2010年に世界で初めてビットコインの取引所が誕生して以降、ブロックチェーン技術は急速な発展をとげ、仮想通貨に限らずさまざまなサービスが誕生してきた。しかし、技術の発展に社会が、特に行政が追いついていないのが課題だ。
韓国のChain Partners社はブロックチェーン関連会社を複数所有する「持株会社」だ。同社では、最新技術を使いこなせない投資家に、電話で仮想通貨取引を可能にするサービスを提供。時代の変化に柔軟な対応ができる組織運営を実現している。
今回、同社のFounder & CEOであるCharles Pyo(ピョウ チョルミン)氏とIFA社の阿部氏が対談。Chain Partners社の事業内容や今後の事業構想、Pyo氏の組織運営論について伺った。
ブロックチェーン業界最大級の社員数と投資額
阿部:これまでのキャリアについて教えてください。
Charles Pyo:私が初めて起業したのは中学3年生のときです。最初に起業したサービスはドメイン代行サービスで、次にインターネットコミュニティ関連サービスを3社ほど立ち上げました。ブロックチェーン業界に参入し、Chain Partnersを設立したのは今からおよそ2年前です。
阿部:2年前に設立されたとのことですが、どのような事業をされているのですか?
Charles Pyo:主に、ブロックチェーン関連会社を複数所有する持株会社(特定の会社の株式を保有する会社)ですね。メディアや技術開発など、事業有益の見込める会社を所有しています。
阿部:それら所有している会社はすべて、ご自身で設立して運用しているのですか?
Charles Pyo:ブロックチェーン業界に参入した当初は、そこまでブロックチェーンのサービスメンター(指導者や助言者)がいなかったので、ほとんど自分たちで立ち上げました。現在は12社所有しており、ブロックチェーン業界では最大の社員数、投資額を受けています。
阿部:ご自身で出資するよりは銀行などから投資を受けて運営しているわけですね。
Charles Pyo:ブロックチェーン関連の会社ではありますが、ICO(仮想通貨による資金調達)はあまり活用していません。主に、株式のような一般的な投資によって資金を集めています。
阿部:韓国の行政や会社、社会全体でブロックチェーン事業に積極的だということですか?
Charles Pyo:制度的にはまだ十分に整っていないのが現状です。韓国のブロックチェーン業界では、日本の動きがロールモデルになると考えられています。例えば、日本の金融相がさまざまなライセンスを発行しようと、制度化しようとしている動きです。
阿部:韓国全体のブロックチェーン業界として、何か共同で活動する流れはありますか?
Charles Pyo:Facebookの発行するリブラ(Libra)が、韓国日報や金融院(韓国の金融庁)に取り上げられたことで、仮想通貨の一般の知名度は上がったと思います。ただ、韓国のブロックチェーン業界としては、全体で共存しよう、一緒に展開しようという動きはないですね。
時代の流れに柔軟な対応をするための組織運営
阿部:さまざまな事業をやられていますよね。その中でもイチ押しを教えてください。
Charles Pyo:最近もっとも話題にあがる事業としては、Chain Partnersで所有する仮想通貨の取引所において、電話で売買ができるサービスを開始したことです。韓国では年配の投資家の間にビットコイン熱がまだ残っていて、電話での取引もさかんに行われています。
阿部:パソコンやスマホからではなく、あえて電話での取引にした理由は何なのですか?
Charles Pyo:年配の投資家になるとパソコンやスマホなど、最新技術を使いこなせない方が多くいます。そうした年配の投資家がどうやって仮想通貨の取引をするかというと、知り合いにお願いして代わりに売買をしてもらい、自分は売買履歴をネット上で確認するわけです。ただ、自分で直接取引しないので詐欺にあったり、それこそ相場よりも高い値段で取引させられたり。だからこそ、私たちは誰でも利用できる電話での取引を行っています。
阿部:今のブロックチェーン業界であれば、あえて法人化しなくてもいいと思うのですが?
Charles Pyo:現在、韓国には日本のような取引所や決済システムに関係するライセンスはありません。今後、韓国でもブロックチェーン関連のライセンスはできるでしょうが、ひとつの法人だけでそういった時代の流れに対応していくのは大変だなと。複数の法人を組織運営しておけば、いざライセンスが発生したときにも柔軟に対応できると考えています。
幅広い世代が投資に挑戦できる仕組みづくりを
阿部:今後、日本で展開していきたい事業、やりたいことがあれば聞かせてください。
Charles Pyo:日本でやりたい事業は2つあります。ひとつめは、先ほどお話しした電話での仮想通貨の取引です。日本では法律的に難しいところもあると思いますが、韓国では上手くいっているので、幅広い世代の投資家が参加できるようサービスを提供できればと考えています。
阿部:株とか他の投資ではすでに電話での取引がありますし、来年4月以降にはビットコインが株と同じに見なされるような法律もできると聞いています。日本の取引所ではまだサービスとして受け入れる体制がないだけで、日本でも電話で仮想通貨の取引はできるようになるでしょう。
Charles Pyo:ふたつめは特定の仮想通貨にコンピューターリソースを提供し、その報酬としてコインを受け取れるクラウドマイニングです。一度、日本でもクラウドマイニングサービスが登場しましたが、ダメになりましたよね。あれもただ市場が整っていなかっただけだと思うんです。
阿部:日本ではまだクラウドマイニングに馴染みがないわけですよね。その点はどう考えますか?
Charles Pyo:韓国や日本の銀行も低金利が続いています。もちろん、クラウドマイニングの中にはリスキーなものもありますが、一般向けでも年間1%程度の利率です。法人向けにもなると年間20%近くになるサービスもあります。最近では海外の競合も勢力を広げていますので、今後、日本でもクラウドマイニングは流行るでしょう。
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ライター/堀本一徳 編集/YOSCA 撮影/倉持涼