ブロックチェーンの有用性が少しずつ認知されていく一方で、特別な技術を持たない一般人にとって、利用のハードルはまだまだ高い。
台湾を拠点とするTOKEN BACON社は、メールアドレス一つでブロックチェーンのウォレットが取得できるプラットフォームを開発。一般の人が利用しやすいことを第一に考えている。同社でアジアエリアのマーケティングマネージャーを務めるSunny Lin(サニー リン)氏とIFA社の阿部氏が対談し、同社が提供するプラットフォームの特徴や、これからのブロックチェーン業界の変化について話を聞いた。
一般の人も使いやすいよう、ブロックチェーンのハードルを下げる
阿部:まず、Sunnyさんの自己紹介として、ご自身のご経歴をお聞かせいただけますか。
Sunny Lin:私は大学を卒業後、この世界の仕組みを知りたいと思い、世界のトレンドが肌で感じられる貿易業界で営業の仕事に就きました。その5~6年後には日本の企業に入社し、日本市場も勉強しています。そのときにブロックチェーンの実態と可能性を知り、時代の最先端に関わりたいと考えて、3~4年前に今の会社に入社しました。
阿部:当時、ブロックチェーン領域への転職は珍しかったでしょう。
Sunny Lin:そうですね。でもどうしても入社したいと感じ、台湾市場のことも含めてあらためて勉強して入りました。
阿部:現在はどのような業務を手掛けておられるのですか。
Sunny Lin:アジアエリアをメインにマーケティングを担当しています。日本や台湾はもちろん、韓国、タイ、フィリピンなども私の担当です。
阿部:TOKEN BACONの会社についてもおうかがいしたいのですが、メンバーなどはどのような体制になっているのでしょうか。
Sunny Lin:テクノロジーの会社なので、全体の7割はエンジニアです。今後どんどん技術のフレームが開発されていく予定なので、マーケティング担当としても張り切っています。
阿部:TOKEN BACONの技術は、他社の技術とどのような違いがあるのでしょうか。
Sunny Lin:TOKEN BACONは、ベースの技術、つまりブロックチェーン自体をつくっているんです。また、それがパブリックチェーン(取引の確認やブロックの生成に誰でも参加できるもの)ではなくプライベートチェーン(取引の確認やブロックの生成への参加者が限定されており、管理主体が単独のもの)、その中でもサイドチェーン(複数のブロックチェーン間で別のものの価値を代替するトークンのやり取りを双方向で行う技術)であるという点も、他社とは異なります。
阿部:なるほど。
Sunny Lin:TOKEN BACONがかねてから考えているのは、一般の人がブロックチェーンを使うハードルを下げること。イーサリアムやビットコインなどの有名な技術はありますが、例えばイーサリアムでプログラミングをしようと思えば、非常にハードルが高い。私たちの技術は、メールアドレス一つでブロックチェーンのウォレットが取得できるようにして入口のハードルを下げ、特別な技術を持たない一般の人にもどんどんブロックチェーン技術を使ってもらえるようにと考えています。
阿部:では、TOKEN BACONのトークンには、どのような特徴がありますか。
Sunny Lin:当社のトークンは価値を示すだけでなく、情報を保持しています。日ごろからスマホなどで情報を見ると思いますが、その情報がトークンの中に入っているため、いわばメディアトークンのような感じです。
阿部:情報を保持したメディアトークンとは、分かりやすく言うとどのようなイメージなのでしょうか。
Sunny Lin:非中央集権型のメディアプラットフォームを想像していただければと思います。例えば、FacebookやInstagramは中央集権型寄りで、同じような属性の人が同じような情報を発信しているということが感じられます。また、Googleで何かを検索しても似たような検索結果ばかりが浮上し、目に入る情報は限られてしまっています。
しかしブロックチェーン上であれば、自分が持っている情報を直に他の人にシェアすることができます。FacebookやInstagramなどのプラットフォームに依存せず、さまざまな情報やコンテンツをそのまま人と交換することができるんです。
また、中央集権型のプラットフォームでは、自分の情報や自分がつくったコンテンツが自分の手元ではなく、プラットフォーム上に置かれて管理されます。しかしWeb2.0やWeb3.0では、情報は自分の財産であるという考え方が主流です。メディアトークンを使えば、情報を自分で持って、どのように使い、どのような価値として交換をするかを自分でコントロールするということが活性化できるんです。
変化する法律を100%順守しながら、技術を発展させていきたい
阿部:一般の人は、そもそも自分たちのデータが自分たちの資産であるということさえ知らないのではと思います。その啓蒙のため、およびTOKEN BACONのサービス認知を広げていくために、進めていることはありますか。
Sunny Lin:当社だけで世界中の人の考えを変えられるとは思っていないので、世界中で生まれているさまざまなブロックチェーンのプロジェクトのなかで、当社は当社のパーツをきちんと進行し、一般の人を馴染みのあるメールアドレスという入口からブロックチェーンの世界に連れ込みたいと考えています。そのうえで、当社のプラットフォーム上に乗ったさまざまなサービスを利用し、ブロックチェーンでできることの幅の広さを体感してもらえればいいと思っているんです。
ほかのブロックチェーンでも同じように広がっていけば、世界中の意識が変わっていくのではないでしょうか。
阿部:オープンソースだからこそ、まずはたくさんの人に使ってもらうということが前提にあるのですね。
Sunny Lin:そういうことです。もちろん、各社で応用の分野は異なります。しかし、例えばスマートフォンという共通のデバイスにいろいろなアプリが乗っているのと同じように、各社のサービスの基盤となるブロックチェーンの進化の行き着くところは結局同じだと思います。
これらは一般向けの話ですが、一方でビジネスサイドの話をすると、当社はSTO(従来のICO※に代わる新たな資金調達の方法で、株などと同等の法規制がある)のライセンスを取得し、STOの分野にも進出しようと考えています。
※発行したトークンによる資金調達
阿部:具体的には何をしようと考えておられるのですか。
Sunny Lin:STOの投資プラットフォームをつくりたいと考えています。例えば、すごく高価な絵画があったとします。その絵画を個人で購入するのは難しくても、絵画をSTOの法律のもとにトークンとしてデジタルアセット化し、その一部の権利を購入できるようにすれば、投資が可能になるんです。
ICOは夢を売るだけですが、STOは法律がしっかりしていて、デジタル株式のような扱いになる。この構想を資産家の知り合いにも話しましたが、興味を示してくれました。
阿部:台湾の法律は厳しいと認識しているのですが、他国においては、今後まだまだ法律が新たに制定されたり、内容が変更されたりと変化があるのではと思います。それについてはどうお考えですか。
Sunny Lin:台湾も進んでいるには進んでいますが、不足している部分もあります。ブロックチェーン自体がまったく新しいコンセプトの産業なので、もちろん世界各国もトライアンドエラーの段階です。そのなかで当社は100%法律順守を掲げており、新しい法律が制定されれば、経産省や金融庁にきちんと確認をしながら次の方向性を決めていく方針です。こういった技術を手がけている限り、各国の法律を学びながら、どのように対応していくかは、今後の課題の一つだと認識していますね。
日本の話をすれば、日本は法律がすごく厳しいというイメージ。現時点ではすべてに待ったがかかった状態ですが、各国の事例を参考にすることで、将来的には世界で最も法律が整備された国になるのではないかと予想しています。
阿部:なるほど、総合的に判断している状態なのですね。最後に、読者に向けてメッセージをいただけますか。
Sunny Lin:個人的には、仮想通貨を含めたブロックチェーン産業を、新興産業ではなく将来的に発展するポテンシャルの高い産業だというふうに見てほしいと考えています。ブロックチェーンが発展するにはまだまだ時間がかかると思いますが、例えばインターネットも、出てきた当初のスタートアップ企業さんが努力をして、現在その成果が我々の生活に還元されています。ブロックチェーンもそれと同じなので、一般の人にもどんどん参加してくださいと言いたいですね。
阿部:ブロックチェーンに関わる人はみんなそう思っていますよね。本日はありがとうございました。
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ライター/三ツ井香菜 編集/YOSCA 撮影/倉持涼