希少価値とお金

2019.11.15 [金]

お金とは何か#9
希少価値とお金

希少価値とお金

豊作貧乏、豊作飢饉、大漁貧乏という言葉があります。農産物、海産物が大量にとれた場合に市場価格が暴落して、農家や漁師の収入が減る現象のことです。

食べ物は生きるために必要ですが、その食べ物ですら、需要を上回る供給があると価格は暴落してしまいます。拡げて様々なものの価値を考えていくと、

『希少なものしか高い価値を長期的に維持することはできない』

と思えてきます。

人は遭難したあと助かると、真っ先に「水を飲ませてくれ」と言うそうです。

人間は水さえあれば、食べ物がなくても相当期間(一か月程度と言われています。個人差も大きいでしょうが)生きられるが、水がないとすぐ生命維持が困難になる。水は生命のために食物以上に貴重です。ところが、日本では水道水がおいしいばかりか、ほとんどの市販のミネラルウォーターより品質も高い評価がされています。価格は安いです。それは希少ではないからです。

希少価値を伝えるためには個人的な経験もお伝えします。

中学生時代の同級生に、冴えない、とても女の子からモテそうもない男がいました。

勉強もスポーツもパッとしない。話も面白くない。イケメンでないどころかむしろ逆。実際、中学生時代、女子からは全く相手にされていませんでした。

そんな彼に、高校生時代、再会したことがあり話をしたら、こんなことを話しだしました。

「また女に告白されちゃってさ、もうこれ以上同時に付き合うの無理だから、適当に断ったけどさ、結構、可愛かったからもったいなかったかな。まああのくらいいるからまあいいか」

事情を聴くと、彼は商業高校に入学して、そこでは、学生の割合が、男子1対女子3くらいの割合である。

男であるというだけで、基本、そこそこモテる。そしてモテる経験が男としての自信と余裕を作ってくれてさらにモテる。

希少価値は圧倒的だと思い知った瞬間でした。

私は大学は理工学部に行きました。同学年の別の学科には、今や有名な俳優となった阿部寛がいました。彼が俳優になったきっかけは、お姉さんがnon-noボーイフレンド大賞というのに応募して優勝したからです。お姉さんは「弟があまりにダサい格好ばかりしているので変えたかった」というようなことを発言してました。あれほどイケメンの彼も圧倒的に男ばかりのしかも遠いところに隔離された理工学部ではモテてはいなかったようです。希少価値がなかったのも一因でしょう。

希少でなくて高い価値維持しているものはお金しか思いつきません。

法定通貨の寿命

リーマンショック(英語では単にThe financial crisis of 2007–2008) 発生 2008年9月15日

ビットコインのホワイトペーパー公開 2008年10月31日

ブロックチェーンの最初のブロック・ジェネシスブロック 2009年1月3日

このブロックには2009年1月3日のイギリスのTimes紙という新聞の以下の記事の見出しが刻まれています。

「The Times 03/Jan/2009 Chancellor on brink of second bailout for bank」

日本語訳は「イギリスの財務大臣が二度目の銀行救済の瀬戸際にいる」

リーマンショックでは、金融システムが実は麻痺しかかっていました。日常生活は普通に過ごせていたので気がつきにくいですが、金融機関は相互に相手を信用することでお金の情報の受け渡しをして、決済(お金の交換)ができています。リーマンブラザーズは約64兆円あまりの負債を抱えて倒産しました。また同時期に他にも大手の金融機関で負債まみれて動けなくなっているところがありました。

それをビットコインのジェネシスブロックに刻まれたイギリスでの事例のように世界で同様の政府による金融機関の救済措置が取られることで、世界の金融システムは維持されたのです。

それは、大きな災いの種とビットコインが生み出したブロックチェーンに代表される大きな可能性を生み出しました。

リーマンショックが生み出した災いの種

中央集権による不公平

大手金融機関を救済しなければ、世界の金融システムに危機が及ぶこと、またその負債が巨額で政府しか助けられないことから、結局、政府が巨額の融資をおこなうことで金融機関を助けました。

大手金融機関に務める人には膨大な報酬を得ている人が多くいました。その後大問題となるサブプライムローンのような金融派生商品を組成している人達もいました。そういう人も含めて金銭的にはよくわからない不明なまま救済されてしまったのです。

どんなに社会に悪影響を与える可能性があり、それをわかっていたとしても、やった者勝ちで自分たちだけ利益を得て逃げることを、政府が後押ししてしまった。また金融機関と政府も強いつながり(例 アメリカのリーマンショック当時の財務長官ヘンリー・ポールソンはゴールドマンサックスCEOから転身していた)

お金をコントロールする権利を持つ人が最大手の金融機関から転職した人だったのでは、公平性が保たれていたことを疑われてもしょうがないです。しかも世界の経済に大影響を与える立場でした。

民間金融機関救済のために法定通貨の信用が使われた

リーマンショック後の景気対策は、すでに民間最大手の金融機関が瀕死の状態だったことから、中央銀行が法定通貨を発行しまくることで行われたてきました。

マネタリーベースという指標があります。以下が日本銀行によるその説明です。

マネタリーベースとは、「日本銀行が供給する通貨」のことです。具体的には、市中に出回っているお金である流通現金(「日本銀行券発行高」+「貨幣流通高」)と「日銀当座預金」の合計値です。

わかりやすくざっくり言うと、世の中にどのくらい『マネーは足りてるかい?』という基本指標です。中央銀行通貨ともいわれています。これに対する民間銀行通貨とは銀行通帳には民間銀行の信用で中央銀行が発行している通貨を自己資本比率で割った値を上限として書くと混乱するので、ざっくっり中央銀行が流通させている通貨の総量というおおよその理解でいいと思います。

下は、米ドルの場合のマネタリーベースのチャートです。リーマンショックのあたりから、あたかも垂直上昇するかのごとく急上昇しています。これはユーロでも円でも同様です。

全ての金銭的な価値は希少性を基礎にしているという私の仮説が正しいのなら、法定通貨もいつまでもその価値を維持していることはできないハズです。リーマンショック以来ここまで急激に(日本円で約6倍)供給量を増やしたことは、日本円の寿命を大きく縮めたハズです。もっとも世界の法定通貨は全て同様の状態なので、日本円は他の通貨との比較の上では相対的にとても安全な状況にあります。

ビットコインの出現のタイミングに込められた意味

サトシナカモトは、法定通貨の不公平性、不完全性、寿命をリーマンショックの前から理解してこのタイミングを狙うかのようにホワイトペーパーの中身を準備していたように思えます。それを証明はできなくても、前後関係から考えたら、ほぼ間違いなくそうでしょう。

ですが同時に、ビットコインは通貨になりえないこともわかっていたことでしょう。

なぜなら、ビットコインのホワイトペーパーにはビットコインの発行枚数には上限が設定されていることを織り込まれています。なぜ上限があると通貨になれないのか。ここでも希少性と価値の概念を考えてください。上限が設定されて、かつそのシステムが発展してきた場合、希少性が上がり、その価値は上昇することを避けられない。上昇を期待できる資産を、通常の買い物で使いたいとは思わない。

資産になっても通貨になりにくいのがビットコインの設計なのです。

次回はお金のこれからについて書きます。

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