2019.11.12 [火]

オープンイノベーションでブロックチェーンの 社会実装を支えるNTTデータの仕事術

電電公社時代から、金融システムのネットワークを手掛け、そのシェアは現在も約8割というNTTデータ。レガシー企業の象徴のような存在にも関わらず、積極的にオープンイノベーションに取り組み、ブロックチェーンなど新しい技術も積極的に取り入れている。今年の4月には同社のオープンイノベーション事業創発室がブレット・キングの著書『BANK 4.0 未来の銀行』(東洋経済新報社、2019)という既存のシステムのディスラプト、金融のイノベーションを扱う書籍を翻訳し、上梓している。

日本の金融基盤システムを手がける一方、「もうブロックチェーンがない世界には、後戻りはできない」と話す真意とは?

今考えるべきは「銀行の未来」ではなく、「未来の銀行」

NTTデータは、いまから約35年前の日本電信電話公社(いわゆる電電公社)が民営化された日本電信電話会社(いわゆるNTT)から、1988年に分社化されて設立され、現在はNTTグループの中核企業として、情報システムとコンピュータ・システムを扱う会社として活動している。

同じNTTグループのドコモなどに比べると、生活者からは縁遠い印象があるかもしれない。しかし、ネットワークを利用した金融取引を実現するANSER(Automatic answer Network System for Electronic Request、アンサー)を1981年から、クレジット情報の照会サービスのCAFIS(Credit And Finance Information System、キャフィス)を1984年から、そして、全国銀行資金決済ネットワーク(いわゆる全銀ネット)を提供するなど、日本でオンラインの金融サービスを利用する際の基盤システムに関わっているので、実は誰もがお世話になっている企業なのである。

いわゆるレガシー・システムの象徴的存在ともいえるかもしれないが、「NTTデータ オープンイノベーション創発室」は、Banking Exchange誌が「ディスラプター・キング」と呼ぶブレット・キングの著書『BANK 4.0 未来の銀行』(東洋経済新報社、2019)を翻訳し、訳者のあとがきでは<金融は本来、目的を実現するための手段だ。利用者にとって、手段に要する時間や手間やおカネは、フリクションでしかない。デジタル化・モバイル化によって場所と時間の制約がなくなれば、近い将来、バンキングのために銀行に脚を運ぶ必要はなくなる。望ましいバンキングのあり方は、最もフリクションのない形、すなわち目的実現への行動の過程で、必要な時と場所に自ら顔を出すことになることだろう。だからこそサービス提供が、子役の行動を予測し、経験のなかに組み込まれるものになるのは自然の流れだ>(同書 P.508)といったことを書いている。

非常に婉曲な表現になっているが、近い将来、今の銀行はそのままではいられないと警鐘を鳴らしている。この本のタイトルも興味深い。「銀行の未来」ではなく、「未来の銀行」なのだ。つまり、銀行はどう変わるかではなく、未来の銀行は今のままなのか? と問うている。

実はFinTechやレジ無し店舗などを後ろで支える存在だった

取材に応じてくれたのは、NTTデータ オープンイノベーション事業創発室 室長の残間幸太郎氏(写真中)、同室の岡田和也氏(写真左)、NTTデータ経営研究所 金融経済事業本部 金融政策コンサルティングユニット エグゼクティブスペシャリスト 上野博氏(写真右)のお三方。

まずは、オープンイノベーション事業創発室について聞いてみた。

「この部署ではNTTデータ オープンイノベーション コンテストを開催しています。なぜ、私たちのような会社がオープンイノベーションなのか? という疑問をお持ちになるかもしれませんが、ネットワークのCPUコストが急激に下がり、クラウドやスマホが身近になったことで、起業のコストが大幅に下がりました。場合によっては、企業がR&D(研究開発)をして、それを育てるよりも、スタートアップを起業する方がスピードが速いうえに、優れたサービスを提供することができてしまう。

これまでも、私たちはスタートアップと組んでビジネスをしたいと思っていたのですが、なかなか機会がなかった。また、スタートアップの方々は私たちのような大きな会社に、乗っ取られたり、あれこれ煩く言われて敬遠するかな、という先入観がこちらにありました。が、とにかく始めてみようということで、2016年からチャレンジしてみたところ、意外と評判が良かったんです。私たちも(写真のように)こういう格好で親しみやすくしていますし、スタートアップにとっても大企業と一緒にビジネスをしているというブランドや、私たちが提供している900以上のプラットフォームを利用することができることに魅力を感じてもらえたんです」(残間氏)

実は、4年前に行なったコンテストにはfreeやマネーフォワードといった、現在のFinTech界で存在感のある企業も参加している。両社は、NTTデータが金融機関に提供する共同利用型の個人向けインターネットバンキングサービス「AnserParaSOL」を接続するAPI連携サービスを利用して、それぞれのサービスの実現に漕ぎつけた。つまり、NTTデータがオープンイノベーション向けにサービスのAPIを公開したことが、FinTechが広がるきっかけを作った面がある。

「いま中国のベンチャー企業「云拿科技(CloudPick、クラウドピック)」と連携し、レジ無し店舗の出店支援を9月から始めています。スマホのアプリを起動し、表示されたQRコードを店舗入口で読み込み、商品を手に取り、そのまま店舗を出ると自動的に決済が行なわれます。このサービスは当社のCAFISと連携させることで実現しています」(残間氏)

実は10月16日から六本木にある同社のデザインスタジオ「AQUAIR」で、セブン-イレブン・ジャパンと連携して、レジ無し店舗の実証実験も始めた。一般客は利用できないが、購買体験や店舗運営を検証して、実用化の課題を探る。このシステムをコンビニエンスストアやドラッグストア向けに販売し、2022年度末までに1000店への導入を目標としている。

もう、ブロックチェーンがない世界には後戻りはできない

同社では、東京海上日動火災保険と協業し、世界8カ国の関係者と外航貨物保険における保険金請求のブロックチェーン技術適用の実証実験を行ない、成功させている。

「ブロックチェーンは、いますごい面白い。なぜかというと、技術の進展度合いや成熟度と、ビジネスの生まれるものが違うんです。これまでは、この進展度合いだったら、このビジネス、この進展度合いだったら、このビジネスっていう風になるのが普通だったんです。

私たちが取り組んでいる貿易金融のような文書の透明化、真贋性の管理、取り引きの一括性、偽造防止って、貿易金融の長い取り引きをみんなで一括してやることは、今の技術レベルでかなりのことはできるんです。が、ブロックチェーンを使うと、何か新しいことができそう、ということで、どんどん注目される。

おそらく、その次の段階では、スマートコントラクトが注目されるでしょう。今までは、誰かが中央で管理していたものが、ブロックチェーンでプログラムされたものによって自動的に取り引きが行なえるようになる。例えば、証券取引でDEX(分散型取引所)というのが出てきています。これは、従来は証券取引所が管理してやっていたものをスマートコントラクトというプログラムが、コントロールしてくれる。そして、資産はみんなが分散で持っているけれど、ある条件下では、ここで取り引きが成立する。そうすると、中央で不正はできなくなりますよね。さらに、その先に行くとリアルタイムとか、本当に今の取り引きのような形が実装化されてくる。ブロックチェーンについては、なんとなくそんなイメージを個人的には持っています」(残間氏)


少し答えにくい質問かもしれないが、国のレガシーシステムを手掛けているような方々からは、ブロックチェーンの今後をどのように考えているのだろうか。

これについては、地方銀行向けにコンサルティングなどを行なっている上野 博氏が答えてくれた。

「ビットコインに使われていたブロックチェーンの技術は、インターネットを使って、分散型の金融サービスを提供するものとしては、初めての本格的なものでした。いわゆる中央銀行のように通貨を発行するような国単体でやっているシステムとは違うものがインターネット上に出てきたわけです。そこで使われているブロックチェーンに、いろんな人が入ってきて、たくさんのことに利用できることがわかってきた。金融の場合は利害調整が難しいかもしれないけれど、不動産の登記簿管理とか、車のリースするときの所有権とか、ダイヤモンドなどの美術品などは、比較的簡単に使えそうですよね。

さらに、Libraのようなものまで出てきました。あれは中央銀行がやっていたことを、やろうとしているわけです。この先、どうなるかはわかりませんが、悪用や偽造されないかは保証がありません。ただし、インターネットが登場し、私たちの暮らしが変わったことは、もう、それ以前に変えることはできない。いつ、そうなるかは別にして、ブロックチェーンも後戻りはしないでしょう。みんながそっちを向いちゃっていますから。古い大人が気づいていなくても、若いスタートアップの方々は、気づいていて、よく知っている。これからは若い方々が、次々とイノベーションを生んでいくはずです」

上野氏は大人はネットとリアルというようにわけて考えがちだが、すでにその境はなくなりつつある。若い人たちはオン/オフと言うチャネルで分けた考え方ではなく、全てをオンライン起点、オンラインのビジネス原理で考えている。いわゆる「OMO(Online Merges with Offline)」という考え方だ。

こうした認識のギャップについていけるのか。もし、わからないならば、若者のチャレンジを応援し、一緒に歩んでいくべきなのだろう。

最後に、岡田氏は、ブレッド氏は、日本は市場が大きくポテンシャルがあるにも関わらず、変化することや、先を見通すことは遅いと漏らしてはいるが、「ブレッド氏の書籍は、今後の銀行がどうなるかという表面的なことではなく、未来が、こう変わるはずだから、いま、こういう事象が起きているという書き方なので、そうした読み方が適切ではないかと、私は思います。つまり、いま、こうだから、次にこうなるという未来予測ではないんです」

お三方の話を聞いていると、彼らが必死で世界の動きを掴み、イノベーションを起こすには何が必要かに取り組んでいるかが伝わってくる。そのためには、虚心坦懐に、世界で起きていることに目を向け、耳を傾けようということなのだろう。

こうしたレガシーのプレーヤーが、ブロックチェーンの取り組みを本格化していくと、日本の社会は大きく変わっていくだろう。

残間幸太郎(写真中)
NTTデータ オープンイノベーション事業創発室 室長。NTTデータ第一期生として入社、インターネット普及前より画像通信システム開発に従事する。同社グループのコンサルファームのNTTデータ経営研究所の立ち上げに携わり、公共・金融・民間分野の新規ビジネス創出などに携わる。NTTデータに復職後は、iモード草創期のモバイルバンキングの立ち上げなどに関わり、2013年にオープンイノベーション事業創発室を立ち上げ、現在に至る。

岡田和也(写真左)
NTTデータ オープンイノベーション事業創発室。幼少期から日米欧それぞれに8年以上の居住経験があり、NTTデータのワシントン駐在員時代に、米国の電子政府先進事例の調査などに携わる。日本人初の連邦政府CIO大学修了者。FEAC認定エンタープライズアーキテクト。理学修士(ジョージ・ワシントン大学)。

上野 博(写真右)
NTTデータ経営研究所 金融経済事業本部 金融政策コンサルティングユニット エグゼクティブスペシャリスト。住友銀行、日本総合研究所、フューチャーシステムコンサルティング、マーケティング・エクセレンス、日本IBMを経て現職。金融サービス業界を中心にコンサルティングや提言活動実施する。ブレット・キングの前著『Bank 3.0』(邦題『脱・店舗化するリテール金融戦略』東洋経済新報社)を翻訳。

文/編集部 撮影/末安善之

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