広告業界最大の闇は「個人情報」。ブロックチェーンで広告の好感度アップ

2019.10.01 [火]

広告業界最大の闇は「個人情報」。ブロックチェーンで広告の好感度アップ

データ分析からマーケティング施策を練るのはもはや常識で、広告には当たり前にビッグデータが活用される。企業はより多くのユーザーデータを管理できるようになったものの、ユーザーは自身のデータをほとんど管理できていない。情報が大きな価値を持つ今、個人情報を自身で管理できず一方的に利用される構造は、ユーザーにとって大きな損失だと言える。
香港のNoiz社は、データ収集にブロックチェーン技術を導入し、ユーザー自身に情報の所有権を持たせる仕組みを考案した。ユーザーデータを多く所有する広告業界の課題に着目し、業界の健全化を図る。同社のマーケティング技術者Connor Doyle(コナー ドイル)氏とAIre VOICE編集長の大坂氏が対談し、広告業界にブロックチェーンを導入するとどうなるか、ユーザーが個人情報をどう管理できるようになるか解説する。

透明化で広告のイメージアップを図る

Connor Doyle:私はマーケティングとテクノロジーが専門で、現在はデータを集める仕事をしています。中国は世界的にもデータの取り扱いにおける犯罪や詐欺が多いので、AIとブロックチェーンを使ってデータの集め方にも透明性を持たせ、改善したいのです。そして、消費者に自分自身のデータの価値を伝えたいと考えています。

広告業界最大の闇は「個人情報」。ブロックチェーンで広告の好感度アップ

大坂:どんなブロックチェーンを使用していますか?

Connor Doyle:Noizでは使用するチェーンの種類は決めておらず、イーサリアムやハーモニーなどクライアントのニーズに応じて選んでいます。ケースバイケースで最適なものを使います。

大坂:トークンも発行なさるとのことですが、どういったトークンなのでしょうか。

Connor Doyle:コミュニティベースのトークンです。トークンは広告を見ることによって付与されます。たとえばチャットボットに「あなたの好きな色は何ですか」と聞かれ、好きな色を答えるとトークンが付与されるなどです。インタラクティブな広告を通じて、ユーザーがコンピューターではなく本当の人間か確認できるという利点もあります。

大坂:広告にフォーカスなさっているのですね。広告とブロックチェーンは相性がいいと思います。改ざんできない正確なデータが集まることで、クライアントの要望にエビデンスとロジックとともに応えられるようになります。

Connor Doyle:広告業界の悪いところは無闇な提案を繰り返すことですが、こうした課題も解決できるかもしれませんね。

大坂:ただ、ブロックチェーンによって正確なデータが集まる分、データ量が膨大になると思います。たとえば全インプレッションの提出を要求された場合、ものすごい業務量になりませんか?業務量が増えて困ることはないのでしょうか。

広告業界最大の闇は「個人情報」。ブロックチェーンで広告の好感度アップ

Connor Doyle:データが増えることによって手間が増えることもありますが、かえって業務スピードが上がることもあります。データをマーケティングに活用すると、ユーザーがクリックするコンテンツに応じた広告を出せるようになりますよね。これは効率的な広告配信だと言えます。

大坂:広告がユーザーから嫌われる大きな要因は「不要な情報を見せられる」ことにありますが、自分が欲しい情報だけ届くようになれば広告のイメージが良くなるでしょうね。

Connor Doyle:ただ、私たちが本当にやりたいのはデータの所有権をユーザーに戻すことです。現在は、勝手にユーザーのデータが企業に使われている状態ですよね。

大坂:確かに、クッキーからアクセスデータなどが自動的に収集されていることは、ユーザーの不信感をあおっています。

Connor Doyle:そうではなく、ユーザー自身がデータの所有権を持ち、企業に使用許可を与えてから利用される仕組みにしたいのです。ブロックチェーンによって透明化すれば、こうした仕組みが実現できます。

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グローバル展開するならGDPRを順守すべき

大坂:新しくGDPR(EU一般データ保護規則)の問題が出てきて個人データの保護が強化されましたが、香港ではGDPRをどう捉えていますか?広告業界だとGDPRの影響力は大きいと思うのですが。

Connor Doyle:GDPRはEU内の規則なので香港は順守しなくてもいいのですが、世界的ブランドを目指しグローバル展開するうえではGDPRを考慮する必要があります。ブロックチェーンのひとつであるハーモニーの仕組みを使えば、個人情報と必要な情報を切り分けて利用できるので、GDPRにも適応できると思います。

大坂:広告が表示されアクションを起こしたらトークンを渡す、というインセンティブ設計もGDPRに適応するのでしょうか。

Connor Doyle:ユーザーの同意が得られているので、適応すると思います。データの種類や内容によって自動的に分別し、情報を会社に提供できるか判断する予定です。企業からすると「お金を出して買ったデータを何で使えないんだ」と感じますが、GDPRはこうした経緯とは関係なくユーザーが個人情報を削除する権利を持っていますから、慎重に判断しなければなりません。

大坂:権利を行使するための仕組みができているということですね。

Connor Doyle:将来的には、広告の視聴者がNoizと契約し、その契約に基づいて広告主にデータを提供する仕組みを確立したいです。本当にデータを消すかは議論中ですが、データを保持したままアクセスを制限する仕組みを作ろうかと考えています。

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大坂:ユーザーデータへのアクセスはどうやって制限するのですか。

Connor Doyle:企業がブロックチェーン上のデータにアクセスしたらユーザーに通知が届き、データ利用の可否を確認する仕組みを考えています。

大坂:通知がたくさん届くと追いきれなくなってしまうので、通知量のコントロールが必要になりそうです。その点はいかがでしょうか。

Connor Doyle:アプリを使って通知ではなく記録が確認できるようにする方法をとるかもしれません。どのデータを見られたか、使用されたかなどが確認できるようになります。

業界の闇を照らすブロックチェーン

大坂:Facebookが仮想通貨「Libra(リブラ)」を2020年に提供すると発表しましたね。

Connor Doyle:私たちは自分から情報を取りにいくのに対して、Facebookはすでに自社で情報を持っていて、それを利用して展開していきます。構造は逆ですね。Facebookのような大手が参入してくるのは、ブロックチェーン業界にとってプラスだと思います。

大坂:競合に大手が参入してくることを脅威だと捉えることもできますが、ブロックチェーン業界の人たちは全体的にFacebookの参入を前向きに捉えていますね。大手の参入により一般認知度が上がり、業界が発展しやすくなります。

Connor Doyle:広告業界や医療業界などデータやお金が不透明になりがちな業界も、今後ブロックチェーンを活用することによって健全化されそうです。

大坂:ブロックチェーンは金融業界で最も注目されていますが、その次に広告業界で大きな効果を発揮するのではないかと思っています。まだ日本では広告業界でブロックチェーンを活用する会社が少ないのですが、今後増えるでしょう。「将来ブロックチェーンを活用した広告業界で働いてみたい」と考えている人に向けて、メッセージをいただけますか?

Connor Doyle:情報社会の今、データは石油や金のように大きな資産価値を持ちます。特に広告業界はデータに依存している業界なので、今後どうやってデータを守り、安全に利用するかが注目されるでしょう。そこに情熱を持って取り組めたら、ブロックチェーン業界で社会貢献度が高い有意義な仕事ができるのではないでしょうか。

広告業界最大の闇は「個人情報」。ブロックチェーンで広告の好感度アップ

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ライター/萩原かおり 編集/YOSCA 撮影/倉持涼

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