お金とコンプレックス

2019.11.15 [金]

お金とは何か#8
お金とコンプレックス

2005年に出張でフランクフルトに行く機会があり、自由時間ができたので、私はフランクフルトを散歩しました。

ライン川に合流するマイン川が流れていて、その川岸に不思議な建物がありました。

ユダヤ民族博物館”という意味らしきことがドイツ語で書かれた表札がありました。

恐る恐る中に入って見学させてもらいました。まず建物が何か博物館より邸宅といった雰囲気があり不思議でした。その理由はこの建物を出るときにわかりました。

展示物を見ていくと、フランクフルトのユダヤ人ゲットーというものの悲惨な歴史、大変な生活ぶりがこれでもかと延々詳しく紹介されていました。

ユダヤ人がフランクフルトの中で唯一住むことを許された地域がゲットーであったこと。

狭い場所に、木造の家が建ち、多くの人間が所狭しと生活していたため、5階建ての家もあり、生活はこんなに大変だったと事細かく説明されていました。ただ金の細工や両替商のようなことはその当時からユダヤ人が行っていたような紹介がされていました。

後から歴史を調べて、ユダヤ人ゲットーが何回も虐殺や放火により壊滅してから復興したことも知りました。

第二次世界大戦において、ユダヤ人がいかに苦労したかも詳細に説明されていました。ナチスから逃げるために、普段着で雪のアルプス山脈を震えながら越えていく映像が繰り返し再生されていましたが、登山家の人が見たら、これが本当のことか?と疑問に思うのでなないかというほどの内容でした。普段着で普通の靴の女性や子供も雪のアルプスを歩いている映像でしたから。

ユダヤ人がどれだけ苦難の歴史を経験したかを、詳細に、徹底的に、これでもかと説明し続ける博物館でした。

その後、私も歴史を調べると確かにユダヤ人の苦難の歴史は、ナチスによる迫害すら、彼らの歴史の中では、繰り返されてきた迫害の一つに過ぎないとすら思えるほどでした。

ところが、ヨーロッパでは、ユダヤ人がいないと経済への悪影響が大きかったのです。迫害してユダヤ人がいなくなると経済的な(お金の扱いで)困る状況になるらしく、しばらくたつとまたユダヤ人を呼び寄せるとういことが繰り返された歴史がありました。ゲットーもユダヤ人がいると迫害等の問題が起きるが、いなくなるのもお金の管理面で困るから、窮余の策として編み出されたようです。ユダヤ人特別居住区をつくることで住み続けてもらい、迫害もあまり受けないですむように。

金の細工は当時からユダヤ人がやっていたことで、金とその預かり証の発行はそれだけ悲惨な暮らしをしていたユダヤ人が行っていたのです。

奇妙な印象を覚えながら、その博物館をでるとき、出口付近に表示されていたのは、

『この建物はロスチャイルド家がゲットーを脱出して初めて住んだ家である』

あの人類史上でも最大だったかもしれない金融財閥ロスチャイルドの原点となった家だったのです。

そして “ロスチャイルド”(ドイツ語読み “ロートシールト”)とは、“赤い盾”と訳されてたことが多いのですが、正しくはドイツ語の男性名詞を指し“赤い表札” のことです。(ヨアヒム クルツ『ロスチャイルド家と最高のワイン 名門金融一族の権力、富、歴史』日本経済新聞出版社、2007年。ISBN 978-4532352875。P25に記述)それがこの家の表札のから始まったのかは確認できませんでしたが。

ここから、推測なので実証はできないのですが、推測できる話を書きます。

ロスチャイルド財閥の創始者マイアー・アムシェル・ロートシルトは自分だけでなく、自分の先祖の歴史まで遡って苦難の歴史を心に刻んでいた。優秀な頭脳を持ちながら豊かどころか、最低限の安全も得ることのできなかったコンプレックスが彼の絶大な事業欲(金銭欲)の原点なのではないか。

日本でも、例えば三菱グループの創始者 岩崎弥太郎を調べると強力なコンプレックスを抱えていたことがほぼ確実に予想できます。

マイアー・アムシェル・ロートシルトは、古銭について勉強し、おそらくその過程でお金がどのような性質を持ち栄枯盛衰を経てきたのか。お金をどのように扱うべきかを同時代の他の人を十分リードできるほど理解したのでしょう。そして古銭は一般の人には売れませんでしたが、王族、貴族には売れ始めそこで人脈ができてきました。

お金は多額になれば権力そのものにある程度なり得ます。権力を得たいと強く願う心は、弱者の立場で形成されたコンプレックスの裏返しであることも多いようです。

生活するために必要以上のお金を人がどうしても得たいと願うときは、何らかのコンプレックスがある場合が多いのではないでしょうか?

例えば、高級車を買って見せつけたい。高そうな服で自分をエレガントに見せたい。お金が虚栄心のために使われる部分はとても大きいです。

コンプレックスの小さい若者とお金

私は自宅を貸し出してAirbnbのホストをしていたことがあります。今は中止していますが、今も泊りに来てくれる人たちがいます。そして若者たちをみていると、価値観がかなり変化してきているらしいなと気がつきます。生活を共にすることでそれを実感として感じることができます。

そもそも、Airbnbのようなシステムをつかって私の東京の外れの一軒家まで来る人は、ネットのリテラシーが高い。旅費を節約したいという意識も高い。でもそれ以上に、私のような一般的な日本人の家に宿泊して、ユニークな経験をして、自分だけの旅をしたいということが伝わってくるのです。

だから、おそらく私のAirbnbゲストたちの多くは、必要以上のお金を稼ぐことより、自分だけのユニークな体験をすることの優先順位が高いであろうと推測できました。そしてそれは人生の限られた時間をどう使うことが幸福かを考えたとき、普通にでてくる考えに思えます。

コンプレックスを抱えていると、自分はこんなに凄い、幸せだと、お金があるということを他人にアピールしたくなる場合も多いようです。ところが逆にコンプレックスがなくて、素直に自分が何をしたいかを感じて、考えて行動している若者たちは、お金の優先順位があまり高くないように感じられたのです。

最近は我家に、日本人の若者が泊まりに来ることもあるのですが、彼らも、国立大学を卒業しながら、企業への就職はせずに、自分のありたい生活を追求してそのことに迷いもないようでした。お金がなくなって困っていることはしばしばあるようなのですが、それをあまり苦にしてない、少なくとも稼げてないことをコンプレックスとは感じてないことが伝わってくるのです。

最低限所得保障(べーシックインカム)とお金

何もしなくても、一定の金額を人に与えるという考えです。そんな馬鹿なと思う人もいるかもしれませんが、近い将来、AIが人間の仕事の大半をこなし、多くの人が仕事を失うようなことになることも予想されているので、そのときその人たちにもお金を分配する必要がでてくるかもしれません。

現時点では実験的に行われているので、一方的な評価はできないのですが、人間を堕落させてしまう効果はどうしても多くの人に対してあるように思われます。実際に、ベーシックインカムシェアハウスを始めた大家さんがいて、我家に泊まりに来た若者が訪問したことがあるというので聴いてみたら、昼からみんなで酒を飲んでいたとのことでした。

まとめ

人はコンプレックスに駆られて必要以上の巨額のお金を稼ぎ続けてしまう場合がある。それが幸福と連動しているかは不明である。

自由生活に憧れて定職につかない人も増えてきた。それが単なる怠惰になるか、何らかの価値を生み出すかは、その個人に依存するようである。

次回は希少価値とお金について書きたいと思います。

この記事をシェア