日本の美徳はビジネスチャンスを潰すことがある。イギリスも日本も法規制は厳しいが、イギリスは日本よりもブロックチェーンを活用したビジネスの成長スピードが速い。イギリスも日本も用心深いが、イギリスは楽観主義、日本は悲観主義だ。事実、ビジネスの進め方にも大きな違いが生まれている。
ブロックチェーンを活用した不動産ポータルを提供するイギリス企業「Open Brix」は、不動産業者や家主の行動を完全に透明化し、不動産取引を公正かつ安全なものにした。今回、同社の最高財務責任者John Reilly氏、最高商業責任者Adam Pigott氏、COOのShahad Choudhury氏にIFA社の桂城漢大氏がインタビューを実施。前編では日本とイギリスの違いに着目しながら、新規プロジェクトを成功させる秘訣や、成長を加速させるポイントを解説する。
日本の“美徳”が新事業の成長を阻害する
John:私はOpen Brixの最高財務責任者(CFO)です。私はこの30年ニューテクノロジーの分野でキャリアを積んでいます。ハードディスクが出てきた頃から、現在の暗号通貨、ブロックチェーンに至るまでさまざまなテクノロジーに関わってきました。
Adam:私は不動産業に25年間従事し、自分のビジネスを売却してから暗号技術を扱う会社に携わり、Open Brixに可能性を感じて投資をしました。その流れで会社に加わることになり、コマーシャルオフィサーとしてOpen Brixに入社しました。現在はコマーシャルチームを率いています。
桂城:なぜこの事業を始めようと思ったのですか。
Adam:既存の大組織が長期間独占している住宅市場に問題を感じたからです。イギリスの住宅市場も2社が独占しています。
John:おまけに、独占企業は自分たちの好きな金額を請求できる。市場を独占している大きな会社は最低限の金額だけ支払えばいいのですが、小さな会社は高い金額を支払わなければなりません。
Adam:世界的にこうした傾向がありますが、不公平ですよね。独占企業が請求金額を決められるとサービスの質が低下しやすくなります。だから、私たちはブロックチェーンを使って公平な市場を作ろうと決めました。ブロックチェーンを使えば開かれた市場で選択できるため、顧客自身が低価格のサービスを選べるようになります。
桂城:私たちは同じようなことを日本でやりたいのですが、仮想通貨に関する法律がとても厳しいので困難です。イギリスの法規制は厳しいですか?
Adam:厳しいですが、新時代が到来する今、規制によって発展を諦めてはいけません。自転車で食べ物を配達するウーバーイーツのような新しいビジネスも、規制に適応しながら拡大しています。法規制が厳しいからできないと思わず、規制とともに価値を提供する方法を考えるべきでしょう。
桂城:困難な状況に適応し乗り越えようとする前向きな姿勢を尊敬します。日本ではたくさんの会社が改革を起こそうとしていますが、規制によって延期していますから。
Adam:日本の美しさでもありますが、日本の会社や組織は伝統を重んじる傾向があり、どのように成長させるか、発展させるかといった事業計画を慎重に立てますよね。確かに計画性は重要だと思うのですが、イギリスでは、もっと短期スパン、近距離で物事を見ます。
桂城:なるほど、日本よりスピーディーなんですね。
Adam:日本が将来的な構造や戦略を決定したうえで進行するのに対し、イギリスはその都度反応を見ながら決定・進行します。高速でPDCAサイクルを回しているんです、
桂城:確かに、日本とイギリスでは企業文化に違いがありますね。日本は入念な長期的なプランを立てますが、イギリスはとりあえずやって反応を見ると。ちょうど私たちも「60%の完成度でも、とりあえず出して修正したほうがマーケットスピードが速くなり理想的だ」と話し合っていました。
Adam:成長スピードを上げるには有効な方法だと思います。
グローバル人材がアドバイザーになり成長が加速
John:Open Brixには世界的にも影響のある人々がアドバイザーとして参画しています。優秀な人材が集まったのは、ブランドを信じてもらえたからです。彼らのようなアドバイザーをのぞくと、社員数は20人前後ですね。市場についてアドバイスしてくれる人たちが参画しているので、人数以上の力を発揮しています。
桂城:アドバイザーが重要な役割を果たしているのですね。
Shahad:さらに、各分野の世界的なリーダーもいます。コマーシャルオフィサーと直接やり取りをしているのが、マーケティング分野に精通したコマーシャルアドバイザーのトム・フォックスです。Top 100 futureの女性もチーフイノベーションオフィサーとして加わり、2010年のダボス会議で「2020年にもっとも影響力のあるテクノロジー」として暗号通貨を挙げました。イギリス政府で働いていたHSBCの元役員もいて、アブダビの世界的なフィンテック企業で局長として働いています。
桂城:イギリスのグループながら、世界にたくさんの代表者がいると。社員は不動産業界で働いていた人たちが多いですか?
Adam:ええ。最近はブロックチェーン技術の進化がめざましく、多くのチームメンバーがブロックチェーンに精通していなくても問題ありませんでした。不動産業界での経験も活かせると思います。さらに5人のメンバーが加わる予定です。
John:日本もブロックチェーン業界で世界的な影響力を持つ人々と協力すれば、彼らから助言をもらえますよね。地理的に孤立していることにとらわれず、もっと多くの人にサービスや価値を提供することを考えるといいかもしれません。
桂城:日本は島国ですから、ご指摘いただいたような孤立状況に陥りやすいですね。特に、グローバルマーケターがいるとプロジェクトの成功率は大きく跳ね上がると思います。日本企業はグローバルマーケターが参加しているプロジェクトが少ないので、見習いたいです。
“用心深い楽観主義者”は業界の中心に立つ
桂城:これまで日本の会社とブロックチェーンについて話したことはありますか?
Adam:いいえ、ありません。イギリスで急成長した技術によって、日本企業の成長を支援できる方法があればぜひ知りたいです。そして我々と話したり、学んだりしたいという日本企業と話してみたいですね。
Shahad:ただ、サービスセキュリティ部長は在日スペイン商工会議所(Japanese Spanish chambers of commerce?)に携わっていて、Open Brixのセキュリティサービスの拠点は東京にあります。ユーザーインターフェイスに関わるメンバーの一人は香港、もう一人は韓国にいます。日本、韓国、シンガポール、香港はアジアの中でも市場のトップを走っており、重要な地域です。イギリスではこれらの地域の情報を得られないので、直接コネクションを持つようにしています。
桂城:それは良いですね。東アジアの中で最初に仮想通貨の成長が見込まれたのは日本でした。しかし580億円もの仮想通貨が流出する事件が起こり、人々は仮想通貨を売却したり交換したりして政府が閉鎖させ、取引所全体の取り締まりが強化されました。それ以降は韓国で仮想通貨が成長しています。
Shahad:Open Brixも韓国の仮想通貨法の草案作成に参加し、法案の執筆を手伝いました。
John:発展のためにも、仮想通貨市場で事件や犯罪などを起こさないようにするべきです。日本で仮想通貨の前進を阻むものをそのままにしてはいけない。歴史を振り返っても、お金を盗む人がいるからといって銀行を閉鎖させたことはありませんよね。それは銀行が安全な場所だったからです。市場操作などが起きても閉鎖しないことが、今後の成長のカギでしょう。
桂城:イギリスはブロックチェーンや暗号通貨に関してとても寛容なので、これからブロックチェーン業界の中心になるだろうという見解もあります。どう思われますか?
Shahad:そうなりたいですね。もともとイギリス政府で働いていて、イギリスは“用心深い楽観主義”だと感じました。これは今後の成長につながる良い姿勢だと思います。
(後編へ続く)
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼