2019.10.28 [月]

課題ドリブン思考で進化する AWSのブロックチェーンサービス

Amazon Web Services,inc.が提供するクラウドサービスである、アマゾン ウェブ サービス(以下、AWS)で、ブロックチェーンが手軽に利用できるようになっているのをご存じだろうか。いま同社がどのようなサービスを提供し、どんなことを目指しているのかを担当者に取材した。

課題解決ありきで、複数のブロックチェーンサービスを提供

Amazon社内のビジネス課題を解決するために生まれたITインフラのノウハウを、幅広いユーザーに提供するクラウドサービスであるAWSに、今春からいくつかのブロックチェーン関連のサービスが追加された。
「Amazon Managed Blockchain」、「AWS Blockchain Templates」、「Amazon Quantum Ledger Database(以下、Amazon QLDB)」という3つのプロダクトと、AWSのお客様向けに革新的なブロックチェーンソリューションを構築する「AWSパートナーネットワーク(以下、APN)パートナーだ。

AWSの日本法人で、利用者の技術課題を解決したり、ビジネスの効率化を実現するためのシステムデザインやアーキテクチャをアドバイスする技術統括本部のレディネス&テックソリューション本部 瀧澤与一本部長は、「ちょっと前まで、ブロックチェーンはバズワードのようになっていましたが、あくまでも私たちはお客様の課題解決のためにブロックチェーンが役立つと判断して提供をはじめました」と断ったうえで、サービスについての説明を始める。

「『AWS  Blockchain Templates』は、ブロックチェーンのフレームワークをすばやく構築するために用意したテンプレートです。AWS CloudFormation で、必要な手順を自動化し、少しのパラメーターをセットしていくと、自動的に環境が作られていくというもの。Hyperledger Fabric、Ethereumに対応しています。手間のかかる手順を自動化しているので、ちょっと試してみたい、もしくはPoC(Proof of Conseptの略。概念実証)や、評価をやってみたいという方が、すぐに試すことができるのが特徴です」

従量制課金を採用しているため、ブロックチェーンに興味を持ち、ある程度ドキュメントに目を通したエンジニアが、1時間くらい試して動かし、そこで実感をつかんだ状態でビジネスを検討したり、技術のマッチングなどを考えることができる。もちろん、試す段階で止めれば、それ以上の料金がかからないのもAWSの特徴であると瀧澤氏は話す。

「AWSのようなサービスでないと、お客様はご自身でサーバーを用意する必要がありますし、スペックの制約などもある。非常に高性能なシステムを利用スタイルに応じてお使いいただけるのは魅力的だと思います」

一方、「Amazon Managed Blockchain」はスケーラブルなブロックチェーンを構築したいユーザー向けに用意されたフルマネージド型のサービスだ。独自の設定を行ない、環境をカスタマイズしたい場合は、「AWS Blockchain Templates」が適しているが、より手早く運用の手間が少ない環境を作りたい場合はAWSが運用する環境を利用する「Amazon Managed Blockchain」が向いている。

「『Amazon Managed Blockchain』は数分でフルマネージドのブロックチェーン環境を作ることができます。

単にブロックチェーンの環境を構築するだけでなく、『AWS Key Management Service (KMS) 』と呼ぶ暗号鍵を管理できるサービスを使用してユーザーアイデンティティを管理することで、ブロックチェーンネットワーク内でセキュアに通信するための登録証明書を発行するコンポーネントである、Hyperledger Fabric 認証機関の基準を保証します。 AWS Managed Blockchain を使用することにより、安全性の目的のためにハードウェアセキュリティモジュール (HSM) などの独自のセキュリティデバイスを設定する必要はなくなります。

これらは銀行の貸金庫に喩えられるかもしれません。貸金庫のボックスのなかに何が入っているかは、おそらく銀行員は誰も知らないですし、鍵の管理は利用者に行なっていただきます。そして、建物自体を堅牢に守るということは銀行が行ないますよね。そんなイメージで使ってもらえるのが、AWSのセキュリティ。こうしたメニューもブロックチェーンのサービスと一緒にお使いいただけます」(瀧澤氏)

利用者の声で進化していくAWS

6月にはソニー・ミュージックが著作権情報の管理にAWSのブロックチェーンを利用することを発表し、話題になるなど徐々に利用が進む同社のサービスだが、なかには、ブロックチェーンを使わずにビジネス課題が解決されるケースも少なくないのだとか。
スタートアップ支援をしている技術統括本部 スタートアップソリューション部の塚田朗弘マネージャーは、次のような話をしてくれた。
「ブロックチェーンの特性は、スマートコントラクト、分散合意形成アルゴリズム、対改ざん性、追跡性などがありますが、従来のデータベースで十分にビジネスの課題が解決されることも少なくありません。解決したい課題に対して、ブロックチェーンが適切か否かの見極めが大切で、AWSは課題ドリブンで最適な選択肢を豊富に用意しています」

塚田氏によると、最初はブロックチェーンでビジネス課題を解決しようと思っていたけれど、実際には不変的な台帳を求めているだけで、改ざんされていないことが保証されれば大丈夫といった案件もあるのだとか。その際は、台帳管理専用データベースで完全に暗号的に検証可能な「Amazon QLDB」を利用することのほうが良いケースもあるという。

「私たちはお客様の課題に着目してサービスを開発しています。関心があるのは、ブロックチェーンという技術というよりも、いかに課題を解決するかです。2006年からスタートしたAWSは、最初は仮想環境のEC2から始まり、データベースなどのソリューションなどにサービスが広がっています。いま日本では約10万、グローバルでは数百万のアクティブカスタマーがいるんですが、私たちはそのお客様の声をいただきながら、サービスを拡張しています。昨年1年で、ブロックチェーンを含めた機能拡充は、全部で1957件ありました。このうち90%以上がお客様からの声で追加されています。こうしたスタイルがAWSの最大の特徴であり、強みではないでしょうか」(瀧澤氏)

AWSのようなサービスで課題解決の取材としてブロックチェーンが手軽に利用できるようになれば、今後さまざまな企業で一気にブロックチェーンの実装が進む可能性がある。私たちが知らず知らずのうちに、ブロックチェーンによる便利さが身近になろうとしているのだ。

アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 レディネス&テックソリューション本部 本部長/プリンシパルソリューションアナーキテクト
瀧澤与一氏(写真右)

アマゾン ウェブ サービス ジャパン
技術統括本部 スタートアップソリューション部マネージャー/ シニアソリューションアーキテクト
塚田朗弘氏(写真左)
取材・文/編集部 撮影/篠田麦也

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