2019.10.18 [金]

暗号資産やブロックチェーンを活用した ビジネスの勝者はあと2〜3年で決まる

Bitcoinなど暗号資産取引の分野で、幅広いファンを持つDMM Bitcoin。同社代表の田口仁氏の眼光紙背を透す独自の分析は、非常にわかりやすくファンが多い。AIre VOICE編集長の大坂とIFA社でCRO(Chif Risk Officer)を務める阿部が、Libra、GAFA、トークンエコノミーなどの見通しについて語り合った。

オリジナルチェーンというチャレンジ

DMM Bitcoin 田口 仁 社長(以下、田口氏):弊社はもともと2014年から、暗号資産の分野への参入を検討していたんです。これは、弊社の印象と違うかもしれませんが、金融業に関しては、法律が整ってからでないと参入しないというポリシーがあるんです。この分野の法律が施行されたのが2017年4月(資金決済に関する法律と、犯罪による収益の移転防止に関する法律の改正)だったので、参入は2017年でした。
つまり、業界のなかでは後発で、金融業としては保守的なんです。現時点でも、決済事業を広げるとか、社会的インフラ基盤のプラットフォーマーを目指すのではなく、この領域が成長分野なので取り組んでいます。なので、他社とは少し趣きが違うと思います。

IFA CRO 阿部喜一(以下、阿部氏):当社の事業の目標は、個人の情報を自分でコントロールできるようにしたい。そして、ストックできるようにしてあげたい。これを実現するために、ブロックチェーンなど新しいテクノロジーを活用した次世代型銀行プラットフォーム「AIre(アイレ)」の開発を行なっています。会社は2014年に設立されて、このプロジェクトは2017年からスタートしています。
ただし、情報を個人にといっても、そもそも情報がバラバラになっていることや、知らないところで使われているといった現実を知っていただく必要があると思います。そこでまず「AIre VOICE」というメディアを作って、初心者の方にもブロックチェーンの可能性や海外の動向などをお知らせして、今後の日本はこんな風に変わっていくんだ、ということを発信しています。
現在の計画では、来春に個人の情報をためていけるアプリ「AIre MINE」をローンチする予定です。

田口氏:それは、個人の情報を分散型台帳で記録していくということですか?

阿部氏:そうですね。データベースを分散型台帳でやっていくことを目指しています。私はCRO(Chief Risk Officer)で、法律関連の動向を追ったり、新規サービスのアイデアが出てきた時に、どんなリスクが想定されるかを助言したりする役割です。

IFA CMO 大坂亮平(以下、大坂氏):私は「AIre VOICE」の編集長をしています。このほか国内外のユーザー獲得を担当していて、国内はもちろんシンガポール、ロンドン、モスクワ、中国などのFinTech系のカンファレンスに参加して、プレゼンテーションやプロモーション、コミュニティ開拓をしています。

田口氏:トークンの設計は随分進めているんですか?

大坂氏:Ethereum上で発行しています。ただし、これを広めようとするとオリジナルチェーンが必要かな、と思っています。

田口氏:おおぉ、それはスゴい。

大坂氏:やっぱり、我々が考えているようなビジネスを展開しようと思うと、Ethereumだと限界があるので、オリジナルチェーンが必要になってくるだろうと考えています。ただし、技術ハードルが高いことも理解しているので、海外のエンジニアのネットワークも構築したいと思っています。

田口氏:オリジナルチェーンを作られるということは、プロトコルを独自で持たれるということですよね。読者の方に少し補足をすると、いわゆるBitcoinやEthereumなどの暗号資産は、「ECR20(Ethereum Request for Comments:Token Standard #20)」というEthereum上で作られたコントラクトトークンを使うことが多いんです。その理由は、プロトコルレイヤーをオリジナルなものにするには、数学博士のようなエンジニアが必要になる。あと、普通は適用したい事業領域、産業領域によって、必要なものを揃えていくことになる。普通、プロトコルレイヤーを手掛ける際は、どの産業でも使えるように、汎用的なものを作るんですが、自分たちに則したものを作ろうというのはチャレンジングだなと思いますね。

大坂氏:海外でオリジナルチェーンを作っているスタートアップはありますが、実は、それほど多くはないんです。ですが、適した人材がいればチャンスがあると思うので、チャレンジしているところです。あとは、そのエンジニアにどんな設計をしてもらうかの部分も大事なので、そこはきちんと見極めていきたいと思っています。

阿部氏:イメージとしては、プライベートとパブリックを使い分けながらという方法もあると思います。あと、当面はブロックチェーンだけでなく、DAGなど次世代型ブロックチェーンを使うことも検討しています。

田口氏:パブリックにされているものを活用しながら、プライベートチェーンを構成するなど、アプローチの方法はありますよね。

阿部氏:そういうことを含めて、どんな方法が現実的かな、というのを検討しているところです。Ethereumが一番一般的なブロックチェーンだと思うんですけれど、当社のなかでは全世界で1億ユーザーくらいの方に使っていただきたいという目標で動いているんです。そう考えると、やはり独自の開発が必要になってくると思っています。

戦う相手は通貨チャンピオンとネットガリバー、そこに勝算はあるか?


田口氏:来年、暗号資産に関する法律の改正が予定されていて、より認知が広がると思うので、よりこの分野の成長を期待しています。一方で、分散台帳技術が社会で使われていく事例は、不確実性はありますよね。急速に進む可能性もあれば、そうでもないかもしれない。

個人的には、どういう産業と競合するかの見極めが大切だと思っています。既存の産業に対しての改善を分散型台帳技術が後押したり、支えていったりすると思う。何が言いたいかというと、ゼロからイチが生み出される新しい産業の時には競合はありませんが、暗号資産がターゲットにしている領域は、すでにビジネスモデルが確立されている分野なので、そこへのチャレンジになる。そのチャレンジが成功するのか、失敗するのか。既存の産業に組み込まれていくのか、早ければここ2~3年、長くても5年くらいの間に明確になるでしょう。

阿部氏:確かに、ここ数年でだいぶ勝負が付くでしょうね。

田口氏:少し悲観的に聞こえるかもしれませんが、私は、チャレンジの領域では、あまり勝ち目がないと思っているんです。
なぜかといえば、暗号資産のコミュニティが価値を生んで、人を食べさせているわけではないからです。経済的な価値を生んでいるのは実体経済の側にしかない。既存の産業領域は、人を食べさせていけるだけの産業を持っていますから。

あと、責任を持つ主体がないことが、分散台帳技術の活用のコンセプトにあるんですけれど、それがメインになる革命的なことが成功する確率は高くないと思う。もし、それが本当に成功するならば、もっと昔に成功してもいいはずですから。事例的なことを挙げるとすれば、暗号資産のコミュニティはハードフォークを通じて通貨が分裂する、つまりコミュニティが割れることができてしまう。適者生存の競争には多様性があるので、生き残れる可能性が高い一方で、分離を繰り返すと一枚岩になりきれず、対抗力がつかないジレンマがある。

ただし、既存の産業プレーヤーに取り込まれることを良しとするならば、存在価値を発揮できるものはある。ただ、そこがどうなるかは本当にわからないですよね。

大坂氏:確かに、わからないという感じですね。

田口氏:私の理解では、分散台帳技術やそのカルチャーは、大きく2つの領域にチャレンジをしていると捉えています。ひとつは、Bitcoinを中心とする汎用的な通貨へのチャレンジ。世界通貨的な振る舞いを志向したり、目指していると思う。これは、何に対抗していると思いますか?

大坂氏:国や米ドルですよね


田口
そういう言い方もありますね。僕は、これを通貨チャンピオンと言っています。いわゆる銀行だったり、法定通貨を中心とした銀行ムラ。それが各国にあってネットワーク化されている。これの置き換わるということは大きなチャレンジですね。

大坂氏:通貨発行権への挑戦ですからね。

田口氏:で、もうひとつは、何か。ユーザー情報を一手に握り、それを自社のビジネスや、他社のビジネスに利用することを生業にしているプレーヤーです。僕は、それをネットガリバーと呼んでいますが、彼らはIFAさんが取り組んでいる領域に競合となると思います。

阿部氏:まさにGAFAなどがそうですよね

田口氏:そうですね。彼らはいわゆる個人の情報や、個人の行動履歴的なものを集中的に保有しています。
この2つなんですけれど、勝ち目はあると思いますか? 通貨のほうの側面は、勝ち目は難しいと思う。というのも、通貨は実体経済との結びつきがベースにあるからです。これは個人的な見解ですが、米ドルがパワーを持っている理由は石油の決済に使われていることが根本にある。ほかの通貨はここに食い込むことは難しい。そして、いまの暗号資産は究極的には、法定通貨との交換が信認されているから価値があるのだと思います。これができなくなると魅力がなくなってしまう。つまり、世界通貨的な振る舞いを志向する暗号資産は、法定通貨を否定しようとしているけれど、法定通貨と交換できないと価値が生まれないというジレンマがあるのです。

「Libra」が登場してから、Bitcoinと本質的には同じなのに多くの反発が出ています。その理由は、使われるであろう人の数がBitcoinとFacebookでは圧倒的に違い、そのインパクトが違いすぎるからです。
ただし、Bitcoinなどのコミュニティに常温核融合に成功した天才的なエンジニアが登場して、これを使うためにはBitcoinでしか使えないといったことになると、状況は変わるかもしれませんね。
一方で、ネットガリバーのほうはどうか。取り込まれるというならば、別ですが、GAFAの圧倒的なキャッシュフローと対抗していかなければいけない。unbankと呼ばれる自分たちの経済圏を作った場合、決済から回収までの時間を短くできるので、キャッシュフローが圧倒的に良くなる。手数料がなくなるということと、資金フローが良くなる。これに対抗するのは、至難の業ですよね。

阿部氏おっしゃっていることはよくわかります。ただ、大手が苦手なところはありますし、人々から反感を買ってしまっている。いまは、選択肢がないから選べませんが、それを示していけば共感を得られと思う。そして、今ならば、チャレンジができる。3年後だと、わからないかもしれませんが。


田口氏:
既存の産業も独自の経済圏を、銀行を介さない形にすることでキャッシュフローが良くなるなど、色々と可能性を秘めていると思います。

阿部氏:独自に決済ができるようになると、信用創造的なことになりますからね。

田口氏:これまで通貨当局は、通貨の流通量コントロールすることで、経済に影響を与えてきましたが、これが世界通貨のような暗号資産やブロックチェーン技術によって企業が従来の銀行を迂回して活動が出来るようにしてしまうと、どうなるかわからない。

今のところエネルギーが有限なので、経済のコントロールが可能ですが、これが無限もしくはそれに匹敵するほど安価になると、既存の通貨の価値がまったく変わってしまう。

阿部氏:トークンエコノミーを描いている人達が考えている世界ですよね。

今日は自分たちが何に挑戦しようとしているかなど、再認識することが出来ました。

ありがとうございました。

田口  DMM Bitcoin代表取締役
1972年生まれ。早稲田大学政治経済学部を卒業し、三菱商事株式会社に入社。その後は、ライブドア、DeNA、EMCOMなどで様々な事業立ち上げや運用に携わり、現在は「DMM Bitcoin」の代表取締役社長。

阿部喜一 IFA株式会社 CRO
1989年4月5日生まれ
IFA株式会社 取締役CRO。民泊総合研究会 代表。埼玉県川越市出身。幼少期をアメリカ合衆国テキサス州ダラス市にて過ごし、人種の坩堝を経験。日本へ帰国後、早稲田大学高等学院へ進学。早稲田大学法学部を卒業後、金融インフラ事業に興味を持ち東京金融取引所に入社、同社でデリバティブ商品の設計・上場や取引所規則の作成等に携わる。その後民泊や暗号資産・ブロックチェーン等の新分野の仕組み化に従事する。日本初の民泊の書籍『民泊入門ガイド』http://amzn.to/2bgeTu4 と『Q&Aでわかる!初めての民泊』http://amzn.to/2b79qYg の著者。座右の銘は「Stay Hungry Stay Foolish」
趣味は剣道、ゴルフ、麻雀、海外渡航、投資、RPGゲーム

大坂亮平 IFA株式会社 CMO/AIre VOICE編集長
Live配信のスタートアップ、SPの広告代理店などでのプランナー、デジタルマーケティング職を経てIFA株式会社へジョイン。5つのプロダクト/プロジェクトで構成される「AIre」構想の最初のプロジェクト『AIre VOICE 1.0(アイレヴォイス)』を担当。デジタルマーケティングにおける経験を活かし、「AIre」全体のコミュニケーション戦略などの計画・実行責任者として活躍する。

取材・文/編集部 撮影/篠田麦也

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