中小企業やスタートアップにとって頼りになるのが、資金投資やノウハウのサポートなどを行うアクセラレーターだ。韓国で主にブロックチェーンに注目し、アクセラレータープログラムの運営を行っているのがBlock Crafters社である。
ゲーム会社の代表やコンサルティング会社での勤務経験などを経て、同社を共同で設立したCEO・Suyong Park(パク スヨン)氏とAIre VOICE編集長大坂氏、IFA社の阿部氏が対談。今最注目の仮想通貨や、日本と韓国、ベトナムの仮想通貨事情などについて伺った。
ブロックチェーンへ投資し、トークンで回収する
阿部:まず、Block Craftersの事業内容について教えてください。
Suyong Park:2018年からシンガポールなどに拠点を置き、ブロックチェーンを中心に企業向けのコンサルティングやスタートアップ向けのアクセラレータープログラム事業を運営しています。アクセラレータープログラムを行っているのは20社ほどで、投資だけで考えると30社。合計50社ぐらいですね。初期投資が約7割を占めています。会社の立ち上げから1年経って、色々な実績が見えてきたという感じでしょうか。
阿部:ブロックチェーン周りの企業に投資する時、どうやって利益を回収するのでしょうか?
Suyong Park:一般的な投資の場合、証券を買い取ってそれで回収を目指すという形になるので、早くて3年、遅くて7年くらいかかります。ですが弊社では発行されたトークンを購入してそれを資金に充てるという感じですね。そうすれば、早くて3ヶ月、長くても1年くらいで回収を見込めます。
大坂:トークンの購入によって回収しているということですね。
Suyong Park:はい。ですからトークンの設計周りや発行量までしっかりチェックします。
最も注目しているのはフェイスブックの仮想通貨「リブラ」
阿部:どのような企業に投資しておられますか?
Suyong Park:ファイナンスやリース系の企業に、基本的に投資するようにしています。
阿部:パクさんから見て、イチオシのプロジェクトはありますか?
Suyong Park:やはり、リブラ(フェイスブックが2020年にサービスを始める仮想通貨)ですね。リブラの潜在的なユーザーとして十数億人規模が見込まれているという意味でもそうですし、ファイナンス周りでもよくその話が出ているので注目しています。弊社のパートナー企業も、いくつかリブラの陣営に加わっていますし。一番トレンディなのは何かと言われると、リブラでしょう。
大坂:業界として注目しているところはありますか?
Suyong Park:物流のデータ周りですね。今、弊社で担当させていただいている企業がカカオペイの物流に関わっておりまして、その周辺のデータが溜まってきていますので、気にかけています。また、これから一番イノベーションが起きそうなのはゲーム業界だと考えていますね。
大坂:やはりペイ周りは強いですね。逆に、「こういうプロジェクトはダメだ」と判断されるポイントはありますか?
Suyong Park:ブロックチェーンは目を向け始めたばかりの業界なので、今は「これは向いてない」と判断することはしていません。ソーシャルゲームやファイナンス、保険…全てひととおり見るようにしていますね。ソーシャルゲームに関して言えば、ブロックチェーンで最初短期的に成果が出るのはゲームの分野だということもありますし。実はスマホのブームも、ゲームから始まっているんですよ。
大坂:マーケティングについてもアドバイスをされるのでしょうか?
Suyong Park:マーケティングについては、大きく分けて2つ考えなければいけません。ひとつは「トークンそのものの価値を上げる」こと。もうひとつは「トークンを欲しいと思ってもらえるようにする」こと。この2つのマーケティングを進めるために、私たちは韓国の毎日経済新聞と連携し、一般の人にも分かりやすく仮想通貨について伝えられるよう記事を作成しています。他にも、世界知識フォーラムでブロックチェーンのコーナーを担当していますね。
ベトナムと韓国、そして日本の仮想通貨事情の違い
阿部:日本のプロジェクトについて相談を受けたことはありますか?
Suyong Park:日本はまだないですね。現在、一番ご相談いただいているのは中国、ベトナム、韓国の企業です。ブロックチェーンファンドはアメリカも多いのですが、私たちはそちらとはさほどコンタクトを取っていません。
阿部:なるほど。個人的には、ベトナムでの投資はいいなという印象です。
Suyong Park:ベトナムでは銀行口座を持っている層が3割くらい、仮想通貨を購入している層が2割ほどなんですよね。若者は口座を持っていないかわりに、トークンを買う。ファイナンス的にもってこいなんです。日本のような成熟した国では、大学生になると基本的に自分の口座を開設してしまうので、そうなるとあまりニーズがないんですよね。
大坂:今の日本の仮想通貨市場について、どうお考えですか?
Suyong Park:日本と言えば、やはりビットコインの流通量の半分を占めている国だというイメージです。韓国も仮想通貨保有量で言えば世界でトップ3、4位くらいなのですが、それ以上ですね。ビットコインを使ってSNSのコミュニティでトークンをもらう、というようなことが出来るという意識はあるのではないでしょうか。実際、日本では仮想通貨に関する制度が本当に早い段階で作られました。ただ、結局「言うだけ」になってしまっていますが…。
大坂:仮想通貨の大きな流れに対応できるまでには至っていないということですね。
Suyong Park:はい。Jコイン(2020年をめどにみずほ銀行や地銀などによって開発される予定の仮想通貨)がもう少し頑張ってくれたら、和製リブラになれたかもしれないのですが。
今、韓国ではブロックチェーンを使って物流やゲームなどの分野で中堅の企業がさまざまなチャレンジをし、大企業がそれをまねたり買収したりするという現象が起きています。これはいい流れですよね。
阿部:スタートアップが試行錯誤してチャレンジを成功させ、そこから大手企業に広がっていくという流れがあるんですね。
Suyong Park:それが多いのが韓国の現状です。仮想通貨そのものに投機や投資などのイメージがつきまとうので、大企業が最初から自分たちでやるという風にはなかなかならないんですよね。
阿部:最後に、ブロックチェーンについて、今後の展望を教えてください。
Suyong Park:私たちはインターネットを利用する時、インターネットがどういう仕組みで動いているかは気にしていませんよね。同じように、ブロックチェーンも一般の生活に馴染んでいくでしょう。最先端の産業やテクノロジーに興味があるのであれば、ブロックチェーンは欠かせないものになるはずです。
AIre VOICEではブロックチェーンの最新ニュースはもちろん、さまざまなバックグラウンドを持った方へのインタビュー・コラムを掲載しています。ぜひご覧ください。
ライター/小泉ちはる 編集/YOSCA 撮影/倉持涼