2019.11.15 [金]

ブロックチェーンで社会正義が大切にされる 公平な社会の実現を目指せ!~経済学者・竹中平蔵氏×AIre Voice編集長・大坂亮平 対談

小泉内閣で郵政民営化など構造改革に取り組み、抵抗勢力と戦った竹中平蔵氏。現在はダボス会議の理事や、英国の国際的な戦略研究機関IISSの諮問委員会のメンバーとして、国際社会における日本の役割について、真剣に取り組んでいる。竹中氏が願うのは、正義が大切にされる公平な社会だ。その実現には、スタートアップの活躍が必要と説く。IFA社が運営する「AIre Voice」でも大衆メディアが伝えないことを、きちんと扱って欲しいと、大坂亮平編集長に要望する。

なぜ日本に優秀な人材が集まらないのか?

大坂亮平(以下、大坂)

弊社では「AIre VOICE」というメディアを運営していますが、メインとなる事業は「次世代型銀行」のサービスの開発で、ブロックチェーンなどの技術をコアに使って、デジタルアイデンティティやスコアリングを扱えるようなものを来年に向けて提供する予定です。

早速本題なんですが、現在アーキテクチャの構築や検討をしているんですが、人材が本当に少ないんです。

竹中平蔵(以下、竹中):そうでしょうねぇ。

大坂:やっぱり、そうなんですか。先日、マルタのカンファレンスでスピーチをして帰ってきたんです。その後、エンジニアさんと交流などもしているんですが、日本に来てくれる人は本当に少ないです。

竹中:日本は限界税率が高いんです。だから、所得の高い人は日本に住むインセンティブがない。シンガポールは、所得税の最高税率が約17%で、日本は約55%ですから。そこは大きな問題です。今、香港がああいう状態なので、FinTech人材や金融人材が資本と共に抜け出しているんです。本当は日本に来て欲しいけれど、みんなシンガポールに行ってしまう。もちろん、ビザの問題などもありますが、より根底にあるのは所得税率が高いこと。

大坂:それは感じますね。でも、政府も優秀な人材を獲得しようとしているんですよね?

竹中:そのつもりらしいですが、仕組みはそうなっていない。むしろ、所得の高い人ほど日本から出ていく仕組みになっていて、さらに長くいると相続税が高い。周りの国で相続税がない国なんていっぱいありますからね。だから、そこは日本のファンダメンタルの問題だと思います。

大坂:日本国内にいて、日本になじんでいる外国人のエンジニアは興味を持ってくれるんですけれど、海外から日本に来てもらうと、所得税の問題とかがあるのでシブいですね。あとは家族のこともよく言われます。

竹中:お子さんの教育の問題ですよね。

大坂:はい、そうですね。

竹中:お子さんの教育と、お医者さんの問題は大きいですね。医療制度が整っているように思われますが、いざ診察する時に英語でやり取りできるのかが問題。あと、海外の医学部を出てライセンスを持っている人は日本でも治療ができれば良いのですが、基本的には日本の国家試験を取った人でないとダメ。若干の例外はあるのですが、圧倒的に英語で治療できる医師が不足しています。だから、ファミリーで来てもらえるような制度になっていないっていうことですよね。

大坂:政府もインバウンドを一生懸命にやっているんですけれど、もう少し視点を広げてもらえるといいんですよね。

竹中:そうですね。そのほかにも、留学生に来て欲しいと言うんです。でも留学生って悩むんです。言葉や文化の壁があるけれど、それをケアしてくれる学生専用のカウンセラーなどがいるかというと、大学にはそういうものを置いているところがほとんどない。やっぱり政策のパッケージにしないといけないんです。

もちろん、日本は医療なら医療がかっちりしていて、国家資格を持ったお医者さんに、全員が治療を受けられるし、手厚い健康保険もあり、それはそれで良いシステムなんです。ただ、時代や環境の変化に合わせて新しいことをやろうとした時に、制度が完璧過ぎるので柔軟に対応できない。いま風にいうとアジャイルなことができないんです(笑)。

ちょっとやってみたらいいんじゃない、ってことにならない。それは逆にいうと、日本の良さでもあるわけで、良さであるがゆえになかなか変えられない。

スーパーシティ構想はセンターピン大事なことを伝えない大衆メディア

大坂:まったくおっしゃるとおりですね。ベトナムに行った時に、現地の方が今は経済発展しているけれど、そのうちどこかで止まる。その時に重要なのが教育、インフラ、そして法整備といった土台だということを言っていました。ただ、こういうことって私たちのように小さなスタートアップが言っても、解決できないと思うんです。

竹中:私が申し上げたいのは、スタートアップはスタートアップとして全力でがんばってほしい。そして、制度の壁についてはもっと堂々と声を上げて欲しいんです。制度の壁は、やはり、フロンティアを走っている人でないとわからないところがたくさんあるんです。ただ逆に、制度のことを考えている人からもスタートアップへの不満があるんです。

大坂:えっ? どういうことですか。

竹中:みんな、小さい。集めようと目指しているお金が小さいそうです。集めるお金が、2桁違うだろうと、ある経済界のリーダーが指摘しています。最初から世界を目指しているスタートアップが日本にどれだけあるのかと。大坂さんたちは、世界を目指して国際会議に出られていると思うんですが、数十億円くらい集めて上場すれば大成功みたいな雰囲気になっているんです。

実は、東証マザーズっていうのは世界で上場基準が最も甘くなっているとも言われています。だから、IPOだけをやるなら比較的に簡単にできてします。でも、そこからさらに世界に羽ばたこうとしていないという、スタートアップへの不満もあるんです。

大坂:なるほど。

竹中:もちろん、これは鶏と玉子で、現在の制度が悪いからという面もある。例えば、FinTechの分野で有望なスタートアップが出てこないですよね。直接の理由ではないにしても、そもそも人工知能などの分野では、ビックデータが必要ですよね。でも、キャッシュレスが発達しないから、そのビックデータが集まらない。その意味で環境が整っていないという構造的なところはある。

大坂:その通りなんです

竹中:すべてのシステムを一変に変えることはできないので、トリガーになるものは何かを探す。いわば、ボーリングのセンターピンですね。ボーリングのセンターピンには2つの意味があるんです。見えやすくて、わかりやすい。そして、それが倒れると他もガンガンガンと倒れるのではないかという期待ができる。こういった役割を政策的・戦略的アジェンダというんです。

例えば、デフレ克服ってひとつのセンターピンかもしれませんが、どうですか?

大坂:なんか、ぼんやりしている気もしますが…。

竹中:確かに、センターピンって、見えやすいほうがいいんですね。例えば、スーパーシティなんかは、それになりうると思っています。スーパーシティになった街で、このディストリクト(区域)では法律で禁止されているライドシェア、遠隔医療なども全部やっていいし、ここは全部キャッシュレスにしてしまう。逆に、キャッシュだと値段が高い(笑)。

実は、この話は大阪市の松井市長に言っていて、IRを誘致する夢洲でやりましょう、と。2025年の大阪・関西万博もあるので、このスーパーシティをやろうとお話をしているんです。

大坂:すごい具体的ですね、ぜひ私たちも入りたいです

竹中:ぜひ、手を上げてください。ただ、問題はこの法律が通るかどうか。

大坂:どういうことですか?

竹中:これは国家戦略特区の改正案になりますが、既に今年の春に閣議決定されて、先の国会に法律が提出されているんです。でも、一回も議論されないまま廃案になってしまった。しかも、それをニュースは、きちんと伝えないんです。

大坂:じゃあ、「AIreVOICE」が伝えましょう

竹中:是非、やってください。この話をするとね、みんな面白いっていうんですけれども、実際にやるとなると、規制改革が一気に進む可能性があるから反対しているんです。

大坂:なるほど。

竹中:でも、我々も粘って、会期が短い秋の臨時国会で審議される法案のひとつに当初は入っていたんです。しかし、結局は先延ばしになりました。

ブロックチェーンで公正な社会を海外に出てわかる日本の素晴らしさ

大坂:話は変わりますが、海外にいくとブロックチェーンをどう活用しようかという具体的な話になるんですが、日本では少し前に詐欺まがいことが起きた時の印象が抜けなくて、ギャップを感じます。

竹中:それは、すごく本質的な問題が絡んでいると思います。クリプトカレンシー(暗号通貨)っていうと、カレンシー(通貨)です。カレンシーには3つの役割があると言われていて、1つ目は価値を量る単位。この商品が100円といった単位です。2つ目は、交換の手段。100円払うこの商品を頂戴といったときに使う。3つ目は、価値を貯蔵する手段。自分の資産を通貨にして、貯めておこうというもの。

通貨は、まず単位になって、交換の手段になって、そのうえで価値を貯蔵する手段になっていくんです。けれど、ビットコインはいきなり価値を貯蔵する、3つ目の役割として、投機する資産になってしまったんです。つまり、ビットコインは本来1つ目の決済に使われる前に3つ目の資産を貯めておく手段、しかも投機の対象になってしまった。

日本人って、意外と投機が好きなんですね。和牛商法なんて大好きで、引っかかったりしますよね。日本人が堅実なんていうのは絶対にウソだと思う。

アメリカなどでは、ペイパルのように送金をサービスとして提供する送金業者がいて、銀行以外の金融手段というものに、ある程度は慣れていたというのがあるかもしれません。

銀行って、特殊な権利を与えられて台帳を管理する人ですよね。私が100万円を預けると、その100万円はどこか別のところへ行ってしまうけれど、政府がお墨付きを与えた銀行のところに台帳があって、私の資産が書かれているから大丈夫ということで、仕組みが成り立っている。でも、ブロックチェーンならば、そのお墨付きがなくても良いわけです。しかし、日本では銀行システムが良く出来ているので、そこが扱っていないものが出てくると、投機の対象になって歪んでしまっている、ということのように思います。

大坂:私は送金手数料に注目しています。ブロックチェーンを使ってメリットがあるのは、海外送金ですよね。海外とのお金のやり取りが安くなると、もっと頻繁に使えるようになる。そうすると、ビジネスも広がって、ブロックチェーンの特徴が日本でも知ってもらえるようになるかな、と。

竹中:おっしゃるとおり、おっしゃるとおりです。私はイギリスの研究所IISSのメンバーなので、毎年何千円かを払うんですが、この前頭にきたんです。4000円くらいの送金をするのに、銀行を通したら、手数料が5000円なんです!

大坂:えええっ!

竹中:ほんとに、バカにしているのかって。日本はすごいですよね

大坂:すごいです、すごいです。

竹中:だから、海外送金が安くなったら、ビジネスの波及効果は無限に広がりそうですよね。例えば、東京とパリを飛行機で移動するときに、ビジネスクラス、ファーストクラスで往復しようとしますよね。日本からの料金はパリからの料金に比べると、2倍近くあるんです。これ、超過利潤を取っているわけですよ。だから、頻繁に東京とパリを行き来する人は、パリ発着で買えばいい。そうすると、何が起きるか。裁定取引で、ちゃんとした価格形成がなされるようになるわけです。我々は気づいていないところで、高いお金を払っていることが実はたくさんあるんです。

大坂:そうですね。

竹中:まぁ、超過利潤を取っている人の典型は窓際族なんですが。

大坂:弊社では、ありえないですねぇ。

竹中:生産性以上のものを、何らかの仕組みのもとで得ているわけで、そういうは社会正義として、私は許されないと思うんです。こういうことをいうと、いろんなことを言われますが、これは世界の常識です。まぁ、人に何を言われてもいいのですが、そういう不公正なことは、なくなったほうが良いと思うんです。日本はクローニー・キャピタリズム、縁故資本主義っていう風に揶揄されます。一部の人だけが超過利潤を得ているわけですよね、政府に食い込んだ人とか。

大坂:おかしいですよね。

竹中:おかしい。だから、そういうことと戦ってほしいんですよ、スタートアップの方には。

大坂:はい、がんばります。私も海外に行くと、外国人の方から日本より中国とか、韓国の人と仕事をしたほうがいいって言われるんですね。決断が速いから、そっちのほうが良いなどの理由で。それが理由なのか、ブロックチェーンの界隈では日本の会社が少ないんです。そういう状況で、毎月半分くらいは海外に行っているのですが、一企業としてではなく、ここでがんばると日本が良くなるんじゃないかって、思ったりするんです。

竹中:日本は素晴らしいがゆえに、そう思いますよね。

大坂:そうです。やっぱり、日本って素晴らしいんですよ、本当に。海外から帰ってくると、日本っていいなって思います。

竹中:だって、3500万人もの人が暮らしている首都で空気と水がこれだけキレイ。これは奇跡です。そして、私たちは飲める水をトイレに流しているんです。これ、すごい国ですよ。だから、大坂さんのように海外と接点を持っているのは、本当に大事です。これからも、がんばってください。

大坂:ありがとうございます。

竹中平蔵氏
1951年、和歌山県生まれ。慶應義塾大学名誉教授、東洋大学教授。博士(経済学)。一橋大学卒業後、ハーバード大学客員准教授、慶應義塾大学総合政策学部教授などを経て、2001年より小泉内閣で、経済財政政策担当大臣、金融担当大臣、総務大臣などを歴任。『第4次産業革命! 日本経済をこう変える。』(PHPビジネス新書、2017)、『平成の教訓』(PHP新書、2019)、『竹中式マトリクス勉強法』(幻冬舎文庫、2011)など著書多数

大坂亮平氏
IFA社 CMO/AIre VOICE編集長。Live配信のスタートアップ、SPの広告代理店などでのプランナー、デジタルマーケティング職を経てIFA株式会社へジョイン。5つのプロダクト/プロジェクトで構成される「AIre」構想の最初のプロジェクト『AIre VOICE 1.0(アイレヴォイス)』を担当。デジタルマーケティングにおける経験を活かし、「AIre」全体のコミュニケーション戦略などの計画・実行責任者として活躍する。

取材・文/編集部 撮影/ANZ

この記事をシェア