2013年、まさに“彗星”のごとく音楽シーンに登場し、時代を象徴するミュージシャンの1人となったtofubeats氏。精力的に作品発表を続ける一方で、他のアーティストへの楽曲提供や企業とのタイアップ、コラムの執筆など、多岐に渡る活動を行う。2015年には“tofubeatsのマネジメントを行なう企業”であるHIHATT合同会社を創業し、経営者としての顔も覗かせる。
アーティストであるtofubeats氏は、なぜ会社経営を行うのか。そして、インターネットでの音楽活動をきっかけにデビューしたtofubeats氏は、テクノロジーが音楽業界にもたらす変化を、どのように捉えているのか。インタビューを通し、彼の思考に迫った。
会社を立ち上げてから、音楽をつくりやすくなった?
――アーティストとして音楽活動を行いながら、HIHATT合同会社の経営者としての顔も持つtofubeatsさん。なぜ、会社を立ち上げられたのでしょうか。
tofubeats:ワーナーミュージックと契約するために、“流れ”で立ち上げました。三者合意という原則があって、アーティストがメジャーデビューするためには、基本的に芸能事務所を介してレコード会社と契約しなければいけないんです。
僕も元々は事務所に所属していたのですが、三者合意のことを知らないままに辞めてしまったんですよ。そこで、「自分で法人をつくるしかないな」と思い、自分自身をマネジメントする会社を立ち上げました。
――なるほど、そういうことだったんですね。ご自身のマネジメント以外には、会社としてどういったことを行なわれているのでしょうか?
tofubeats:自分の楽曲の原盤権を一部管理しています。僕はつくった楽曲の権利を持っておらず、HIHATTに移譲しているんですよ。原盤権の交渉なども、アーティストが個人で行なうことはできず、法人を通さなければなりません。そういった意味で、会社の機能は、僕がアーティストとしての活動を続けるうえで不可欠ですね。
――会社を経営していることで、音楽制作にどのような影響が生まれるのでしょうか?
tofubeats:やりたいことをスピーディーに実行できるようになりました。なにかやりたいと思ったとき、事務所に所属していると、意思決定に関わる人が多くなります。その結果、本当にやりたいことができなかったり、スピードが落ちてしまったりする。自社が権利を持っていれば、そういった問題が解消されます。
それに、どれだけ頑張って作品をつくっても、その権利が自分以外の人のものになってしまうと思うと、どうしてもやり切れないじゃないですか。「直接作品に関わっている感覚」が、ものづくりにおいてはとても大切だと思っています。事務所を立ち上げたことで、より集中して作品づくりにコミットできるようになりましたし、作風も変化しましたね。
――アーティスト活動に加えて会社経営まで行うとなると、音楽活動に集中できなくなってしまうのでは?と思っていたのですが、むしろ集中しやすくなったんですね! 法人という枠組みを使って、今後チャレンジしたいことはありますか?
tofubeats:「現物商売」ですね。海外の工場に発注してレコードや音楽機材をつくったり、仕入れて売ったりしたい。
――意外ですね! なぜ、「現物商売」なのでしょうか。
tofubeats:高校生のときつくった曲をCD-Rに焼いて、CDショップに持って行き、委託販売してもらっていた体験が忘れられないんです。店員に曲を聴いてもらって「良い曲だね!10枚買うよ」と言ってもらえたり、売れ残ってしまったら回収に行ったりと、自分の手で商売している実感がとても気持ちよかったんです。今はデジタルなので、直接的なやりとりは減ってしまいましたが、「商売をしている」実感を得たいんだと思います。
ブロックチェーンが音楽業界にもたらす可能性
――ここからは、テクノロジーが音楽業界にもたらした変化について聞いていきたいです。 tofubeatsさんは、何か注目しているサービスなどはありますか?
tofubeats:最近、「bmat」という音楽著作権を管理するサービスの存在を知り、衝撃を受けました。どのラジオ局でどの曲がどれだけ使われたのかを、「フィンガープリント」という技術を用いて全自動で検出し、該当部分を聴くことができるサービスです。日本でいうJASRACのような団体やレーベル自体が、音楽著作権を管理するために利用しているようです。このサービスは、音楽にまつわる権利問題を大きく進展させる可能性があると思っています。
――世界では著作権管理の分野でも、すでに先進的なテクノロジーが利用されているんですね。
tofubeats:テクノロジーによって、かなりクリアになってきています。日本ではJASRACが楽曲が利用された回数を出してくれていますが、包括契約による収益の配分などで不透明な部分もあり、昨今のネガティブな意見が生まれているのだと思っています。もちろん僕たちアーティストはそういった団体に守っていただいている立場です。一方で、テクノロジーがそういった不透明さを解決するきっかけになるのではないかと期待しています。
――tofubeatsさんが、ブロックチェーンに対して抱かれている期待はありますか?
tofubeats:それでいうと、ちょうどいい話がありますよ。
僕がメジャーデビューするきっかけにもなった、『水星 feat.オノマトペ大臣』という曲があります。多くの人にカバーしてもらっているこの曲には『ブロウ ヤ マインド』という元ネタがあり、そもそも『水星』自体がカバー曲なんです。
追加した歌詞についても僕は権利を持っておらず、『水星』をカバーしている人は、著作権上は『ブロウ ヤ マインド』をカバーしていることになる。だから、誰かが『水星』をカバーしたとき、仮に僕が付け足した歌詞を歌っていたとしても、僕には1円も入ってこない仕組みになっているんです。
もちろん、それに対する不満を唱えているわけではありませんよ(笑)そもそもそのカバーを容認するか、という問題もありますが、インターネット上で誰かが楽曲をカバーし、曲や歌詞を少し変えたものが拡がっていく流れのなかで発生した対価は、ブロックチェーンを利用することで、適正に還元される可能性があるのではないかと期待しています。
――最近はレコード自体の最初に生産される量が少ないので、そのような仕組みが実現すると、アーティストによっては、得られる収入が大きく変化しそうですね。他にブロックチェーンを活用するとすれば、どのようなことができると思われますか?
tofubeats:中古レコード販売に利用できたら面白いかもしれませんね。現状、高値がついている中古レコードが取引されても、権利者には1円も還元されません。アーティストに数パーセントでも利益が入る方法を確立できれば、アーティスト本人が中古レコード屋を容認しやすくなりますし、音楽業界にとってもプラスになると思います。
――これからの音楽業界は、どのように変化していくと思われますか?やはり、テクノロジーの発達に伴ってデジタル化の一途を辿っていくのでしょうか。
tofubeats:デジタルとアナログの二極化が進行すると思っています。CDのようにある意味で中途半端なフォーマットがなくなり、すごく便利なデジタル音源か、すごく面倒くさいレコードのどちらかを選ぶ人が増えていくように思います。僕自身も、音源はデジタルかレコードしか買わなくなっています。
音楽業界における「デジタル化」の功罪とは
――実際に、アメリカでは今年、アナログレコードの売上がCDの売上を上回ると予想されていますしね。デジタル化によって音楽業界はさまざまなメリットを享受している一方、揺り戻しも起こっているのですね。
tofubeats:デジタル化によって良いことばかりが起きているわけではなく、負の側面もありますからね。例えば、音楽を聴いてもらえる「枠」は少なくなったと思います。サブスクリプションサービスなどの台頭によって、音楽作品を発表する裾野は、確かに広がりました。その一方で、アプリを起動した際にスマホの画面の目立つところに楽曲が表示されないと、まったく聴いてもらえない問題もあります。
CDショップはどんなにマイナーな曲でも売り場があるため、リスナーが手にとってくれる可能性は常にある。一方、デジタルのサービスはそうはいきません。名前を知らないと検索できなかったり、プラットフォーマーが設計するアルゴリズムに振り回されてしまったりと、実は様々な制約が付きまといます。
結果、プラットフォーマーにお金を払って「おすすめ」に出してもらったり、プレイリストに入れてもらったりと、新たな広告戦略が必要になってきているわけです。そういった現象も含め、インターネットやテクノロジーは人や社会を「硬直化」させてしまう危険性があると思っています。
――硬直化とは、どういうことでしょうか?
tofubeats:つまり、インターネットやテクノロジーは、同じような音楽ばかりを生んでしまう可能性がある、ということです。
まず聴き手側について話すと、例えばサブスクリプションサービスが、再生回数の多い曲に「星」をつけてしてくれたりして、どの曲が多く聴かれているのかが分かりやすくなっていますよね。あるいは、「この曲を聴いている人はこんな曲を聴いています」とレコメンドしてくれたりもする。すると、結局みんな同じような曲を聴くことになる。もちろん、プラットフォーマー側もセレンディピティ(偶然の発見)を生もうとしているとは思いますが。
プラットフォーマー側でいえば、「この曲は何曜日の何時くらいにどれくらい売れているか」といったデータをすべて見れるようになっています。音楽と数字の相性はすごく良いと思っていて、データをAIに学習させれば、狙って大ヒット曲をつくれてしまうかもしれない。「おもしろいな」と思う反面、「夢がないな」とも感じます。
――便利さを追求した結果、音楽の多様性が失われてしまう危険性があるということですね。そういった状況を打破するためには、何が必要なのでしょうか。
tofubeats:アーティスト自身が「自分が良いと思うもの」をつくっていく他ないでしょう。僕自身も、自分が良いと思うものだけをつくっていきたいと思っています。
聴き手側に関しては、すでに硬直化に対する反動を起こしているように思います。先ほどお話しした「レコードの売上が伸びている」というエピソードは、まさに「不便だとしても、自分が本当に良いと思えるものに触れたい」思いを持つ聴き手が増えていることの証左でしょう。
――最後に、これから音楽を仕事にしていきたいと考えている人に向けて、何かアドバイスはありますか?
tofubeats:今は好きでやっていることが突然、仕事になる時代。YouTuberの人たちに起こっていることと同じことが、音楽でも十分に起こりえると思っています。とにかく自分が良いと思えることに取り組んでみることが大切だと思います。
また、今は他の仕事をやりながらでも、音楽制作をしやすい時代です。そもそも音楽をはじめとした芸術活動は「自分が気持ち良く活動を続けられるか」が大切だと思っています。他に仕事があった方が安心なら、仕事しながら音楽をつくればいい。そうしてできた音楽を世の中に届ける方法は、いくらでもありますから。
tofubeats氏
1990年生まれ、兵庫県神戸市出身。大学在学中からインターネット上で活動を行い、2013年にスマッシュヒットした“水星 feat.オノマトペ大臣”を収録したアルバム『lost decade』を自主制作で発売。同年『Don’t Stop The Music』でメジャーデビュー。2018年10月には4thアルバム『RUN』をリリース。多くのアーティストのサウンドプロデュースのほか、BGM制作、CM音楽等のクライアントワークや数誌でのコラム連載等、活動は多岐にわたる。9月25日に『うんこミュージアム TOKYO』の公式テーマソング「生きる・愛する・うんこする tofubeats with うんコーラス隊」および、コートジボワール在住のラッパーとコラボレーションした「Keep on Lovin&You (REMIX) [feat. DEFTY]」を同時配信リリースする。
取材・文/鷲尾諒太郎(モメンタム・ホース) 編集・撮影/岡島たくみ(同)