革新的で、ゾッとするものにしか興味がない

2019.11.13 [水]

革新的で、ゾッとするものにしか興味がない

宇多田ヒカルがプロデュースする新人アーティストとして一躍脚光を浴びながら、日本の音楽シーンとは一定の距離を置き独自の路線を進む小袋成彬。イギリスを拠点に音楽のみならず絵や小説など様々な創作活動に精力的に取り組む彼は、ブロックチェーンに何を思うのか。アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が聞いた。 

ー小袋さんは様々な肩書きを持っていますが、どういう人なのか簡単に説明をお願いします。

世間的には歌手ですが、他にプロデューサーなど裏方の仕事もしています。今は、イギリスに住みながら、絵を描いたり小説を書いたり、音楽を主にしながら様々な領域で創作活動をする毎日です。気の向くまま、自分の好きなことをやっています。特に日本だと分かりやすい肩書きを求められますが、決まった肩書きも持たず、好きにやらせてもらっている感じです。

ー音楽に興味を持つようになったきっかけは?

エピソードになるような、衝撃的なきっかけはないんですよね。前から歌は好きで得意だったし、ギターも早い段階で触れていて、全部が緩やかにつながって、いつの間にか…というのが正直なところです。

ー歌手で生計を立てるのは、いろんなハードルがあると思います。小袋さんは、そのハードルをすぐ乗り越えられたのですか? 社会人になろうとか一瞬も思ったことはないみたいなことですか?

なかったですね。大学生のときは、雑誌の編集者になりたいなとか、代理店で働きたいなとか、いろいろ考えてはいました。でも、ぼんやりと考えているだけで、明確に社会人になろう、という思いはなかったです。

ー本格的な音楽活動はいつ始めたのですか?

大学卒業後です。厳密に言うと、大学在学中に創作活動はしていて、大学卒業後の1年ぐらいでやっと世間が振り向くようになってきました。

ー大学を卒業して1年なんですね。在学中から、ミュージシャンになろうと考えていたんですか?

いや、全然決めていないです。とにかくやりたいことをやっていきたいという思いだけありました。だから、実は就活もしているんですよ。手当たり次第受けていたんですけど、あんまり興味なかったし、しっくり来なかったんです。だから最終的には就職はしないで、お金がある限り、好きなことをやり続けようと決めました。

ーミュージシャンを夢見て、バイトしながらずっと耐えている人もいっぱいいます。そういう人たちと小袋さんのように、早い段階で世間的に評価される人との違いはなんだと思いますか?

自分では、世間的に評価されているなんて、全く思っていないです。どこからお金が入ってくるかは分かってはいるけど、それを狙っているわけでもない。そういう世間からの評価とか、お金のことを気にしている時点で、たぶん成功できない気がします。

ーそこまで割り切れるのも、普通は難しいですよね。例えば、両親から世間的な常識を突きつけられることはないですか?

ありますよ、当然。でも、全く気にしないです。だって、そもそもの価値観が違うから、理解し合えるはずがないんです。だから、無理してすり合わせる必要もなくて、お互い尊重しながら、認め合うような関係を築いていけばいいと思いますよ。就職して、毎日会社に行くのが世界の全てじゃない。いろんな考え方があるんだ、という前提で、違う常識を持った人の意見を受け止めればいいんですよ。

ー一方で、過去には会社も立ち上げられたじゃないですか。あれは、どういう経緯で立ち上げたんですか?

Tokyo Recordingsは、仕事が定期的に入るようになったので、お財布を一緒にしようみたいなノリで法人化しただけです。株式会社化すれば「おお、気合い入っているな」と思われるじゃないですか。そんなもんですよ。「節税と気合い」です(笑)。それに、社長って肩書きが付くとみんな振り向いてくるんですよ。本当はどうでもいいけど、社長と言っておけば「本気じゃん」って思われるから。

ー周りからもどう見られているのか客観性を持ちながら、行動にできているように感じます。

いや、それは合っていないかもしれないです。ずっと大局観ばっかり見ている、と言ったほうが正しいです。

ーどういうことですか?

自分の頭の中に、未来をイメージしたすごく大きな絵があって、感覚的に「今これやっちゃいけないだろう」とか「これやったほうがいい」というのが分かる。だから、目先の金にとらわれたり、肩書きにとらわれてない。ただ、大局観だけをずっと見つめているんですよ。

ーその大局観は、先々どこに向かっているものなんですか?

えっと、言葉にしようとするとすごく難しいですね…。

ー例えば、音楽という芸術作品を通して、人に何か感じてほしいというのが根底にあるとか?

それは、ないですね。芸術そのものが人の感情を揺さぶるのではない、というのが持論です。むしろコンテキストの中でどういう作品を出したのか、ということが人の感情を揺さぶるのだと認識しています。芸術だから無条件に人に何かを感じてもらえる、という感覚は持ってないですね。

ーでは、なぜ音楽をやっているのでしょう。音楽でなくても、ただお金が回ればいいという感覚があるのでしょうか。

少なくとも俺は料理人じゃないから、料理をつくることに価値がある人間じゃない。でも、音楽業界のなかで自分がどれだけ特有であるか、人がマネできないコアは何かというのはよく分かっています。歌えて、プロデュースもできて、ビジネスも分かって、海外に住んでいるという絶対的なコアが自分にはある。

だからそれをどううまく使っていくか、という感覚で今の活動を続けています。日本では、唯一無二のポジションを手に入れたけど、海外でそれをどう発揮していくかを今考えている。そうすると今自分が一番プレゼンスを社会の中で発揮できるのは、音楽のプロデュースあるいは、何かしらの創作活動なのかなと思っています。

ー世界に出たいというモチベーションが何なのか、すごく気になります。「芸術で、何かを感じてほしいわけではない」とおっしゃっていましたが、何がモチベーションなんでしょうか。

そもそもモチベーションというのは存在しないっていうのが僕のポリシーです。目の前にやらなきゃいけないことがあればそれをやるし、大きな絵を描ければそれに向かってやるのが普通で、モチベーションって考えないですね。もちろん気分は大事にしますけど、大局観として常に何か大きな絵を描いて、そこに向かっているイメージです。

ーなるほど、ありがとうございます。少し話題を変えて、時代性に合った作品のつくり方そして、売り方をするうえで大事にしていることを教えてください。

なんだろう…大事にしていることはとにかくいろんな音楽を聴いたり、いろんな絵を見たり、あらゆる創作物に触れることじゃないですかね。もっと単純に言うと、とにかく知ることです。今、どんな絵があって、どんな現代アーティストが出てきて、どんな本が出てきて、どんな言論があって…世の中のいろんなものを捉えていくのは、やはり作品づくりには必要不可欠だと思います。

ー多くの人に届けなきゃいけないというところは何も考えていないですか?

作品をつくる過程においては、そうした考えがノイズになることがあるので、気にしないことのほうが多いですね。でも、自分がそういう役回りに立てばもちろんやります。

ープロデューサーとしては、時代性とか、国ごとの環境とかいろいろ考えて戦略的にやる必要もありますよね。

そうですけど、狙ってうまくいく時代じゃないですからね。J-POPの多くは、消費されるためのつくり方で、そういったものに僕は全く興味がないです。誰も聞いたことないような、とにかく革新的で、ゾッとするものにしか興味がない。だからこそ、つくっているものが新しいのかどうかを判断するために、いろいろな創作物に触れ、文脈を把握しておかないといけません。どう届けるかはその道のプロに任せればいいから、とにかく僕は新鮮で驚きのあるものをつくりたいというだけですね。

ーなるほど。作品とお金の関係についてもお聞きしたいです。資本主義社会においては、「お金がないと生活できないから、そのために一定の評価は必要だ」と多くの人が考えています。これまでの話の流れで言えば、小袋さんはお金のための評価、については狙ってはいない、ということになりますよね。

そうですね、全然考えていないです。本当にそんなことでずっと悩んでいるやつって大体しょうもないですから。そういう、ありきたりな考えを突き抜けないとダメなんですよ。みんな「どうやって歌手になったんですか」とか、「どうやって飯食っているんですか」って聞くんですよ。僕からしたら「うるせえよ」っていう感じですよね、本当。

僕は、お金がなかろうが好きなものをつくるという考えしかない。そうやって、作品をつくって、結果的にお金が稼げればいいや、という感覚です。どうやって飯を食うかなんて、やる前から考えたってしょうがないじゃないですか。だから、そんな質問をされてもなんのアドバイスもないし「一生悩んでいれば?」と思う。

ーそういう突き抜けた考えっていうのはどこから生まれてきたんですか。

覇気とか気合いみたいなもんですよ。そこまで、大したものでもない。それよりも、何度も言いますが、常に大局観を見ることが重要だと思います。周りには僕なんかより、もっと強い覚悟を持って、上を見ている人もたくさんいますよ。

(後編へ続く)

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