コンテンツは誰のものか。YouTubeやSNSで多くのコンテンツが無料公開され、コンテンツの価値はクリエイターから掲載媒体に移行している。無料コンテンツには有料コンテンツにはない多くのリスクが存在するが、それに気づいているユーザーは少ない。
香港のLike Coin社は、コンテンツのいいね数に応じた報酬をクリエイターに与えるサービスを開発。WordPressをベースにしたサイトであれば独自のいいねボタンを導入でき、読者の評価によって報酬を得られる。今回、同社のCEOであるKin Ko(キン コウ)氏とIFA社の阿部氏が対談。Kin Ko氏に報酬が発生する仕組みやサービスのメリット、クリエイターが抱える課題について伺った。
コンテンツの価値をメディアからクリエイターに戻す
阿部:Like Coinの事業内容を詳しく教えてください。
Kin Ko:Like Coinという社名のとおり、好きなこと(like)でお金(coin)を稼げる社会を目指し、コンテンツへの「いいね」によってクリエイターへの報酬が発生する仕組みを考案しました。Facebook にはいいねボタンがありますが、どんなにいいねされても報酬は発生しません。クリエイティブなことをしてFacebookのいいね数をたくさんもらっても、クリエイターにはほぼメリットがありません。この構造を変えたいと思っています。
阿部:独自のいいねボタンを開発なさったのですか?
Kin Ko:はい。WordPressをベースにしたサイトであればインサートキーの埋め込みによってLike Coinのいいねボタンを表示でき、読者のいいねに応じて書いた人に報酬を与えられます。
阿部:報酬源は何ですか?
Kin Ko:読者のお金とICOで調達したお金です。読者は無料プランか有料プランを選べます。無料プランは実質選ぶ必要はなく、一般読者はこれに該当します。「いい記事を提供している媒体に報酬を与えたい」と考える読者は有料プランを選び、毎月5ドル支払います。その5ドルが報酬に充てられるのです。
阿部:複数の記事にいいねすることもありますよね。配当はどのように行われるのでしょうか?
Kin Ko:配当は自動で行われます。というのも、読者が課金する際に自分で金額を決めるとなると「いくらにしたらいいか」と考えてしまい、結局支払うのをやめてしまうことが多いです。毎月5ドルと決まっていれば悩むことがなく、支払いのハードルが低くなるんです。
阿部:なるほど。配当のルールは何でしょうか。
Kin Ko:その月にいいねした記事すべてに均等に分配します。1記事にしかいいねしなければその記事に5ドル、5記事にいいねすれば全記事に1ドルずつというように、5ドルをいいねした記事数で割った数がそれぞれの記事に配当されるんです。報酬はすべて記事を書いたライターに与えられ、弊社には一切入りません。
阿部:どれだけいいねしても金額は変わらない、毎月5ドルの定額プランですね。
Kin Ko:ええ、Amazon MusicやSpotifyなどのビジネスモデルを想像するとわかりやすいでしょう。Facebookのいいねボタンのように、押すだけで完結する簡単な仕組みのほうがユーザビリティが高く浸透しやすいので、AIが報酬を自動分配するようにして面倒な手続きを極力省きました。
阿部:5ドル支払わない無料ユーザーのいいねも報酬に反映されるのですか?
Kin Ko:有料ユーザーのいいねのほうが高い割合の配当金が発生するのですが、無料ユーザーのいいねでもライトコインが配当されます。その資金源はICOで投資家から得たお金です。ICOで得たお金は開発費と配当金に充てています。
阿部:チャリティのようなイメージですね。
Kin Ko:チャリティと異なるのは、ブロックチェーンにより寄付したお金がどう使われているか把握できることです。透明性と安全性があり、投資家も投資しやすいでしょう。
無料公開は権利放棄でもある
阿部:有料プランのユーザーはどれくらいいるのですか?
Kin Ko:Like Coinのコミュニティは約400名が在籍しており、毎月5ドル払っているメンバーは約200名と半数にのぼります。ライターは約1,650名いて記事数は毎日増えていますが、現在は約33,000記事あります。ほかのプラットフォームとの共同プロジェクトも計画しており、コミュニティがどんどん大きくなっています。
阿部:どんなプロジェクトですか?
Kin Ko:世界中の人々が写真を登録するサイトとの共同プロジェクトで、そのサイトに登録されている写真を記事に使用した場合、ライターだけでなくフォトグラファーにも報酬が発生する仕組みを考案しています。従来だと写真の購入費が報酬にあたりますが、読者の評価に応じた報酬が発生するようにしたいのです。
阿部:なぜそのような仕組みに変えたいのでしょうか。
Kin Ko:文章や写真の無料公開は、自分の権利をネット上にさらして放棄している状態です。Facebookで自分のコンテンツをシェアしたら、コンテンツの権利はFacebookのものになってしまう。コンテンツの権利をクリエイター自身に戻すために、自身のコンテンツがいいねやリツイートされたら、その数に応じて報酬が得られる仕組みを作りたいのです。
阿部:シェアによって報酬が生まれればコンテンツを作る意欲が湧きますし、情報が拡散されやすくなりますね。
見落とされがちな無料コンテンツのリスク
Kin Ko:Like Coinには、フルタイムで働く社員が8名、ほかにパートタイムやボランティアで働くスタッフがいて、外部契約を含めると数千人規模のメンバーがいます。それだけの力を結集してサービス開発を進めていますが、日本でも受け入れられそうでしょうか?
阿部:ブロックチェーンによりお金の流れを正確に追えるので、受け入れられると思います。毎回クレジットカード番号を入力して報酬を支払うとなると面倒ですが、自動的に手続きされるシステムであればストレスなく支払えますし、勝手に分配されるなら日本だと「自分でお金を支払った」ことにならず、厳しい規制も回避できそうです。
Kin Ko:反対に、導入の課題はありますか?
阿部:FacebookやYouTube、Googleなどの無料コンテンツが流行ったので、課金に抵抗があるかもしれません。ブロックチェーンを利用した課金システムの本質的な価値を知るには、無料コンテンツ利用の安全性が低いことを理解しなければなりませんね。こうした理解が深まり価値が理解されれば、ユーチューバーよりもライカ―(Liker)の人気が高くなるかもしれません。
Kin Ko:1999年から約20年間テック産業に携わってきましたが、ブロックチェーンはインターネット以来の革新的技術であり、ITブーム期の情熱を思い出します。世界を一新する技術にはそうそう出会えないので、ぜひ皆さんにもブロックチェーン業界の勢いを感じてほしいです。ブロックチェーン業界なら、情熱的な仕事ができるでしょう。
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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼