社会に対する「カウンター大喜利」をやっているんです

2019.10.21 [月]

社会に対する「カウンター大喜利」をやっているんです

独自の世界観を持つマンガや映像作品、奇抜なファッションなどでカルト的な人気を誇るぼく脳。インターネットが生んだ奇才が考える「表現とお金」について、アート系プロジェクトチーム〈ArtHub.jp〉代表の野呂 翔悟氏が聞いた。

ーまず、ぼく脳さんの活動について教えてください。

もともとはお笑い芸人として事務所に所属していたのですが、8年ぐらい前にひょんなことからクビになっちゃったんです。マンガはその頃からTwitterに投稿していて、その後、Tシャツを作ったり、動画を配信したりといった活動をし始めました。ネット上だけでなく、ライブや展示などリアルの場でもパフォーマンスをしたり、いろいろと活動しています。

ーインターネット上で注目され始めたのは、マンガがきっかけでした。

僕のマンガはすべて題名が内容の説明になっていて、その通りに描くスタイルなんです。文字で理解することになるので、変な話ですが絵が邪魔なんですよ。だから、展示会でも異常に文字が多いって言われます。自分としてはこのスタイルは発明だと思っているぐらい、気に入っています。

社会に対する「カウンター大喜利」をやっているんです

ー多岐に渡る作品を作られていますが、私個人としては「餃子RAP」(URL:https://twitter.com/_bokunou/status/960000034916847618がお気に入りです。この作品はどういう経緯で作ったのですか?

きっかけは、なんとなく友達と「俺、餃子作ろうかな」とふざけて話していただけです。それをどうやったら面白く表現できるかを考えて、「マンガじゃないし、服でもないし…音楽かな」と思いついて、あの動画のアイデアが生まれました。

ーどうして音楽、しかもラップをネタにすれば面白くなると思ったのでしょう。

僕自身は不良でもないし、かといってすごいオタクでもないんです。言ってしまえば、ちょっと裕福で面白味がない家庭で育った。だから、不良でラップしてる人たちに憧れを抱きつつも、それを自らやることもできない。そうした自分と混じり合わないカルチャーへの、いじり、風刺、カウンターという発想が根本にあると思います。

服やラップなど、そのカルチャーが持つイメージが強いものはカウンターしやすいんです。ラッパーだったら悪くて女をはべらかしている、みたいなイメージが強いのでカウンターしやすいんです。そういう発想は好きですね。

ー「これは面白い」という判断はどのように?

昔はただただ無意味なことが大好きで、無意味なことしか面白くないと思っていました。でも、最近は全く逆で意味のあるもの、「なるほど」と思えるものでないと面白くないと感じています。

昔はネタに対して「意味がわからなくていいですね」と言われると、いい気になっていました。でも今考えると、すごくダサいですよね。段々と、そういう言われ方に腹が立ってくるようになっていた。表現は、意味がわかった方が面白いんですよ。

ーかつてはなぜ無意味なことをアウトプットしていたのでしょう?

お笑いをやっているとき、文章をどれだけ短くおかしくできるか、というネタをやっていたんです。一応僕なりには、しっかり考えて言葉を並べていました。でも、意味はなかったし、だからこそ面白いと思っていたんです。そのときは、本当に頭がおかしいやつだと思われていましたよ。街で声をかけられて、「ありがとうございます」って言ったら「“ありがとう”って言えるんですね」と言われて(笑)。ショックでしたね。

ー「わからなくても良い」から「伝わらないと面白くない」という変化は、アーティスト的な考え方にも通じます。自分の中で、アートかお笑いか、どちらのイメージが強いですか?

どちらが強いか、とは考えたことないです。アートのイメージは「カウンター」「風刺」という発想に内包されているのではないでしょうか。アートも、面白い表現は笑っちゃうぐらい面白いじゃないですか。ジャンルにこだわりはなくて、そのネタが面白くなるやり方で表現できればなんでもいいと思っています。

例えばマンガだったら文法的な違和感、言葉の面白さで既成概念に対するカウンターを表現しています。絵はあくまで説明するための図です。

社会に対する「カウンター大喜利」をやっているんです

ー既成概念に対する大喜利、なのでしょうか。

そうですね、「ある概念には存在しないこと」を大喜利しているのと同じですね。世の中で当たり前とされている概念に対して「カウンター大喜利」をやっているんです。

ーSNSはどういう使い方をしていますか?

ライブハウスでライブをしても見てくれる人は限られますが、TwitterにはRTがあって無限に広がるので、面白いことを発信するにはすごくいいですね。でも、今の時代、使いこなすための免許まではいかないにしても、素質は必要かなと感じています。自分でも、いつ失敗を犯すかわからないですからね。

ーSNSでの作品はどのように受け取ってほしい?

ただただ、楽しんでほしいです。趣味みたいな感覚も自分の中にはあります。面白いことを思いついたときってすごく気持ちいいんですよね。面白いことを考えて、本当に作って、みんなに見てもらう。表現はその時々で最適な手段を取捨選択する。

社会に対する「カウンター大喜利」をやっているんです

ーまさに、インターネット時代だからこそ、ぼく脳さんの才能が世に出たと思っています。

でも、実は僕自身はデジタルとかコンピューターとか、テクノロジーに疎いんです。逆に昔からある変わらない素材などは、今後もいいものとして残っていくと思っています。その発想で「畳の服」を作ったこともあるんです。VR作品も作れると楽しいだろうなとは思いますけど、やっぱりずっと残っていくものに興味がありますね。

あとは、ネット上だけで完結するのではなくて、リアルと組み合わせるやり方も好きです。以前、何もない空間で、顔にたくさんホクロを書いた自分がずっと座っているだけの「ピカソ展」という展示をしました。来た人は、ホクロか何かすらもわからないまま、ただ見ているだけ。それで、展示が終わった後にSNSで「ピカソの長い本名に入っている『・(点)』の数だけホクロを書いていた」とネタばらしをしたんです。こういう、ネットとリアルを融合させる発想は好きですね。

(後編へ続く)

この記事をシェア