2019.10.15 [火]

スタートアップの登竜門「SXSW2020」は 社会課題を解決していくためのビジネスに注目!

毎年3月に米国テキサス州オースティンで開催される、大規模イベントSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)。1987年に音楽フェスティバルとしてスタートした同イベントは、1994年に映画祭が、1998年にはインタラクティブフェスティバルが同時に開催されるようになった。期間中にはスタートアップコンテストも開催され、過去にはTwitterやPinterestが受賞をきっかけにブレイクしている。
SXSWは、「IT・スタートアップの登竜門」「これから世界で流行るモノ・サービスを肌で感じる場」として世界中から注目を集めているが、近年その中心となるトピックが変化してきている。
今回、2012年からSXSWに参加し続け、SXSW Japan Officeとしてプロモーションを担当している宮川麻衣子氏(SXSW Japan Office /VISIONGRAPH INC.)に、SXSWのトピックの変遷と2020年の注目テーマについてお話を伺った。

ソフトからハード、そして「概念」へ

宮川氏によれば、2010年頃は「アプリやWebサービス」の出展が中心で、自己の定量化(クオンティファイド・セルフ)や位置情報を使ったサービスなどソフトウェアがSXSWの中心トピックだった。その後、2012年頃から「新しい(未来の)デバイス」、つまりハードウェアの提案が増え、ワクワクするような未来像が語られた。しかしその後、2015年くらいを境に、価値観の多様化や社会課題の健在化を受け、社会システムの見直しや課題の解決などが議論されるようになったという。そして、最近ではテクノロジーが生む新たな問題と向き合い、これからの社会のあり方や人間的な生活をする上で大切なことは何なのか?といったこれからのあるべき姿を問う対話や倫理観のいった大きな「概念」が多くのカンファレンスで語られるようになって来たということだ。
Photo by Amy E. Price/Getty Images for SXSW

――ここ数年でSXSWのテーマ・トピックは変化してきているのは、なぜでしょうか?

宮川:多様な価値観を共有し、それに伴う課題をいかに解決していくか。そのための対話や倫理観が、SXSWでの中心テーマになっている印象です。例えば、AIにどのように「良いこと/悪いこと」を説明するのかも、今の時代だからこそ取り上げられるテーマだと思います。

2018年には、「なぜ不倫が増えているのか」「愛とは何か」といったことまでカンファレンスのテーマとして取り上げられました。さらに「女性がどうしたら社会で活躍できるのか」「黒人の方が企業の採用時などに、不利益を被らないためにはどうすれば良いか」など、マイノリティや社会の仕組みそのものにも焦点が当たってきているように思います。

私たちの分析では、2019年のキーワードとして「Ethics(新しい時代に必要な倫理観・正義とは)」「Well(幸せの概念はそれぞれ)」「Inclusive(多様性・違いはわかった、どう包括された社会を作るか)」「Adaptive(より“個”に合わせて変化できているか)」「independence(中央集権的な世界の先に何があるか)」「Hype or Real(単なる広告なのか本当の兆候なのか)などが挙げられます。

また、2019年は翌年に大統領選挙を控えていることから、民主党の議員が多く講演を行っていたのも印象的です。中でも、史上最年少の女性下院議員Alexandria Ocasio-Cortez(アレクサンドリア・オカシオ=コルテス)や大統領選に立候補したBeto O’Rourke(ベト・オルーク)などは、かなりの人気を誇っていました。
コルテスは、労働者階級の家庭で育ち、若く、女性でヒスパニック系であることから「マイノリティ」という意味でも、Inclusiveなどの大きなテーマと繋がっている部分もあるでしょう。
Photo by Aaron Rogosin

2020年はより具体的なビジネスへの落とし込みが始まる?

――では、2020年のSXSWでは、どのようなテーマが中心になるのでしょうか?

宮川:あくまでも現時点の予測ですが、大きな軸として「人間とは何か」「どう生きるか」といったテーマは継続していくと思います。

SXSWのChief Programming OfficerであるHugh Forrest(ヒュー・フォレスト)がブログでも紹介していますが、「幸せをどう売買するか」など、これまで議論されてきた社会課題とビジネスを結び付け、いかに解決していくかという点にも注目が集まりそうです。

Medium 「SXSW PanelPicker: So Much Business」
(https://medium.com/@hugh_w_forrest/sxsw-panelpicker-so-much-business-8c69d023c665)

現在、2020年のパネルピッカー(公式スピーカー)の公募が締め切られ、投票が行なわれている最中ですが、その中で「ビジネス」がキーワードになっているものが796件(およそ5000件中)も含まれていました。

「ブロックチェーンの仕組みがどのようなビジネスチャンスを与えるか」など、新しい技術をいかにビジネスに活用していくかという、具体的な内容にシフトしてきています。ヒュー・フォレストは、「Cybersecurity & Ransomware: How to Protect the Business(サイバーセキュリティとランサムウェア:ビジネスを保護する方法)」など、情報セキュリティビジネスにも注目しているようです。

ブロックチェーンに関しては、今後「活用できる人/活用できない人」に分かれていくことが予測されます。活用できない人が出てくると、「個人情報を出すのか/出さないのか」といった部分で、専門のコンサルティングやプランナーが活躍する世界も考えられるでしょう。2019年は「ブロックチェーンに関わる個人情報を管理できるシステムをローンチした」というセッションがあったのですが、2020年度はさらに具体的な内容になるかもしれません。
――来年のSXSWも目が離せませんね。本日は、貴重なお話をありがとうございました。
■SXSWについての詳細、参加申し込みなどはコチラ(https://www.sxsw.com/

 宮川麻衣子氏

SXSW Japan Office /VISIONGRAPH INC.代表取締役。
大手CMプロダクションに入社後、コンテンツ戦略の企画・制作に従事する。2012年からSXSWに来場者として参加し、2013年には「未来予報」を発行。現在は、「未来に何が起こるのか」をリサーチ・分析し、その情報を基に企業のコンサルティングを行っている。著書に、2027年に生まれる (かもしれない) 50の新たな職業を描いた『10年後の働き方』(インプレス社/曽我浩太郎氏との共著)がある。
取材・文/久我裕紀 撮影/篠田麦也

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