2019.10.29 [火]

キャッシュレスの「次」に来るのは、 なめらかに「思いやり」が伝播する信用経済

「決済戦争」と呼ばれるほど、多くのキャッシュレス決済サービスが隆盛している昨今。スマートフォン上で簡単に決済、送金ができるようになり、なめらかな「価値」の移動が実現し始めている。

では、キャッシュレスの“先”には何が待っているのだろうか――。

mint株式会社の代表取締役社長を務める田村健太郎氏は、自身が手がける独自のポイントをつくって配れるアプリ「mint」にそのヒントがあると語る。オンラインサロンブームの火付け役となったプラットフォーム「Synapse」を手がけた連続起業家である田村氏は、信用経済の未来をどのように見据えているのか。インタビューを通じ、その思考に迫った。

mint」は未来の価値基準をつくり出すサービスになる

――まずは、田村さんが運営されているスマホアプリ「mint」について、簡単に概要を教えてください。

田村:「mint」は、誰もが独自のポイントを発行し、ファンや顧客に配ることができるアプリです。「独自のポイント」と聞くと仮想通貨を想起される方が多いですが、どちらかといえば近いのはスタンプカード。コミュニティの中心人物が、一定のポイントを獲得した人に対して特典をプレゼントするスタイルを取っています。

田村:mintの主なターゲットは、店舗経営者やスモールビジネスを営む事業者などの、小さなコミュニティを構築する人びと。ポイントをコミュニティに流通させ、感謝の気持ちをポイントで表明することで、一人ひとりの頑張りや思いやりが可視化され、信用につながる仕組みを構築できると思っています。

例えば、会社でmintを利用する場合、オフィスの掃除や飲み会の幹事、いい人材の紹介など、会社に対する「貢献」は数多くあります。そんな社員の利他的なコミットに対して「ポイント」を付与することで簡単に感謝を伝えることができ、チームへ貢献するインセンティブを生めるのです。

――お金ではなく、あえて「ポイント」を配ることは、コミュニティの運営にポジティブな影響を与えることができるのでしょうか。

田村:確かに、いいことをした人に対して法定通貨を配るのも手段のひとつだと思います。ただ、続けていくうちにコミュニティへの思いやりや貢献感ではなく、「お金稼ぎがしたい」というモチベーションで動く人が増えてしまう可能性がある。コミュニティに所属する人間が持つ「貢献したい」「認めてもらいたい」という純粋な気持ちにインセンティブを付与するには、狭い経済圏で通用する通貨(=ポイント)を発行することがベターだと考えたんです。

――昨今、さまざまな決済手段が登場するなかで、田村さんが「mint」の開発に踏み切ったのはなぜですか?

田村:キャッシュレスや電子化の「次」の世界を創りたいと考えたからです。キャッシュレスの浸透によって、どんどん価値の循環がなめらかになっていき、小さなコミュニティのなかで価値づけが行われる「非中央集権」的な世の中がやってくると考えています。

「これが正義だ」と決めつける単一の価値観に苦しめられることなく、自分が最も心地いい価値基準を持つコミュニティを選び、自然に取った行動が「評価」され「信用」につながっていく未来になる。そう考えたとき、「mint」はそれぞれのコミュニティの価値基準を生成するインフラになると思ったんです。

ブロックチェーンは「良い人」が得する社会をつくる

――田村さんはmintを通じて、ブロックチェーンの実験や研究をされているとお聞きしました。素朴な疑問ですが、ブロックチェーンが社会に実装されると、どのような世界になるとお考えでしょうか。

田村:ブロックチェーンが実現するのは、クリティカルな個人情報ではなく、「どれだけ良いことをしたか」をもとにした信用の可視化です。一人ひとりの行動ログがブロックチェーン上に記帳され、パブリックになっているだけで、十分に良い貢献をし続けた人の信用力を測定できるようになる。常に良い行動をすること事が経済合理性を持つ社会が実現できるのではないかと思っています。

――世間では数年前からブロックチェーンに注目が集まりながらも、なかなか社会実装に至っていない実情があるかと思います。田村さんは、ブロックチェーンの実装の障壁として、どのようなものがあると考えていますか?

田村:単純に、まだ「難しい」のだと思います。一般の方々に理解してもらうハードルはもちろん、現場にもブロックチェーンを扱うことのできる専門家は非常に少ない。僕はブロックチェーンのプログラムを自分で書くこともありますが、まだまだ使い勝手が悪く、プロダクトに落とし込むのはまだ先のフェーズだと感じています。

――近い将来、実装するつもりではあるものの、現時点では「コスパ」が悪い、と。

田村:そうですね。現段階でブロックチェーンを実装するには技術者や資本も足りていないし、法律も整備されきっていない状況。また、主な競合企業は先行研究が進んでいる海外のスタートアップであり、今すぐ導入しなければ他の企業に引けを取ってしまうほどの状況ではありません。

信用経済社会をハックするには「自分の喜びを明示する」こと

――田村さんはこれから、「mint」を通じてどのような未来を創っていきたいと考えていますか?

田村:「信用経済」を在るべき姿に変えていくのが、僕がmintを通じて取り組みたいテーマですね。ブロックチェーンの隆盛や、オンラインサロンの流行もあり、「信用経済」が社会に浸透してきたように感じています。一方で、盛り上がりのあるコミュニティの影響を受け「フォロワー数こそ信用」といった言説が多くなってきました。

確かにインフルエンサーの人たちは、ちゃんとフォロワー数に相関した結果を出していて、高い信用を獲得できている人が多い。しかし、彼らの成功の背景にあるのは、無名時代から築き上げてきた泥臭い努力と「信用」の蓄積。そのことを理解せず、フォロワー数を追いかけるのは、「信用経済」に対して間違った理解をしていると言わざるをえません。

――表面的な部分だけに目を向け、「インフルエンサーになりたい!」と意気込むような人は、間違っていると。

田村:インフルエンサーはこれまで積み上げてきた能力や実績を活用してコミュニティをつくっているだけであって、一般人の私たちが真似してできることではありません。

それに、インフルエンサーのような強い「個」がいなくとも、なにか特定の価値観を大切にしたいと思っている人たちが集まれば、それは「コミュニティ」として成立する。私は、どんな人間であっても気持ちよく関われるコミュニティがあると思っていますし、あらゆるコミュニティの「貢献」を「信用」に転化させる仕組みをつくりたいと思っているんです。

――近年ではLINEやメルペイの例のように、日本でも信用スコアが社会実装されるようになってきました。中国では詐欺などの問題も上がっている信用スコアですが田村さんはどのような意見を持っていますか?

田村:そもそも、まだ導入されてもいないのに批判することは、ナンセンスだと思っています。金融サービスの進化が遅れている日本が、アメリカや中国に追いつくためには、いちはやく実装に取り組むべきだと考えていますね。

――最後に、これからますます「信用経済」が盛り上がりを見せる日本において、インストールすべき思考や、明日からできることがあればお聞きしたいです。

田村:自分がされて嬉しいことを明示するのが良いと思います。信用経済の仕組みが整備されることで、「良いこと」をした人が報われるようになると言いつつも、人それぞれ価値観は異なるため、どんなことをすれば「良い」のか、判断するのは非常に難しい。そのなかで、「自分はこれをやられると感謝します!」とあらかじめ表明することで、思いやりや貢献がなめらかに行き交う社会になるのではないかと思っています。

田村健太郎氏

一橋大学卒業。在学中に知人に誘われ株式会社モバキッズの起業に参画する。後に退任した代表から譲り受け、同社の代表取締役に。モバイル向け受託開発、各種コンテンツ配信サービスの開発・運営等を経て、オンラインサロン「Synapse」の事業に至る。2015年には社名をシナプス株式会社に変更。2017年2月、同社を株式会社DMM.comに売却し、引き続きSynapseの運営に携わるも、6月に退職。2017年11月にMINT株式会社を設立。

取材・文/半蔵門太郎(モメンタム・ホース) 編集・撮影/岡島たくみ(同)

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