ヘッジファンドを始め、伝統的な金融商品の多くは機関投資家や一部の富裕層をターゲットにしたものが多く、一般の投資家では安定的な利益を得るのは難しい。ビットコインのような仮想通貨、ブロックチェーンに関しても同様で、事前知識や資金がないと参入しづらいのだ。
Kronosでは仮想通貨や取引所とのマッチング、コンピューターサイエンスと統計学を活用した投資戦略などのサービスを開発。一般の投資家でも利益を得やすい環境の構築を目指している。
今回、AIre VOICE編集長の大坂氏が同社の共同経営者であるJack Tan(ジャック タン)氏と対談。Kronosの事業内容や仮想通貨の今後と課題、Jack Tan氏が目指しているゴールについて伺った。
1%の人が世界の富の50%を独占している
大坂:なぜ仮想通貨の業界に入ろうと思ったのですか?
Jack Tan:アメリカでコンピューターサイエンスに力を入れているカーネギーメロン大学を卒業したのですが、そこで出会ったエンジニアでブロックチェーンをいち早く取り扱っていた人たちの影響です。あと、伝統的な金融の多くがものすごいお金持ちのためのサービスだと感じていて、世界の1%の人が世界の富の50%を独占している現状を変えていきたいとの思いから設立しました。
大坂:Kronosの事業について教えてください。
Jack Tan:事業目的は3つあります。1つめは誰でも手軽に挑戦できる投資戦略を確立すること。2つめは仮想通貨やブロックチェーンをマッチングして業界全体に流動性をもたらすこと。3つめは手数料を抑えてサービスを提供することです。現在、社員約30名のうち3分の2がエンジニアで、トップエンジニアと数学者が在籍し、数秒後、何分後にどういうデータがあり何をすればいいのか常に分析しています。
大坂:手軽な投資ができると伺いましたが、具体的に教えていただけますか?
Jack Tan:コンピューターサイエンスと統計学を合わせることでより素早く、より正確な投資戦略を組み立てます。円やドルなどの法定通貨で投資する人もいれば、ビットコインのような仮想通貨を買う人もいますが、Kronosのサービスによってより良いリターンを得られるようにしたいのです。とはいえ投資にはリスクとリターンが付きものですから、そこは個人で判断してもらいたいと思います。
大坂:マッチングによる業界全体の流動性についてはどうですか?
Jack Tan:現状の仮想通貨取引は、国や取引所によって取引完了までのスピードも費用も異なります。Kronosが色々な国や取引所と関係を持ちつつ仮想通貨やブロックチェーンをマッチングすることで、国や取引所が異なっても同じスピード、費用で仮想通貨が売買できるようにしたいです。
大坂:最終的には誰でも投資できる環境を作れそうですね。
Jack Tan:世の中の大部分の人々には、未だに適切なファイナンシャルサービスが届いていないのが現状です。すごく先のことになるのでまだ見えてはいませんが、中距離の目標としては多くの人々に自分の生活のリスクを理解していただいて、投資しやすい環境を作り上げたいと思っています。会社で働いて得たお金をただ貯めるのではなく、投資によって金銭的なゆとりがある生活を送ってもらいたいです。
台湾は事業を始めやすい国
大坂:どうして台湾を活動の拠点にしたのですか?
Jack Tan:アジアを拠点にすることはKronosを始める前から思っていました。なぜなら、アメリカだと必要以上にレギュレーションが厳しいですし、トップエンジニアや数学者を集めるとなるとアメリカでは賃金がものすごく高くなるからです。あとは、住みやすい街に住みたいというのもあります。
大坂:つまり、台湾が条件に当てはまったわけですね。
Jack Tan:そうですね。人件費や設立資金がそれほどかからなくて事業を始めやすいこと、かつ法律の整備もそれなりに整っていたので台湾を選びました。今後も主に台湾でパートナーやクライアントを募るつもりですが、もちろんグローバル展開もする予定です。
大坂:もしアジアでレギュレーションが厳しくなったらどうしますか?
Jack Tan:アジアでレギュレーションが厳しくなる可能性はありますが、おそらく厳しくならないと思います。FacebookやTwitterなど、世界的な企業もブロックチェーン事業に参入していますし、仮想通貨、ブロックチェーンを抑えるにはもう規模が大きくなりすぎていますから。
大坂:では、そもそも国として規制することが難しいと?
Jack Tan:そうですね。たとえ台湾が禁止したとしても、他国が受け入れるでしょう。中国でも今は禁止していますが、仮想通貨を取り入れている他国の発展ぶりを見ると、いつかは解禁すると思います。歴史的にも社会のニーズが高まれば解禁する流れになりますから。
大坂:世界的に解禁するのはいつ頃になると思いますか?
Jack Tan:数十年はかかると思います。仮想通貨にはパブリックなものからプライベートなものまで数万種類あって、その中でいろんな人々が各々の考えで活動していますから、時間がかかります。解禁するであろうゴールは見えていますが、そこまでの道筋が見えていません。
大坂:そもそも仮想通貨やブロックチェーンに規制は必要だと思いますか?
Jack Tan:ある程度の規制は必要かと思います。規制はまったく必要なく自由にやりたいという人々もいますが、歴史的にも完全な自由のもと成功した事例はあまりありません。あとはその規制のさじ加減といいますか、政府の考えとイノベーションの速度を合わせられるかが肝心です。これからの数十年でどう変化していくのか楽しみにしています。
「わからなくても使える」プロダクト開発を目指して
大坂:ブロックチェーン業界は新しい業界です。その分経営で大変なことはありますか?
Jack Tan:スタートアップだからこその困難には毎日直面します。仮想通貨取引のサポート業務では、小さなミスが信用問題に発展し、会社が潰れてしまう可能性も十分にあります。そのためサービスの利用者には最上級のケアをしていますね。
大坂:最近、ある大手の取引所の経営が傾きましたよね。
Jack Tan:たとえ沢山の人々を雇っているような資金力を持つ大企業がなくなったとしても、業界全体が悪くなることはないと思っています。その取引所の経営が悪化したのはサービスの問題ではなく、経営内部の問題ではないでしょうか。
大坂:では、Kronosが同じような状況に陥ることはないと?
Jack Tan:もちろん、コントロールできる要素とできない要素があると思うのですが、我々はできる範囲でコントロールしていきます。たとえば、業界内のトップエンジニアや数学者を集めて、その人たちが正しく機能できるようエネルギーを注ぎますし、ケアも怠りません。それにゴールとミッションを明確にしながら業務をこなしていますので、もし我々が道半ばで失敗したとしても、これまで作ってきた道筋を他の誰かが辿って成功することでしょう。
大坂:最後に、今後の展望を教えてください。
Jack Tan:携帯はそのテクノロジーを一切知らなくても何となく使えます。インターネットも、その仕組みを知らなくても使えます。しかし、現在の仮想通貨やブロックチェーンは事前に知識を学ばないとほぼ使えません。仮想通貨やブロックチェーンもにおいても、携帯やインターネットと同じようにテクノロジーを知らなくても使えるプロダクトを提供したいです。
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ライター/堀本一徳 編集/YOSCA 撮影/倉持涼