan(デイビッド・パン)氏にIFA社の阿部氏が伺った。

狭き門にして信頼度を高め、企業の優位性に

阿部:ご経歴と現在のお仕事について教えてください。

David Pan:207,000人のプロフェッショナルを擁する知的専門家集団「KPMG」に属して、ベンチャー部門の担当者を務めていました。それ以前にもベンチャー投資家として仕事をしていた経験があり、ベンチャーや台北における法律の専門家です。現在の仕事の拠点は台湾でして、去年に取引所の準備段階からACE EXに参画し、ジェネラルマネージャーとして業務に取り組んでいます。

阿部:ACE EXの業務内容を簡単に説明していただけますか?

David Pan:主に3部門あります。まず、アジアにおけるブロックチェーンのアクセスレートとして機能している部門があり、政府の補助を受けながら運営しています。もうひとつが法定通貨と仮想通貨の取引所で、法定通貨の取引ができるように銀行とも連携しています。リスクヘッジにも気を付けており、法律面ではかなり厳しい基準を設けています。最後にアジアブロックチェーンメディアがあり、マーケティング、PRとして機能している部門です。Uberやマクドナルドで働いた経験を持つメンバーが参加しています。

仮想通貨企業が信頼されるには。台湾2位の取引量を誇る「ACE EX」のビジネス戦略

阿部:なるほど。取引所の主要クライアントはスタートアップ企業ですか?

David Pan:いえ、IEOプラットフォームがあり、大企業のIEOのコインを手伝っています。スタートアップ企業はほとんどありません。IEOをやるにしても、プロジェクトをフォローして投資家に負担をかけない形をとっています。

阿部:スタートアップ企業が少ない理由は何でしょうか。

David Pan:スタートアップ企業でもいいのですが、審査が厳しくICOプロジェクトだけでは通らないので、結果として大企業がメインになっています。スタートアップ企業だとしたら、親会社があるとか、きちんと売り上げが出ていないと審査を通せません。

阿部:審査を厳しくして高い信頼度を維持しているのですね。

David Pan:はい。弊社のもう一つの特徴が、非ブロックチェーン、非スタートアップの異業種人材を多く採用していることです。大企業、金融やファンド出身の人材がメンバーの7割を占めています。これもほかの業界から信頼されるポイントです。

阿部:既存の金融からスムーズにつなげられるように意識しているということでしょうか。

David Pan:ええ。ブロックチェーン企業やスタートアップ企業を悪く言うつもりはありませんが、どうしても伝統的な金融企業のほうが、コイン界隈の企業と比べてコンプライアンスや法律の概念が厳しく、基盤がしっかりしています。コンプライアンスや法律は競合が強くない部分だからこそ、そこを会社の優位性にしたいのです。なので大企業や金融の経歴を持つ人を採用しています。それに、ブロックチェーンやコインは新しい業界なので経験者が少なく母数が小さいため、そもそも採用が難しいというのも理由の一つです。であれば、伝統金融の人を自社に取り込んだほうがいいだろうと。

阿部:銀行や証券会社の人は活躍しやすいですか?

David Pan:そうですね。トークンエコノミーは野蛮な成長をしているイメージを持たれがちですが、実際は経済学でほぼ説明できます。伝統金融出身の人であれば、今のトークンエコノミーがどういう状況が認識し、どういった成長を遂げるか想定しやすい。変な先入観を持たずに向き合えるんです。

阿部:私も同じ考えです。トークンエコノミーの現状は、株が誕生した時と同じような流れをたどっていますよね。それがわかっている人であれば「野蛮な成長」ではない。普及させるには、こうした理解を広めて誤解を解くことが大事だと感じます。

仮想通貨企業が信頼されるには。台湾2位の取引量を誇る「ACE EX」のビジネス戦略

取引所は仮想通貨のイメージを変えるキーマン

阿部:日本の法規制は比較的厳しいのですが、日本への進出は考えていますか?

David Pan:台湾と日本は親和性が高くビジネスをいっしょに進めやすいので、すでに日本でリスティングやIEOをするプロジェクトを計画しています。ただ、外資の取引所がライセンスを取るのが難しく、まだ検討段階です。

阿部:私たちも苦戦中で、金融庁と相談中です。ぜひ日本にも参入していただきたいですね。現在はどのエリアのユーザーが多いのでしょうか。

David Pan:現在は全体で約5万人のユーザーがいて、台湾人が9割とほとんどを占めます。そのなかでも台北が多く、残りの1割がマレーシアや中国ですね。5万人とはいっても、台湾内ではそれほど大きな規模とは言えません。ただ取引量は台湾2位と大きいです。

阿部:密度が高いということですね。今後のビジョンについて教えてください。

David Pan:社外にアクセラレーターを設けているので、国内外の良いプロジェクトを手助けしたいです。トークン発行だけでなく、トークン以外のテクニカルサポートも視野に入れています。そして、世界全体が「仮想通貨=得体が知れないもの」という認識ではなく「仮想通貨=金融商品でありペイメントのソリューション」だと認識するように働きかけていきたいです。

仮想通貨企業が信頼されるには。台湾2位の取引量を誇る「ACE EX」のビジネス戦略

阿部:すばらしいビジョンです。日本でもそれは課題になっているので、ブロックチェーンをまだ知らない人や、これから知っていきたいと考えている人にぜひ理解してほしいですね。

David Pan:ブロックチェーンはとても良い技術です。中小企業やローカル企業がインターナショナル化できるテクノロジーですから、企業にとっても大きなプラスになるでしょう。仮想通貨やブロックチェーンはネガティブなイメージがついて回りますが、そうではないと知ってほしい。そのためには取引所が仮想通貨やブロックチェーンにどうやって良いイメージを付け、どうやって発信するかが大事だと考えています。そこに向き合っていきたいですね。

阿部:私たちも同じ志を抱いています。本日は貴重なお話をありがとうございました。

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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