2019.10.16 [水]

日本で機能不全に陥る「サンドボックス制度」。制度を生かすイギリス文化との違い

新技術や新サービスの実装には課題も多い。法規制などの問題で既存の社会に適応できないことがあるからだ。こうした問題を解決するために現行の法規制を一時的に停止する「サンドボックス制度」が存在するが、日本ではいまだ制限が多く機能していない。サンドボックス制度をうまく活用しているのが、制度発祥の地・イギリスだ。日本含め他国がこぞって真似しようと試みているが、イギリスのように成功する国は少ない。何が違うのか。
ブロックチェーンを活用した不動産ポータルを提供するイギリス企業「Open Brix」は、不動産業者や家主の行動を完全に透明化し、不動産取引を公正かつ安全なものにした。今回、同社の最高財務責任者John Reilly氏、最高商業責任者Adam Pigott氏、COOのShahad Choudhury氏にIFA社の桂城漢大氏がインタビューを行った。後編では、サンドボックス制度の真価を発揮する方法や、ブロックチェーン業界で働く意味について伺った。

サンドボックス制度の真価は「境界線の拡大」

桂城:イギリスがEU(欧州連合)を離脱すると、どのようなことが起きると思いますか?

John:イギリス内でも残留派と離脱派がいて、地理的な偏りがあります。ロンドンは残留派が多いのですが、郊外を含めると離脱派が多く、残留が48%で離脱が52%と、離脱が4%上回る結果になりました。ただ、議会では75%が残留を支持しているので、実行に移すのが難しい状況です。

桂城:昨年マルタに行ったら、イギリスのゲーム会社がたくさんありました。彼らは離脱によって起こるだろうリスクを回避するためにマルタに移動したようです。

John:実際、たくさんのイギリスの会社が拠点を移しています。EU離脱によって何が起きるかわからない状態だと、ビジネス上の判断がしにくくなりますから。代理店は家を売りたいと思っているようですね。もし買方市場が勢いを失ってきたら、賃貸市場の需要が増えます。Open Brixは購入と賃貸のどちらもカバーしていて、どちらかが下がってもどちらかが上がる仕組みなのでEU離脱の影響は受けません。

桂城:プロジェクトや会社には影響はないと。では、現在はどのようなフェーズを迎えているのでしょうか?

John:9月末〜10月にローンチする予定です。すでに40のエージェントがいて、イギリスのいくつかの大きな会社とも話を進めています。他にも知名度が高い複数の会社と話し合いが進んでいて、近いうちに実行フェーズに入る予定です。

日本で機能不全に陥る「サンドボックス制度」。制度を生かすイギリス文化との違い

桂城:新しい技術やビジネスモデルを実装できるように、実証で得られた情報やデータを用いて法規制を見直し、一時的に法規制を停止する「サンドボックス制度」を適用していますか?

Adam:いえ、スタートしたばかりの現段階だとサンドボックス制度は必要ではありません。今はサンドボックス制度よりもエコシステムを発展させることが重要です。そのあとに、付加価値を生むサンドボックス制度の適用を考えるでしょうね。

桂城:サンドボックス制度はどのように利用しますか?

Adam:特定のサービスや方法、ビジョンなどに対して、ツールやサービスなどを適用したりテストしたりして、発展させる価値があるか確認します。安全な方法で成長させることができるかを試すのです。サンドボックス制度を利用することで、市場での急成長が見込めます。

桂城:日本もイギリスのサンドボックス制度を参考にした制度を適用しようとしています。今は既存のシステムにどのように適応させるか模索中ですね。現状だと単に形式を取り込んだだけで、本質的には機能していません。

Shahad:世界中でサンドボックス制度を真似ようとする動きが生まれています。サンドボックス制度の最大の価値は、境界線を広げられることです。境界線を広げれば、規制と実装の間にある溝を埋められる。サンドボックス制度の中にいれば、本来やりたいことはなんでもできるはずですが、実際にはいまだに法規制が私たちの道を阻んでいます。

日本で機能不全に陥る「サンドボックス制度」。制度を生かすイギリス文化との違い

桂城:単に良い条件の安全地帯に放り込んでいるということですよね。サンドボックスという名の通り「国が用意したこの砂場の中なら何をやってもいいよ」と自由に動ける環境があるはずなのに、その砂場に行くにはたくさんのハードルがあり、砂場にも制限が設けられている。これではサンドボックス制度の意味がありません。仰る通り、境界線を広げることが必要だと思います。

Shahad:イギリス以外の国がサンドボックス制度を機能させるには、国の文化や法律を変える必要があります。イギリスの法律は目的を達成するために存在しますが、多くの国では法律そのものが目的化していて、本質的な価値を失っています。サンドボックス制度を発展させるには、このあたりを理解する必要がありますね。

ブロックチェーンや仮想通貨を始めるなら今

桂城:ブロックチェーンはこれからの業界ですが、詐欺などもあり、まだ危険だと思っている人も多いです。日本でブロックチェーン業界を成長させようとしている人にメッセージをいただけますか。

John:ブロックチェーンは透明性の高い市場を作る力があります。私たちもブロックチェーンを使って透明性の高い市場を作り、価格の公平性や不正がない環境を生み出したいと考えています。こうした力を持つテクノロジーを探しているなら、ぜひブロックチェーンを積極的に取り入れてほしいです。

Adam:ビジネスは「できるから始める」ものではなく「やるべきだから始める」ものです。テクノロジーの発展に留まらず、価値あるサービスを届けるべき人々に提供し、社会の課題解決を目指してください。新技術を扱えるニュージェネレーションとして、社会の環境を変えて新市場を作り、付加価値を持つサービスを提供しましょう。

Shahad:会社の利益だけでなく、人々の利益を生み出せるのもブロックチェーン業界の特長です。この考えは日本のセキュリティサービスを担当している仲間から聞いたのですが、思いやりを重視する伝統的な日本文化に根差した考え方だと思います。これからブロックチェーンや仮想通貨は必ず伸びていきますから、始めるなら今ですよ。

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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