独自の世界観を持つマンガや映像作品、奇抜なファッションなどでカルト的な人気を誇るぼく脳。インターネットが生んだ奇才が考える「表現とお金」について、アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が聞いた。
ーネットが普及することで、リアルへの揺り戻しが起きているのは感じています。リアルとWEBを組み合わせることも重要になってきていますね。
ネットばかりしている人は、ネットがリアルですからね。ネットは面白いですが、感動はしづらいと思っています。そういうのはやっぱり、ライブのようなリアルの場じゃないと生まれない。ライブは、行程から楽しかったりしますもんね。ネットの感動指数はすごく低い。
香りをDJのようにつなぐ「スメルジョッキー」というパフォーマンスも、ネットだとわからないからいいかな、という発想なんです。動画で見ても面白いけど、実際見に来るともっと面白いよと伝えたいですね。
ーこうやってお話ししているとすごくロジカルな思考をされる方のに、作品は一見突拍子もないのが不思議ですね。どうやってそうした思考が形成されていったのでしょうか。
高校時代の体験が大きいですね。バスケをやっていて、その地域では強豪と言われる高校に通っていたんです。才能主義で、うまい人たちばかり。全然試合に出られなくて、そこからひねくれて、今の自分になったのではないでしょうか。もし弱小校に通って、普通に試合に出てたらつまらない人間になっていたかもしれないです。本当にその学校に通って良かったと思うし、楽しかったですね。
ーひねくれた、というのは?
試合に出られないと、自分の役割としてボケたりするか、もしくは退部するかしかなかったんです。でも退部はできなくて、ボケる方に自分の役割を見出そうとしました。ボケてやろうと思って、いろいろな球技のボールに天使のマークをつける、という行為をしていました。
その高校では、球技がうまい人が絶対的な存在なんです。それで「球技ってなんだよ」と思って、天使マークを描きまくっていました。
ー少しお話が変わりますが、お金は稼ぎたいと思っていますか?
もちろん思っています。規模が大きなものにお金を使えるというのは、面白いことですから。「面白い表現をするためにお金が必要」という感覚です。
ーお金を貯めるつもりはない?
全く考えてないです。お金は作品を作るために使いたい。かといってお金がいらないわけじゃなくて、やっぱり一定の収入があることで生まれる心の安定も必要だと思っています。その安定がないと、作品も良くない方向にいってしまうかもしれませんから。
ーお金を稼ぐための活動をしたいという思いは?
あります。むしろ、僕の熱狂的なファンや仕事仲間の中で、すごい好待遇で働きたいという夢を持っているぐらいです。これまで定期的にお金が入ってくる仕事をしたことがないんですよ。でもそうやって好待遇の環境に身を置けたら、きっと今より面白いアイデアが思いつくかな、と考えているんです。僕にとってお金は、そういう安定をもたらす確かな存在です。
ーブロックチェーンに対するイメージは持っていますか?
仮想通貨、ですよね?
ーはい。今後は、独自のトークンの取引ができるようになって、それで生活できる、という可能性があります。投げ銭もできるようになるので、面白いと思われたものがそのままお金につながる。
すごい人がもっとすごくなるのか、という意味では結局フォロワーの問題になるのではないでしょうか。例えばフォロワー50万人の人の投稿に20万いいね!がついたとして、それって「バズった」と言えるんですかね。フォロワー5人の人が20万いいね!だったら誰が見てもバズったと思うんですけど。どっちも「バズった人」として、同じように扱うじゃないですか。その価値基準はどうなんだろうかと思います。
ーバズに対する価値基準が本質的かはわからないですけど、フォロワーが重要なのは間違いないですね。最近LINEが「LINE Score」という新しい信用スコアを出したんです。LINE Payの使用状況など独自の審査基準でスコアが出て、お金が借りたりできる。そうやって、新たな基準が出て、どんなことでも評価されるようになってくると、極端な話、みんな真面目になってくるんじゃないかと個人的には思っています。
フォロワー1人=人間1人という感覚がなくなりそうですね。どんどん、価値基準が更新されていきそう。
ー価値基準が変わったとしても、ブロックチェーンは改ざんできないので、特定の個人に紐付けられてデータが蓄積されていきます。そうなってくると、ぼく脳さんみたいに0から1を作れる人にトークンや信用が集まって、どんどん強くなっていくはずです。
そういう世の中になったら、僕は助かりますね。これまでのように、カウンターで作品を作って、それに対する「いいね」でお金が稼げるとうれしい。日本はアートがお金になりにくい背景があります。僕としては、そういう弊害があればあるほど、カウンターしやすいんですけどね(笑)。
ーブロックチェーンのカウンターになる作品も、いずれは作ってください。
ブロックチェーンをネタに面白いことができて、みんながそれで笑えるような世の中がきたら、本当に「いいね」だけで暮らせるかもしれません。そういう世の中に早くなってほしいですね。