2019.10.23 [水]

人材育成こそ社会変革の第一歩 今、日本にブロックチェーンを学ぶ場が必要な理由

時代の最先端を行く技術を体系的に学ぶ機会は貴重なものである。ビジネスへの無限な広がりを期待できるブロックチェーンもその一つだ。

「ブロックチェーンって何?」という初学者から開発の最前線で働く技術者まで、ブロックチェーンに関わるビジネスパーソンに学びの場を提供しているのが「FLOCブロックチェーン大学校」だ。校長のジョナサン・アンダーウッド氏(以下、ジョナサン氏)は、暗号資産取引所を運営するビットバンク株式会社のCBO(Chief Bitcoin Officer)でもある。

そんなジョナサン氏に、「FLOCブロックチェーン大学校」を開講した狙いを聞いた。

ビジネス企画者の教育も必要なのが今のブロックチェーン業界

「ブロックチェーンを社会に実装していくに当たって、課題はたくさんあります。第一に技術者が足りていません。そしてビジネスを企画する人も足りていません。法的規制もまだ整っているとはいえない状況です」(ジョナサン氏)

テクノロジーに精通した人材の不足、技術者の不足が叫ばれている日本の人材採用環境もさることながら、ブロックチェーン業界でも技術者はもちろん、ビジネスの企画者も不足している状況にあるという。体系的にしっかりとした知識を身に着けた人材も少ないし、そもそもどうやって学べばいいのか? また、どこで学べばいいのかもわからないというのが現状であろう。

そんなブロックチェーンを取り巻く環境下で、「FLOCブロックチェーン大学校」を立ち上げた狙いは、自分たちと一緒に業界を盛り上げていける即戦力人材を増やすためだ。そのため、「FLOCブロックチェーン大学校」には技術者を養成するエンジニアコースに加え、入門コースであるベーシックコースと、ケーススタディや最新動向を学ぶビジネスコースがある。


各コースのカリキュラム設計、教科書の制作を統括しているカリキュラム部マネージャーの松田壮一郎氏(写真右)と、自らもエンジニアであり、講師も務める赤澤直樹氏(写真左)。各コースでオリジナルの教科書が準備されているが、進化の早い分野だけにアップデートが追いつかないこともある。そのため、実際の授業では教科書にとどまらず、最新のブロックチェーン事情を解説。技術者を必要としている企業との人材マッチングも行なっている。

一般的な技術者養成学校ではビジネスコースはなかなか見かけない。これは新たなビジネスを企画・立案し、収益を生み出していかなければいけない人、例えば、事業会社のサービス企画部門の人を対象としたコースである。

技術者を養成する理由はビジネスのインフラとして実装する人がいないと、そもそも社会で利用できないので自明である。一方、ビジネス企画者を養成するにはどんな狙いがあるのか。

「法規制が十分に整っていない中でビジネスを作っていくには、企画する人の知識が重要です。企画する人が知識レベルを超える質問をされた場合に、議論が止まってしまいますから。」(ジョナサン氏)

ジョナサン氏が言う「議論が止まってしまう」とはどういうことか。例えば、ビジネスの要件定義を技術者に伝える際に「ブロックチェーンの署名は『マルチシグ』ですか?」と技術者から聞かれたとしよう。「マルチシグ」という言葉自体は検索すれば出てくるが、ブロックチェーン上で使う場合にその意味を正しく理解できているとは限らない。ましてその意味がわからない場合に、周りに聞こうにもそもそもわかる人がいないのが現状である。また、ブロックチェーンをビジネスで使う際にも法的規制が不明瞭な部分がありなかなか踏み込みづらいこともある。ビジネスを進めていくためには正しい知識が不可欠なのだ。

一方で「ビッグデータ」の場合だと、どうだろうか? 日本のシステムインテグレーターやコンサルが収益源にしようと多数の技術者やコンサルタントを抱えているので、ビジネスの企画者の知識量が少なくても、周りの支援により何とかなってしまうのである。

ブロックチェーンの場合は、ビジネスを企画する人が的外れにならないような知識を身に着け、周りの支援を受けることなく技術者と同じ目線で会話できなければならないため、ビジネス企画者の教育も必要なのである。

リモートワークをあまり好まない日本のビジネス環境だからこそ、教育が必要

ブロックチェーンの人材という視点で世界に目を向けるとどうなのか? そもそもグローバルではブロックチェーン人材は足りているのだろうか?

「海外でもブロックチェーンの人材は不足気味ですが、海外ではリモートワークに寛容なので、国を超えての人材流通があります。そのため日本の現場よりは余裕があります。日本企業は日本に住む、日本人しか雇わない傾向にありますからね」(ジョナサン)

海外の人材を雇用している日本企業でも、労働ビザ取得をサポートしたりフルリモートでの働き方を認めたりしている企業はごくわずか。ブロックチェーンというキーワードに限らず、グローバルなIT技術者の雇用には課題が多い。

ブロックチェーン関係の技術書やホワイトペーパーは英語版のみしかないことも多く、日本語に翻訳されていないものも多い。英語が苦手な日本人だと、技術者として能力が高くても、情報を得ようとするところで挫折してしまうことがある。

「FLOCブロックチェーン大学校」の講師は、ブロックチェーンを活用する企業の第一線で技術者やビジネス企画者、コンサルタントとして活躍している人ばかり。実践的で臨場感ある講義を提供することで、現場での即戦力となるような教育を提供している。

「FLOCブロックチェーン大学校」には現在、ベーシックコース242名、エンジニアコース196名、ビジネスコース208名、合計646名が在籍しているという(※2019年8月現在)。体系立った講義と、即戦力になれるように現場の温度感を伝えられる講師による技術者・ビジネス企画者の養成は、成長途中にある業界に一石を投じることだろう。

参考:FLOCブロックチェーン大学校 https://floc.jp/

FLOCブロックチェーン大学校 校長 ジョナサン・アンダーウッド氏

1987年生まれ。米国出身のビットコイン研究者。ブロックチェーンにおける暗号技術の専門家として、多数の公的機関や金融機関へのアドバイスを行なう。 2015年よりブロックチェーン技術普及を目的とした教育活動に専念。2018年より「FLOCブロックチェーン大学校」の校長に就任。

取材・文/久我吉史 撮影/関口佳代

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