ブロックチェーンが人々に浸透するにつれ、膨大な数の取引を迅速に処理できるシステムが必要とされる。そこで注目されているのがコンシューマーがWebサイト上でさまざまな企業のクーポンを購入できるサービス「Yolla Network」だ。ベトナムのYolla Joint Stock Company社が、特許を申請している新構造のブロックチェーンを用いて展開している。
今回、同社のCTO & FounderであるPhan Van Hoa(ファン ヴァン ホア)氏とIFA社の大坂氏、阿部氏が対談し、Phan Van Hoa氏にブロックチェーンの秘める新たな可能性やデジタルマーケティングの現状について伺った。
2つのブロックチェーンを合体させ、従来のプラットフォームの弱点を克服
大坂:まず、Yolla Networkの事業内容について教えてください。
Phan Van Hoa:コンシューマーがWebサイト上でクーポンを利用して商品を購入したり、クーポンを保存して店頭で支払ったりすることができるサービスです。さまざまな企業と契約を結んで日に50〜100のクーポンを無料で掲載し、コンシューマーが利用した分だけ弊社に収入が入ってくるという仕組みになっています。
大坂:そのサービスの特徴はなんですか?
Phan Van Hoa:ロイヤリティプログラムというものがあり、コンシューマーは獲得した報酬ポイントをパートナー企業で使うことができます。コンシューマーにコインをあげているようなものですね。そのプログラムを支えているのがブロックチェーンです。弊社のブロックチェーンは複雑な取引が得意な通常のブロックチェーンと、簡単な取引が得意な非同期型のブロックチェーンを合体させた、特徴的なものとなっています。
阿部:2つのブロックチェーンを合体させることに、どのようなメリットがあるのでしょうか?
Phan Van Hoa: たとえば、イーサリアムというプラットフォームについて考えてみましょう。イーサリアムは取引を記録し、契約の期日になると自動でその内容を実行してくれる「スマートコントラクト」というシステムを実装しています。しかし、その環境では1秒あたりに処理できるトランザクション(取引)は20〜25件ほど。1日あたりに処理できるのは全世界で130万トランザクション程度にとどまります。これはとても低い数字です。ですが、弊社の作り出した仕組みでテストした時、1秒あたり3,500トランザクションの処理が可能になりました。簡単な取引と複雑な取引、両方に対応できるようにすることで、非常に短期間で高速の処理が実現されるようになったのです。
大坂:それは凄いですね。データベースはオリジナルで開発しているものですか?それともオープンソースのシステムを利用しているのでしょうか?
Phan Van Hoa:データベース自体は既存のものですが、ブロックチェーンのエンジンとなる部分は独自で開発しています。本当はこれでICO(仮想通貨による資金調達)なども考えたのですが、あいにく今のベトナムのマーケット状況があまり良くなくて…。まずは自社の他のプロジェクトに応用しつつ、技術の完成度を上げていくことを目標にしています。
さまざまなネットワークを、ひとつのブロックチェーンで繋げられるのでは
Phan Van Hoa:この仕組みが上手くいけば、今後はさまざまなネットワークをひとつの共通のブロックチェーンで繋げられるのではないかと考えています。どういうことかというと、たとえばA銀行から送金する場合、送金先が同じ銀行であればパッと送れますが、B銀行に送金しようと思うと少し手間がかかりますよね。同じことがブロックチェーンにも言えるのです。そうではなく、他のブロックチェーンのネットワークを使う時にも簡単に金銭のやりとりができるよう、コネクトすることまで構想しています。
阿部:共通のブロックチェーンで繋ぐことで、イーサリアムやステラ(仮想通貨取引のプラットフォームのひとつ)など他のプラットフォームともやりとりできるようにするということでしょうか?
Phan Van Hoa:いえ、まだそこまでクロスすることは考えていません。あくまで私どもの管理しているネットワークの中で、さまざまなブロックチェーンとやりとりができるようになるということですね。他のチェーンとやりとりをするためにはトラスト(信用)の問題が大きく立ちはだかります。
阿部:問題とは、具体的にどのようなものでしょうか?
Phan Van Hoa:たとえば円とドルで取引をする場合、間に交換所が入りますよね。しかし、交換所が本当に正しく交換してくれるとは限りません。1ドル=100円のはずなのに、1ドル=200円で交換しろと言ってくるかもしれない。正しいことを言っているか分からないのに、交換所に依存しなくてはならないわけです。このインタビューで私が話しているのはベトナム語ですが、正しく日本語に通訳されているかは分からない…という風に言い換えた方が分かりやすいかもしれません。そのようなリスクをなるべく最小限にしたいのです。
阿部:なるほど。そのためにまず、自社のプロジェクトで新構造のブロックチェーンを試しているということですね。
Phan Van Hoa:はい。最終的にはブロックチェーンを、ビットコインのような仮想通貨を流通させる箱として利用するのではなく、生活の中に応用していくというのが一番大きな目標です。銀行やクラウドファンディングなどで、仲介のリスクを取り除いてダイレクトで取引ができるというところにブロックチェーンの大きな強みがあると思います。自社のプロジェクトに応用して技術を完成させられれば、パートナーとなる企業も説得しやすいのではないでしょうか。
ベトナムはデジタルマーケティングが盛ん
大坂:ベトナムでは、デジタルマーケティングや広告系のエージェンシーが盛んなのでしょうか?
Phan Van Hoa:非常に盛んです。GoogleとFacebookが入ってきてからマーケットが活気づいていますね。たとえば、ベトナム中部にあるような、小さなスイーツ販売店などでもそれなりのポップ広告を出せるんですよ。色々な会社が広告を運用しています。広告の出し方を勉強できるFacebookのコミュニティには72,000人ものメンバーが参加しているのです。
大坂:インターネットを活用しているベトナム人が多いのですね。
Phan Van Hoa:今後、さらにデジタルマーケティングのシェアが上がっていくと思います。Webサイト上に最初は無料で情報を掲載しておき、だんだんさまざまな機能を実装していってそれを利用する企業にお金を払ってもらうと。弊社の場合は、加えてコンシューマーのネットワークを作りたいと考えています。コンシューマーのネットワークができれば、紹介によるマーケティングが抜群の効果を発揮するでしょう。
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ライター/小泉ちはる 編集/YOSCA 撮影/倉持涼