成長著しいベトナムは優秀なエンジニアを多数輩出し、多くの海外企業を誘致している。法人税を軽減したり、旧校舎を企業に貸し出したり、エンジニア育成コースを設けたりと多くの取り組みが実を結んだ。
一方、日本はエンジニアが足りていない。ブロックチェーンエンジニアの人材不足は深刻だ。Block Ship社のCEO河野 健太氏は、ベトナムでブロックチェーン教材を提供し、エンジニア育成を行う日本人起業家だ。27歳でベトナムでの起業を果たし、現地の大学と協力しながらブロックチェーンエンジニアを育てる河野氏に、同社の取り組みやベトナムのエンジニア事情についてAIreVOICE編集長の大坂氏が伺った。
ダナンの人々に惚れこんで創業
河野:「ブロックチェーン技術なら個人情報の取り扱い問題を解決できるのでは」と思ってブロックチェーン業界に入りました。もともと東京でカフェを経営していたんですが、マーケティングにのめりこんでIT仕事に打ち込むうち、個人情報の取り扱いをどうにかしたいと思うようになったんです。
大坂:会社員として働くのではなく、自分で会社を立ち上げたのはなぜですか?
河野:もともと会社に属する気がなく、雇用された経験はありません。人を紹介してもらいながら自分で仕事をしてきました。今回も経営者になるのが僕にとって自然でしたから、起業前にベトナムのエンジニアとコンタクトをとり「協力しながら仕事ができそうだ」と感じて創業しました。
大坂:ベトナムで起業した理由は何でしょう。
河野:最初はベトナムに仕事を外注しようと思っていたのですが、ダナンにいる人々の人柄とスキルに惚れこんでしまったんです。エンジニアは噂以上に優秀で、ここであればスムーズにコミュニケーションしながら仕事ができるだろうと確信して起業を決めました。
大坂:念入りに準備したのではなく、直感的に突き動かされて起業したのでしょうか。
河野:というより、起業の条件が揃ったので起業しました。日本で一緒に仕事していた人にベトナム政府の方などを紹介してもらって人脈ができ、日本の最新テクノロジーをベトナムで展開していく道筋が見えたんです。自分だけの力ではなく、いろいろな人に支えられて起業しました。
大坂:ブロックチェーンの教材を作っていると伺いました。どういった経緯でスタートしたのですか?
河野:日本企業の知人にベトナムの知人を紹介したとき、雑談するなかで「ベトナム人にブロックチェーンの教育をしましょう」と意気投合しまして、資金援助を受けながらスタートしました。2年前のことです。それまでベトナムにはブロックチェーンの教材がなく、英語に精通していないエンジニアも英語の本を睨みながら勉強していました。自社のエンジニアと「どうしたらベトナム人もブロックチェーンを使えるようになるか」「どんな実習を行えば習得できるか」話し合い、大学ともコンタクトを取りながら進めていきましたね。
大坂:教育事業のニーズがあったわけですよね。ベトナムではエンジニア職の人気は高いのでしょうか。
河野:かなり人気です。国自体がITを推進しており、IT業界は給与が高いので優秀な人材はIT業界に集中しています。ワールドワイドで活躍できるエンジニアを目指す人はどんどん増えていますね。
大坂:ベトナムの中でもダナンはテック企業が多い都市ですか?
河野:多いですね。税金を安くして海外のIT企業を誘致し、東南アジアのITハブを作ろうとしています。とある学校では旧校舎をまるごと企業に貸してプロジェクトを推進しました。IT企業をどんどん招き入れて活性化している街です。
大坂:学校も意欲的なんですね。
河野:数学系の学部を出た生徒たちをエンジニア育成コースに再入学させ、海外のIT企業にすぐ就職できるようにするなどエンジニア教育に力を入れています。ベトナムは数学オリンピックでも上位に入っていて、エンジニアに適した人材が多い。人件費もまだまだ安く、海外企業からするとかなり魅力的です。
大坂:税制上でも特区扱いなんですね。
河野:ええ、日本語教育が活発なので日本企業も多いです。ダナンだけでなくホーチミンやハノイも税金を安くして海外のIT企業を誘致しています。
大坂:同じくIT人材を多く輩出しているインドでは、日本企業はあまり魅力的ではないと聞きます。でも、日本国内ではたくさんのインド人が働いていて不思議なんですよね。ベトナム人からすると、日本の労働市場はどう見えるのでしょうか。
河野:エンジニアが足りていない日本はニーズがあり、有力候補に入っています。政治的側面でも日本とベトナムは相性が良く、障壁はあまりありません。安全な日本で最先端技術を学べるなら、と日本で働きたがるエンジニアは多いですよ。
大坂:人気があるんですね。
河野:最近、韓国のエンジニアチームがベトナムにやってきて現地雇用するケースが増えてきたのですが、ベトナムは韓国に好意的ではないんですよね。アメリカと戦争した際に韓国はアメリカ側についていましたから。日本はこうしたセンシティブな問題がなく、ブランド力があるんです。
エンジニアが増えれば技術が普及する
大坂:ブロックチェーンによってベトナムにどんな変化が生まれると思いますか。
河野:キャッシュレス化と、書類管理の効率化です。暗号資産の取引を禁止していて、自国の通貨もまだ信用性が低い国なので、資産に土地や金を買う人が多いんですが、いずれは暗号資産もひとつの選択肢になるのではないでしょうか。そこからキャッシュレス化が進み、お金の流れが把握しやすくなると思います。あと、書類は政府に提出しても紛失するなど管理がずさんで、ブロックチェーンを導入すれば強固なセキュリティでデータ管理でき、紛失リスクもなくなるでしょう。
大坂:政府はブロックチェーンを評価しているんですか?
河野:新しいテクノロジーの導入意志はあるのですが、雇用人数が減少したり法整備の必要が生まれたりといったリスクがあり、やや慎重です。今は興味があってもどう使ったらいいかわからない状態で、運用するまでの道筋が描けたら動き出すのではないでしょうか。
大坂:参考にしている国はありますか?電子決済だと、台湾は日本を、日本は中国を参考にしています。ベトナムはどうでしょうか。
河野:マーケティングは韓国、テクノロジーは中国、セキュリティは日本を参考にしていると思います。日系のオフショア開発企業が多く、特に安全性と正確性を受け継いでいますね。
大坂:なるほど、各国のいいとこ取りですね。最後に、これから挑戦したいことを教えてください。
河野:大学と協力してブロックチェーンのエンジニアを育成します。世界的にエンジニアが枯渇しているので、足りない国にも送り出したいですね。ブロックチェーンエンジニアは特に少なく、希少価値によって給与が高くなりコストに合わなくなっている。ブロックチェーンエンジニアが増えれば需要と供給がマッチし、企業が採用しやすくなり、ブロックチェーン技術が普及します。まずはしっかり教育して活躍できる人材をどんどん創出していきます。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼