投資家が注目するSTO。詐欺が相次いだ仮想通貨市場の信用は取り戻せるか。

2019.11.08 [金]

投資家が注目するSTO。詐欺が相次いだ仮想通貨市場の信用は取り戻せるか。

新しい業界には詐欺がつきものだ。まだ法規制が万全ではなく、法の隙間を突いて巧妙な詐欺が横行する。仮想通貨もやはり詐欺トラブルが多く起き、だれでも投資に参加できるICOは投資家から敬遠されるようになった。そこで新たに注目を集めているのが、法が適用されるSTOである。
香港でこうした詐欺トラブルを防ぐために立ち上げられたMinistock社の代表者であるVincent Poon(ヴィンセント プーン)氏は、STO専門の非営利組織を運営している。IFA社の阿部氏が、STOがマーケットや投資家に与える影響について伺った。

STOは冷え込んだ市場を盛り返せるか

Vincent:もともとロサンゼルスでエンジニアとして働いていたのですが、香港に戻ってきてから取り組んだECビジネスで成功しまして、その後ビットコインが出たタイミングでブロックチェーン業界に入り、プレICOで大きな利益を得ました。そしてMinistock社を立ち上げたのです。

阿部:ビジネスチャンスをつかむ力がありますね。Ministock社を立ち上げた経緯について教えてください。

Vincent:香港を拠点としたコミュニティマネージメントをしていたのですが、設立当時は仮想通貨関連の詐欺がとても多く「香港の人に正しい仮想通貨の知識を伝えたい」と思って設立しました。当時はビットコインの株取引をする際にお金が送金されないといったトラブルは珍しくなかったのです。

阿部:現在はどんなお仕事をなさっているのですか。

Vincent:アメリカでトップ5に入る法律事務所やヘッジファンド、香港拠点のファウンドを集めたSTO専門の非営利組織を作り、STOのプラットフォームを運営しています。シンガポールの証券取引所にもリストアップされました。

投資家が注目するSTO。詐欺が相次いだ仮想通貨市場の信用は取り戻せるか。

阿部:香港のマーケット状況はいかがですか。

Vincent:香港のマーケットは東南アジアや台北に比べて流動性が非常に高く、ユーザーは平均1万 US ドル、日本円で100万円ほど入れています。 日本よりも高いと思いますね。クリプトドットコムチェーンやビットフェニックスなどいろいろな仮想通貨系企業が台湾に拠点を置いているので環境は悪くないのですが、投資家からの信用はあまりありません。中国の投資家は積極的に仮想通貨に投資する流れが生まれていますが、台湾は違います。

阿部:なぜ信用されていないのでしょう?

Vincent:過去2年間は詐欺が多かったからです。今では多くの投資家がICOを避けるようになってしまいました。ただ、Facebookが仮想通貨リブラを主導することになり市場に参入してきてからは、投資銀行がSTOにもう一度興味を示すなどマーケットが盛り返しつつあります。

阿部:やはり大手企業が与える影響は大きいですね。

Vincent:はい。あと、STOもマーケットを再熱させるきっかけになると思います。香港には桁違いの金持ちがいるのですが、これまでICOには消極的でした。だれでもトークンを発行して資金調達できるICOだと詐欺が起きやすかったからです。法規制が適用されたセキュリティトークンを用いるSTOは監視下で運用するので、ICOより安全だと言えます。投資家も興味を持ちやすいでしょう。

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阿部:STOであれば国も法律も作れて詐欺を防止しやすいですし、ICOだと損をするかもしれないと思って避けていた人々も利用するかもしれませんね。企業側が1から構築するのにはお金がかかりますが、投資家がお金を出してくれれば一気に進みます。

Vincent:今は香港の株が良いとは言えない市場状況なので、ICOと株を結合したようなSTOは投資家の目を引くのではないでしょうか。香港ではサンドボックスも新しく設けられることになり、STOの注目度はかなり高くなっています。

阿部:サンドボックスは日本にもあるのですが、あまり機能してはいません。サンドボックスを利用して STOをうまく推進できそうでしょうか。

Vincent:サンドボックスの利用状況は明言できないのですが、香港のSTOに対する関心は高く、タイにSTO専用の取引所が設けられるなどいろいろな動きは生まれています。税金対策のためにSTOで海外へ投資する日本人もいますよね。ベトナムのSTOプロジェクトには日本人ユーザーが多いと聞きます。

Facebookが競合になると、かえって利益が生まれる

Vincent:市場のアップダウンは激しいのですが、Facebookの参入によって近いうちに世界規模のSTO専用取引所が誕生するのではないでしょうか。5年以内にできると思います。

阿部:日本もトラディショナルな投資家を招くにはICOではなくSTOが重要だと思っているので、国内でもSTOの可能性を発信していきたいです。

Vincent:啓蒙活動は大切ですね。私も管理している非営利組織を使ってイベント開催し、STOについて発信していきます。香港はサンドボックスができたものの、STOプロジェクトはまだひとつも生まれていません。2000万~3000万円の資金が必要なので、ハードルが高いんですね。最初のプロジェクトをだれがやるのか、それぞれが様子見している段階です。最初のプロジェクトが立ち上がれば、そのあとは芋づる式に複数のプロジェクトが続くと思います。

投資家が注目するSTO。詐欺が相次いだ仮想通貨市場の信用は取り戻せるか。

阿部:これからが楽しみですね。最後に、仮想通貨をはじめとしたブロックチェーン業界に興味を持っている人へメッセージをいただけますか。

Vincent:ブロックチェーン業界で仕事するにしても、仮想通貨市場に投資家として参加するにしても、ベースにあるブロックチェーン技術について勉強してから入ってきてほしいです。儲けたいという願望だけ持ってギャンブル感覚で参加すると、詐欺トラブルに遭ってお金を失ってしまう人もいて、結果的に業界のイメージが悪くなり市場が落ち込んでいきます。ブロックチェーン業界の未来も自然と暗いものになってしまうでしょう。投資するにしても、200~300ドルの小額投資をサポート感覚で行うのがおすすめです。

阿部:そのほうがリスクが少なく業界の発展にも貢献しますから、双方にとってプラスになりますね。ファイナンスについても理解しておく必要がありそうです。

Vincent:あと、Facebookのプロジェクトはぜひ注目していただきたいです。インフラを整えてくれる大手が出てきたことで、ブロックチェーン業界はもっと盛り上がります。大手と競い合うのは難しいので、大手が提供するインフラの上で新しいビジネスモデルを立てるのもひとつの手です。STOは注目されつつありますが、まだ初期段階です。Facebookを大きな魚だとすれば、その横についている小さな魚もそれなりの恩恵を受け、マーケットで生き残れます。これも立派なビジネス戦略だと思いますよ。

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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